著者
B. A. Fenderson 山形 達也
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.5, no.24, pp.271-285, 1993-07-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
76
被引用文献数
3 5

着床とは哺乳動物の初期胚が子宮壁に接着する発生上の複雑な過程である。ステロイドホルモンおよびサイトカインの影響下で非接着性の子宮上皮が接着性に変わることが重要である。子宮壁の接着性が変わる間に、子宮上皮の糖脂質や糖タンパク組成の変化、上皮表面の複合糖質分子の大きさや荷電の変化、内腔液に分泌される糖タンパク質のパターンの変化などを含む糖鎖の変化が沢山見られる。胚でも着床に先立って糖抗原の発現が大きく変わる。これらの発生特異的な変化が胚盤胞の子宮への接着の時間や場所を調節しているのかも知れない。着床に伴う糖鎖の役割について幾つかの検証しうる仮説が出されていて、糖鎖-タンパク質相互作用と、糖鎖-糖鎖間相互作用のどちらも有力である。
著者
Houston Katirina M. Harnett William 山形 貞子 山形 達也
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in glycoscience and glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.11, no.58, pp.43-52, 1999-03-02
参考文献数
39
被引用文献数
9

ホスホリルコリン(PC)はフィラリア(糸状虫)線虫によって分泌される多くのタンパク質(ES)に存在する免疫的に主要なエピトープであり、寄生虫が宿主の免疫応答を変えることによって生き延びることに関係していると考えられている。PCを持たないESを産生している線虫は生存期間が減少するだろうという考えに基づいて、ESへのPC付加機構の研究がなされてきた。ES-62は <i>Acanthocheilonema viteae</i> (フィラリアの齧歯類モデル)が産生するPCを持つ主なESであり、これを研究することによってPCがアスパラギン結合型糖鎖を介してタンパク質鎖に結合していることが示された。この型のPCと糖の間の結合はヒトの複合糖質には存在しないので、ESのPC-グリカンは化学療法の新しい標的となるだろう。パルス-チェイス実験からES-62へのPCの付加は、タンパク質合成の40-60分以内に起こる細胞内輸送の間というかなり早い時期に行われることが示された。細胞内輸送およびオリゴ糖のプロセッシングの阻害剤を用いた研究から、3種の試薬がES-62へのPCの付加を妨げることのできることが明らかとなった。ブレプェルディンAはERからゴルジへの輸送を阻害する; 1-デオキシノジリマイシン(dNM)はER内でα-グルコシダーゼIを阻害する。1-デオキシマンノジリマイシンは<i>cis</i>-ゴルジ内でα-マンノシダーゼIを阻害する。スワインソニンはα-グルコシダーゼIIの阻害剤であるがPCの転移は妨害しない。これらの観察からPCの付加は恐らくER以降の <i>medial</i> ゴルジ内で起こる出来事であり、PCが転移される基質はMan<sub>5</sub>GlcNAc<sub>3</sub>あるいはMan<sub>3</sub>GlcNAc<sub>3</sub>であることが示唆された。質量分析の結果はこの説明と矛盾せず、PCは3個のマンノースからなるマンノースコアに、0-1個のフコース、1-4個のGlcNAc残基を持つ糖鎖に付加していることを明らかにしている。