著者
山本 泰男
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.579-584, 1974-12-15 (Released:2010-06-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

胡椒の辛味性はピペリンによるもので,ピペリンのシス-異性体はほとんど辛味がない。ピペリンの辛味の閾値は5~10ppmであり,これはピペリンの水に対する溶解度(6.2μg/ml)に近い。しかも,ピペリンは非常に結晶化しやすく結晶ピペリンにはほとんど辛味がない。これがシス-異性体のシャビシンなどが辛味の本体であると誤解されてきた理由の一つである。神経細胞に刺激を与え得るほどに分散または溶解したピペリンは強烈な辛味を与える。たとえば,ピペリンのアルコール溶液を水に注ぐと直後は強烈な辛味を示すが結晶化すると辛味がなくなる。モデル実験(ピペリンの溶解状態,でん粉ペースト中,油脂の存在下,ろ紙吸着状態などでのテスト)により,このピペリンの存在状態の差による辛味性の違いを示した。粉砕胡椒の辛味性の減少の理由はシャビシンよりピペリンへの異性化(NEWMAN),ピペリンよりイソシャビシンへの異性化(CLEYN)とされてきたが,著者は精油や油状副アルカロイドに溶解分散していたピペリンが粉砕後の経時変化により結晶化して辛味度を減少するのだと考えた。