著者
山崎 徳子
出版者
日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.23-35, 2010-08-30

この研究の目的は,障害児学童保育Pで,自閉症のある中学生まさきが,「友だち」と呼んで同世代の子どもとかかわろうとするまでを,「私は私」と「みんなの中の私」という自己意識の観点から考察することと,彼の周囲の人々のかかわりの意味を問うことである。Pで包まれるような状態であったまさきの自己性は早期に発揮され,「私は私」という自己意識は充実したが,他者を受け止めることはできず,自己防衛的になっていた。「棒人間」を使って人とやりとりすることは,自己内の対話的関係を生み出し,さらに他者との対話的関係が豊かになり,相互に主体として受け止めることの繰り返しがなされた。まさきは自分がなりたい「良き自己」を感じ,人格を形成することの喜びや誇りを得,人にかかわろうとする志向性が生まれた。「みんなの中の私」という自己意識の元になったまさきの「内的な他者」に生命を吹き込んだのは,「障害への対応」ではなく,周囲の人々の受動的なかかわりと,まさきの成長を喜びあう心情であった。