- 著者
-
山形 弘隆
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.4, pp.169-174, 2017 (Released:2019-07-30)
- 参考文献数
- 42
ストレス負荷マウスやうつ病患者死後脳などの遺伝子発現解析で,細胞死関連遺伝子の発現変化が報告されている。これらの報告はうつ病と神経細胞死との関連を示唆しているが,もし神経細胞死がうつ病の原因であるならば,「うつ病は神経変性疾患なのか」という疑問も生じてくる。認知症とうつ症状との関連も報告されていることから,神経細胞死が病態と深く関わっているうつ病と,そうではないうつ病があるのかもしれないが,ICD-10やDSM-5などの操作的な診断基準では,病態が異なる「うつ症候群」がすべて「うつ病」と診断されてしまうという問題がある。この問題を解決するには,うつ病を戦略的に亜型分類し,臨床研究の結果を基礎研究で確かめるトランスレーショナルな研究を計画することが有用かもしれない。本稿では,うつ病と神経細胞死について,最近の知見や当科の研究成果を紹介しながら,うつ病研究のこれからの方向性について考察する。