著者
和田 基 工藤 博典 天江 新太郎 石田 和之 上野 豪久 佐々木 英之 風間 理郎 西 功太郎 福沢 太一 田中 拡 山木 聡史 大久保 龍二 福澤 正洋 仁尾 正記
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.1217-1222, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
20
被引用文献数
2

腸管不全合併肝障害(intestinal failure associated liver disease ; 以下、IFALDと略)は腸管不全(intestinal failure ; 以下、IFと略)の致死的かつ重大な合併症であるが、IF、IFALDの発生数、発症率、死亡率などの実態は知られておらず、今後の詳細な調査、検討が期待される。IFALDが進行し、不可逆的肝不全を来たした場合には肝臓-小腸移植、多臓器移植によってしか救命できないが、国内では依然として小児の脳死ドナーからの臓器提供の困難な状態が続いており、特に小児IF症例におけるIFALDの治療と予防はIF治療における最重要課題である。長期の静脈栄養(parenteral nutrition、以下、PNと略)症例では非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis、以下、NASHと略)来たすことが示され、IFALDの発症には肝臓での脂質代謝異常が関与すると考えられている。IF症例では長期PNに伴う過栄養/低栄養、必須脂肪酸の欠乏など肝臓での脂質代謝異常を来たす要因に加え、腸管細菌叢の異常などを原因とする敗血症、肝臓の循環不全により肝細胞障害を来たし、NASH/IFALDを発症し、重症化すると考えられる。新生児・乳児期のIFでは、胆汁輸送機構の未熟性や腸内細菌叢の異常をより来たしやすいことなどから胆汁うっ滞を主体とするIFALDが問題となり、幼児、学童以降ではNASHを主体とするものが多い。IFALD治療の骨子は、1) 残存する腸管を最大限に利用し、PNへの依存度を軽減すること、2) 個々のIF症例の病態を的確に評価し、適切なPN、経腸栄養(enteral nutrition ; 以下、ENと略)を実施すること、3) 短腸症候群や腸管内容のうっ滞に伴う腸内細菌叢の異常と合併するbacterial translocation(以下、BTと略)、敗血症を最大限に予防すること、である。最近、IFALDに対する魚油由来ω3系静脈注射用脂肪製剤(商品名 : Omegaven®、以下、omegavenと略)の有効性が報告されている。omegavenは(1)胆汁流出の改善、(2)脂肪化の減少、(3)免疫抗炎症作用、といった機序により胆汁うっ滞、肝炎、線維化を軽減すると考えられている。本稿では、当院におけるIF、IFALDの治療経験とomegavenの使用経験、IFALDの病因やIFALDに対するomegavenの効果に関するこれまでの報告を紹介し、IFALDに対する治療の今後の展望について考察する。
著者
福澤 太一 西 功太郎 和田 基 佐々木 英之 風間 理郎 田中 拡 工藤 博典 安藤 亮 山木 聡史 石田 和之 仁尾 正記
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.854-859, 2012

呼吸困難を呈した巨大後縦隔成熟奇形腫の1例を経験した.症例は生後4か月,女児.周産期,新生児期に異常は指摘されていなかった.4か月時,発熱と不機嫌を主訴に近医を受診したが,翌朝から哺乳不良,傾眠となり,画像上,右巨大縦隔腫瘍を認め精査加療目的に当科に紹介された.入院時,頻呼吸および陥没呼吸を認め,白血球数30,400/μl, CRP 9.7mg/dlと高度の炎症所見を認めた.胸部CTで右胸腔を占め縦隔を左方へ圧排する最大径9cmの内部に粗大な石灰化を伴う巨大充実性腫瘍を認めた.呼吸循環が保たれていたことから炎症のコントロール目的に待機手術の方針とし,入院から5日目に右開胸縦隔腫瘍切除術を施行した.腫瘍は後縦隔原発と思われ,周囲との癒着は軽度で全摘しえた.摘出標本は9×6.5×6cmで病理組織学的に成熟奇形腫と診断された.術後創感染を合併したが,呼吸循環に関しては合併症なく経過し,23病日に退院した.術後2年再発無く外来経過観察中である.