著者
山本 眞史 植村 哲也 松田 健一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本研究の目的は本質的に大きなスピン偏極率を有するハーフメタル材料のCo基ホイスラー合金と,高移動度半導体チャネル(Ge等)を融合する高品質エピタキシャルヘテロ構造の実現を通して,次世代半導体スピントロニクスの基盤を構築することである.平成24年度は,強磁性CoFe電極からMgOバリアを通したn-Geチャネルへのスピン注入の特性を実験的に詳細に検討し,以下の知見を明らかにした.CoFe/MgO/n-Ge接合に対して,2.25 nmから2.75 nm の範囲のMgOバリア厚み(t_MgO)に対して,室温で,3端子配置により明瞭なHanle信号(磁化は面内,磁場を面に垂直に印加)および逆Hanle信号(磁場を面内に印加)を観測した(スピン注入の方向: 強磁性体から半導体チャネルへのスピン注入).また,スピン信号ΔVの大きさ(Hanle信号と逆Hanle信号の和)から見積もったspin-RA積(ΔRsA=(ΔV/I_bias)A)は,例えばt_MgO=2.4 nmの接合に対して,半導体へのスピン注入の標準理論(Fert and Jaffres, 2001)の値の4桁大きな値であった.さらに,spin-RA積はt_MgOに対して指数関数的な依存性を示すことを見出した.一方,標準理論では,spin-RA積はt_MgOに対して依存性を示さない.このように,これらの実験結果は,観測されたHanle信号が半導体Geチャネルでのスピン蓄積によるというモデルでは説明できない.この結果を説明するため,トンネル接合界面に存在する局在状態での,磁場によるスピンの歳差運動によりスピン偏極率が低下し,このためフェルミレベルでのアップスピンとダウンスピンの波数が変化し,結果として,トンネル確率が磁場によって変調されるというモデルを提案した.
著者
長田 義仁 グン 剣萍 安田 和則 八木 駿郎 山本 眞史 川端 和重
出版者
北海道大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2002

(I)ソフト&ウエット人工筋肉となるゲル基本素材の創成基本素材とする高分子ゲルにダブルネットワーク-(DN)構造を導入することで、圧縮強度、引張り強度が数メガパスカル(MPa)に達する超高強度ゲルの合成法を発見した。さらに、DNゲルの第一網目における数10nm〜数μmスケールのVoid構造を系統的に変化させることで、ゲルをBrittleからDuctile的な振る舞いまで系統的に制御することに成功した。DuctileのDNゲルがNecking現象を示し、20倍までも伸びることを発見した。この優れたゲル材料を人工関節軟骨へ応用するために、低摩擦性、高強度性を併せ持ったゲルの創製を図り、その結果、破壊強度数十メガパスカル、破壊エネルギーが1000J/cm^2以上、表面摩擦係数10^<-5>〜10^<-4>という従来にないゲルの創成に成功した。(II)ゲル基本素材の生体代替運動システムへの応用展開(I)で創製したゲルは固体素材では実現不可能な柔軟性と運動性、そして耐衝撃性を併せ持つ。このゲルを人工軟骨、人工半月板に応用するために、その耐摩耗性、生体内耐久性、および生体親和性を評価した。数種類のDNゲルは100万回、走行距離延べ50kmのPinonFlat型摩耗試験で、摩耗率10^<-8>〜10^<-7>mm^3/N・mに達する高い耐摩耗性を示し、これは超高密度ポリエチレン(摩耗率10^<-7>mm^3/N・m)を凌駕する結果であり、ゲルの特性としては驚異的なものである。DNゲルのBlock皮下埋め込み試験、ペレット筋内埋め込み試験を行い、数種ゲルの中、PAMPS/PDMAAmゲルが人工軟骨の素材に最も有望であることを明らかにした。さらに、PAMPS/PDMAAmゲル人工軟骨を試作し、関節内埋植試験を行った結果、関節内異物特性は低く、使用した人工軟骨研究用標準動物モデルでは、明らかな有害性は検出されなかった。さらに、PAMPS/PDMAAゲル人工軟骨を関節表面から数mmのギャップを作るように埋植すると、この表面である生体内局所(ln situ)に正常関節(硝子)軟骨を自然再生することが出来るという、これまでの世界の常識を覆す発見をした。