著者
中川 哲 山口 良文
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3-4, pp.51-56, 2022-03-31 (Released:2022-04-22)
参考文献数
19

哺乳類の冬眠は,体温保持のためのエネルギーコストが増加するにも関わらず食料が不足する寒冷環境を生き延びるための生存戦略である.冬眠の際には熱産生と熱反射を能動的に抑制することで,環境温度付近まで体温が低下した低体温・低代謝状態となる.哺乳類の中で冬眠を行うものを冬眠動物と呼ぶ.冬眠動物は,ヒトやラットなど,冬眠しない哺乳類には備わっていない,低温耐性,季節特異的な脂質代謝増強機構,筋萎縮耐性,概年リズムといった,興味深い性質を数多く備えている.こうした性質は先天的なものと,季節に応じて誘導される後天的なものとに分けられることが近年の研究から明らかになりつつある.本稿では,冬眠の基本的背景を解説するとともに,分子機構解明に向けたモデル冬眠動物であるシリアンハムスターを用いた私たちのアプローチを紹介する.
著者
山口 良文
出版者
低温生物工学会
雑誌
低温生物工学会誌 (ISSN:13407902)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-15, 2020 (Released:2020-09-01)

Mammalian hibernation is a strategy to survive during harsh winter with severe hypothermia and immobility state. It has attracted many researchers for a long time but still remains to be elucidated. Studies in obligate hibernators such as ground squirrels, chipmunk, and bears have revealed that they undergo systemic body remodeling in a season-dependent manner prior to hibernation. By contrast, a facultative hibernator, Syrian hamster, can hibernate in an environment-dependent manner; when they are exposed cold and short photoperiod condition for several months, they begin to hibernate. This inducible hibernation allows researchers to study mechanisms and significance of hibernation under a laboratory condition, whereas exact nature of systemic body remodeling for hibernation in Syrian hamsters remain unclear yet. Using histology and exhaustive gene expression analyses, we compared summer-like hamsters and winter-like hamsters and found that Syrian hamsters extensively remodel white adipose tissues during a pre-hibernation period. Particularly, simultaneous up-regulation of gene expression in both lipid catabolisms and lipid anabolisms takes place in winter-like hamsters, which is a unique property of Syrian hamsters, a“food-storing” hibernator who ingests food stored in the nest during hibernation season.
著者
山口 良文
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

冬眠は、全身性の代謝抑制により低温・乾燥・飢餓といった極限環境下での長期生存を可能とする生存戦略である。冬眠する小型哺乳類であるジリスやシリアンハムスター(Mesocricetus auratus、以下ではハムと記載)は、冬眠期のあいだ、深冬眠と中途覚醒を繰り返す。深冬眠では、体温は外気温+1度まで低下し (外気温4度の場合、深部体温5-6度)、心拍数も1分間に10回程度まで低下する。深冬眠は数日から1週間近く経過したのち中途覚醒により中断される。深冬眠から中途覚醒への移行時には、体温は数時間で36度付近まで回復する。中途覚醒状態は半日程度継続し、再び体温が低下し深冬眠状態となる。ヒトやマウスなど 多くの非冬眠哺乳類は長時間の低体温下では臓器機能を保持できず死に至ることを鑑みると、こうした冬眠自体が驚異的だが、その制御機構は未だ殆ど不明である。本研究では、体温が36度から低体温へと移行開始する深冬眠導入の際に発動するシグナルの同定を目指して研究を行なっている。現在までに、ハムが冬眠に際して低体温へ移行する際に、発現が著しく上昇または低下する遺伝子を、肝臓および腎臓において多数同定した。さらに定量PCRによる経時的遺伝子発現量解析により、深冬眠特異的遺伝子の中にも体温が36度から低下するさなかに上昇する遺伝子が含まれることを明らかにした。 さらに麻酔薬で強制的に低体温 を誘導した際との遺伝子発現量を定量PCRで比較することで、これらを低体温応答の結果発現誘導されるものと、強制低体温では誘導されず深冬眠特異的に誘導されるもの、とに分類することが可能となった。これらのDTIG (Deep torpor induced gene)のうち、特に顕著な発現変動を示したDTIG1について遺伝子改変個体を作出した。