著者
山口 卓朗
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1081, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
3

X線結晶構造解析法は,最も有力な分子構造解析法の1つであるが,解析対象化合物の結晶化が必須であるという大きな制約がある.この制約を解消する画期的な材料として登場したのが,結晶スポンジ(crystalline sponge: CS)である.CSは多孔性錯体結晶であり,孔の内部に他の化合物を取り込むことができる.解析対象化合物の溶液にCSを浸すと,溶液から取り込まれた化合物が孔の内部で単結晶のように規則正しく整列する仕組みになっており,そのままX線結晶構造解析に用いることができる.CSを用いた構造解析法は結晶化が困難な化合物や液状化合物にも適用できることから,天然物化学や合成化学の研究を迅速化すると考えられている.しかしながら,CS法にも1つ問題がある.それは,CSに取り込まれにくい化合物,いわゆる親和性が低い化合物には,取り込みを促す条件検討が必要となるため,親和性が高い化合物と比較して測定までに長時間を要することである.そこでWadaらは,効率的にCS法を用いるために,多数の化合物の中から親和性の高い化合物を選別する新規ワークフローを開発したので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Inokuma Y. et al., Nature, 495, 461-466(2013).2) Wada N. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 57, 3671-3675(2018).3) Kersten R. D. et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 16838-16844(2017).