著者
山崎 佳夫
出版者
富山大学北陸経済研究所
雑誌
北研資料
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-50, 1969-09

売薬業は,古来,富山県の経済を特徴付けるユニークな産業の一つである。富山二代藩主前田正甫公の勧業に由来し,選ばれたエリートがその業にたづさわり,諸国に活躍して富山藩の財政を潤ほした昔を問わないとしても,斯業の伝統をうけ継いだ明治の先輩のなかから,北陸地方経済の資本主義形成に力となった功労者の少なくなかったことを忘れてはならない。金融業界において然り、また電力業界において然りである。この意味で,富山売薬の史的研究は興味深いものであり,かつ価値高きものであると言わなければならない。事実、幾多の貴重な研究が残され,また現在もなされている。しかしながら、本書は,史的考察を捨象して,直裁に薬業界の現状分析に入った。技術革新が喧伝され,コンピューター第3世代の今日において,なお中小の百数十社の製薬業をようし,伝来の配置方式をもってする売薬業が,わが国薬業界において、どのようなウエイトを占めているのか。否めない配置家庭薬の斜陽化をいかにして防止するのか。のみならず経営の合理化によって積極的に斯界の発展を図るには,いかに対処すべきなのか。われわれは,軽はずみな批判や地につかない施策の提案を慎まなければならない。率直に実状を伝えることから始めるのが緊要であると思う。