著者
山本 晶絵
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.31-53, 2017-11-29

アイヌの古老らに対する聴き取り調査資料を主な対象とし,資料中に記述されるフクロウ類の呼称について整理・検討を行った。これは,アイヌのシマフクロウ送りに関する調査・研究の基礎として位置づけられる。本稿では,シマフクロウ Ketupa blakistoni blakistoni およびエゾフクロウ Strix uralensis japonica に関する呼称を10に大別して地方ごとに整理し,資料中に見られる“フクロウ”に関する呼称が示す種について,考察を行った。シマフクロウを指す呼称としては,“コタンコロカムイ”が北海道の最も広い範囲で見られたほか,“カムイチカプ”および“フムフムカムイ”は石狩,胆振,日高地方を 中心に,“ニヤシコロカムイ”や“アノノカカムイ”は主に十勝,釧路地方においてのみ確認することができた。雅語であったと考えられる“カムイエカシ”および“モシリコロカムイ”は,前者は日高地方,後者は釧路(根釧)地方に偏って確認されたが,今後新たな事例が追加されることで,地域差が緩やかになる可能性が高いと考えている。エゾフクロウを指す呼称としては,“クンネレクカムイ”が最頻出であった。しかし,シマフクロウと比べると全体的に事例数そのものが少なく,さらに,“クンネレクカムイ”が重点的に見られたのは釧路地方のみで,石狩,日高地方では“イソサンケカムイ”および“ユクチカプカムイ”が比較的多く見られたことから,“クンネレクカムイ”が一般的な呼称であったとは,現段階では判断できかねるとした。フクロウに関する呼称については,シマフクロウとエゾフクロウ,および他のフクロウ類を指すものが混在している可能性が高い。記述の内容からシマフクロウを指すものと推測できる事例はあったが,エゾフクロウおよび他のフクロウ類を指すと考えられる呼称に関しては,判断材料となる情報が断片的であることから検討が困難であった。対象とする資料の範囲を広げ,新たな情報を追加することで,より詳細な検討が可能になるものと考えている。