著者
赤川 精彦 末次 康平 山形 卓也 荒木 秀明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0926, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 近年、体幹の安定性において、腹横筋や多裂筋などの体幹深部筋トレーニングが注目されている。腹横筋や多裂筋のトレーニングにおいて再発の予防には効果的である報告はあるが、疼痛の軽減に関しての報告は少ない。我々の臨床においても、腹横筋と多裂筋などの深部体幹筋トレーニングのみで疼痛が軽減することはほとんどない。安定化運動に関する無作為臨床試行論文をレビューしてみると、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果は認められていない。今回は骨盤帯正中化後に骨盤帯に対する疼痛誘発テスト、joint play test、荷重伝達テストを施行し、深部体幹筋トレーニングと疼痛が生じないよう注意を払いながら深層筋と表層筋を共同収縮させる積極的な動的安定化運動の有効性を無作為に検討したので報告する。【方法】 対象は著明な神経学的脱落所見を認めず、足部、足関節・膝関節に問題のない骨盤帯に非対称性のある3 カ月以上の罹病期間を有する慢性腰痛症例46例である。対象の内訳は罹病期間が平均13.4±7.2 週間、年齢が平均34.8 歳、性別が男性34例、女性12例である。開始時、全例に対してZEBRIS 社製床反力計PDM を用いて両脚立位と片脚立位時の床反力中心(Center of Pressure:以下COP)を測定した。理学所見は、骨盤帯アライメントの確認、片脚立位時の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係、仙腸関節のjoint play test、仙腸関節に対する疼痛誘発テスト、疼痛(visual analogue scale:以下VAS)と体幹前屈角度(finger floor distance:以下FFD)、とした。対象は全例とも当院のフローチャートに準じ骨盤帯正中化獲得後、同様に所見を記録し、両脚立位と片脚立位時のCOPを測定した。骨盤帯正中化獲得後、深部体幹筋トレーニング群と積極的安定化運動(骨盤帯の不安定性に対しては股関節内転筋群と反対側外腹斜筋の共同収縮とした。治療内容は7秒間、7 回施行)群の2群にわけ、それぞれ同様の所見を記録し、両脚立位と片脚立位時のCOPを測定し、2群間で比較検討を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 研究施行前に全対象者に対して、研究の目的、内容を提示して同意を得た。【結果】 (1)VASは深部体幹筋トレーニング群の改善は認められなかったが、積極的安定化運動群のみ有意な(P<0.01)改善を認めた。(2)FFD は、深部体幹筋トレーニング群の改善は認められなかったが、積極的安定化運動群のみ有意な(P<0.01)改善を認めた。(3)COPの総軌跡長は深部体幹筋トレーニング群の改善は認められなかったが、積極的安定化運動群のみ有意な(P<0.01)改善を認めた。仙腸関節不安定側での片脚立位は、深部体幹筋トレーニング群の改善は認められなかったが、積極的安定化運動群のみ有意(P<0.01)な改善を認めた。健側での片脚立位では両群とも変化は認められなかった。(4)COPの支持面積は、両脚立位、片脚立位ともに有意な改善は認められなかった。(5)仙腸関節のjoint play testは、深部体幹筋トレーニング群の改善は、ほとんど認められなかったが、積極的安定化運動群の改善は認められた。しかし、有意な改善ではなかった。(6) 片脚立位時の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係は、深部体幹筋トレーニング群の改善は、ほとんど認められなかったが、積極的安定化運動群の有意(P<0.01)な改善は認められた。【考察】 安定化運動に関する無作為臨床試行論文をレビューしてみると、骨盤帯痛と慢性腰痛の再発予防に対しては安定化運動が効果的であるが、腰痛の機能障害と疼痛の緩和に対する効果は認められていない。今回用いた積極的安定化運動は、レッドコードを用いることで、疼痛に配慮しながら微細な免荷を行いながら漸増的運動療法が可能な方法である。結果、従来行われている深部体幹筋トレーニングよりも積極的安定化運動直後より理学検査およびCOP の総軌跡長が治療前後に即座に有意な改善を認めたことから、積極的安定化運動の骨盤帯不安定性症例に対して、理学検査に相応して姿勢の安定性に関しても有効性が示唆されたものと考える。仙腸関節が安定する状態は、仙骨が前傾(nutation)し、仙骨に対し寛骨が後方回旋するときである。今回、仙腸関節における荷重伝達機能に着目し、荷重伝達障害が積極的安定化運動によって改善するか検討を行なった。荷重伝達障害のある仙腸関節に対し、体幹深部安定化筋群と内転筋群、外腹斜筋の筋収縮を促通することによって、重心動揺の総軌跡長は有意に減少し、荷重伝達機能の改善も認められた。仙腸関節の安定性と正常な荷重伝達を獲得するためには前部斜方向における内転筋のトレーニングが重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 仙腸関節の不安定症例に対しての深部体幹筋と同時に内転筋、外腹斜筋のトレーニングの重要性が示唆された。