著者
吉永 悟志 境谷 栄二 吉田 宏 山本 晶子 若松 一幸 菊池 栄一 本間 昌直
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.445-449, 2007-07-05
被引用文献数
1 2

水稲の湛水直播栽培では,播種後の落水管理の普及による出芽・苗立ちの安定化にともない,酸素発生剤(カルパー)の種子への被覆量を減量する事例が増加しつつある.本報告では,東北地域においてカルパー被覆量と苗立ちとの関係を播種後落水条件で比較した試験事例を収集,解析し,寒冷地の湛水直播栽培におけるカルパー減量が苗立ちに及ぼす影響について検討を行った.ガルパー無被覆条件では,播種後落水条件であってもカルパー被覆条件と比較して苗立ち率の変動幅が増大するとともに苗立ち率が顕著に低下した.一方,カルパーの乾籾2倍重(標準条件)と乾籾1倍重(減量条件)被覆種子の苗立ちを比較すると,カルパー減量による苗立ち率の低下は供試データの平均値で約4%であり,カルパー減量の影響が小さいことが示唆された.しかしながら,播種深度や出芽期気温の影響について検討した結果,出芽期気温の低い条件ではカルパー減量による苗立ち率の低下が認められた.このため,播種後の日平均気温が15℃を下回るような低温の継続が予想される地域あるいは播種時期においては,播種後落水を行う場合でもカルパー減量の判断は慎重に行う必要があると考えられた.また,カルパー減量を前提とする場合には,標準被覆量で播種する場合よりも播種時期の気温条件に留意して播種目の設定を行う必要があるとともに,低温条件での出芽促進技術の導入を図る重要性が高まることが示唆された.