著者
植村 哲也 近藤 憲治
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

半導体中の核スピンは量子力学的な重ね合わせ状態を長く維持することができ,量子計算機の量子ビットとして有望である.本研究では,強磁性電極から半導体への電気的スピン注入と核電気共鳴(NER)効果を併用し、電気的制御のみで核スピンをナノメートルスケールの空間分解能で選択的に制御できる素子を開発した.具体的には,高いスピン偏極率を有するCo2MnSi電極からGaAsへの高効率スピン注入と,スピン注入信号のゲート電圧による高効率制御を実証した.さらに,注入した電子スピンを用いて,GaおよびAs原子の核スピンを高効率に偏極し,ゲート電極に印加した高周波電場により核スピンに対するNER操作を実証した.
著者
松田 和徳 関根 和教 佐藤 豪 雫 治彦 植村 哲也 武田 憲昭
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.115-121, 2013 (Released:2014-06-01)
参考文献数
16

今回、われわれはめまいによりもたらされる日常生活の障害の程度を客観的に評価できるアンケートを用い、ジフェニドールとベタヒスチンの治療効果を比較検討した。ジフェニドールは 4 週間投与で、めまいによる社会活動性の障害、めまいを増悪させる身体の動き(頭位、視覚)、めまいによる身体行動の制限(全般的、体動)、めまいによる感情障害、めまいによる対人関係の障害、めまいによる不快感のすべての因子を有意に改善させた。ジフェニドールは抗めまい作用に加えて制吐作用を持つことから、めまいによる機能障害およびめまいに伴う不快感を改善させ、その結果、めまいによる社会的障害およびめまいによる感情障害を改善させたものと考えられた。ベタヒスチンは 4 週間投与で、めまいによる社会活動性の障害、めまいによる対人関係の障害を有意に改善させたが、その他の因子には有意な改善を認めなかった。薬理作用の点から、ベタヒスチンは 2 カ月以上の長期投与を推奨している報告もあり、めまいにより引き起こされる日常生活の障害に対するベタヒスチンによる効果を明らかにするためには、さらに長期間の投与による検討が必要であると考えられた。
著者
山本 眞史 植村 哲也 松田 健一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-05-31

本研究の目的は本質的に大きなスピン偏極率を有するハーフメタル材料のCo基ホイスラー合金と,高移動度半導体チャネル(Ge等)を融合する高品質エピタキシャルヘテロ構造の実現を通して,次世代半導体スピントロニクスの基盤を構築することである.平成24年度は,強磁性CoFe電極からMgOバリアを通したn-Geチャネルへのスピン注入の特性を実験的に詳細に検討し,以下の知見を明らかにした.CoFe/MgO/n-Ge接合に対して,2.25 nmから2.75 nm の範囲のMgOバリア厚み(t_MgO)に対して,室温で,3端子配置により明瞭なHanle信号(磁化は面内,磁場を面に垂直に印加)および逆Hanle信号(磁場を面内に印加)を観測した(スピン注入の方向: 強磁性体から半導体チャネルへのスピン注入).また,スピン信号ΔVの大きさ(Hanle信号と逆Hanle信号の和)から見積もったspin-RA積(ΔRsA=(ΔV/I_bias)A)は,例えばt_MgO=2.4 nmの接合に対して,半導体へのスピン注入の標準理論(Fert and Jaffres, 2001)の値の4桁大きな値であった.さらに,spin-RA積はt_MgOに対して指数関数的な依存性を示すことを見出した.一方,標準理論では,spin-RA積はt_MgOに対して依存性を示さない.このように,これらの実験結果は,観測されたHanle信号が半導体Geチャネルでのスピン蓄積によるというモデルでは説明できない.この結果を説明するため,トンネル接合界面に存在する局在状態での,磁場によるスピンの歳差運動によりスピン偏極率が低下し,このためフェルミレベルでのアップスピンとダウンスピンの波数が変化し,結果として,トンネル確率が磁場によって変調されるというモデルを提案した.