- 著者
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山本 美恵
- 出版者
- 富山大学比較文学会
- 雑誌
- 富大比較文学
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.1-11, 2012-12-12
本論稿では、まず第一章で、「歌舞伎」の沿革を淡い、従来の研究における「歌舞伎」の評価をまとめた。第二章では、同時代評と、「歌舞伎」の先行研究でも指摘があった、竹二の新派・旧派に捉われない姿勢が、どの程度「歌舞伎」誌面に反映されているかを考察した。作成したグラフから、実際に、竹二の新旧に公平な姿勢は「歌舞伎」誌面にも表れていることがわかった。第三章では、劇界の新しい動きを歓迎する竹二の姿勢の一つである、海外の脚本や演劇界を、どの程度「歌舞伎」に紹介していたのか、また、その紹介記事は誰によって行われていたのか、調査を行った。従来、「歌舞伎」における海外紹介記事については、鴎外の寄稿記事について指摘されることが多かったが、今回の調査で、鴎外以外にも多様な寄稿者がいることがわかった。加えて、従来注目されてこなかった地方演劇界に関する記事にも言及した。地方紹介記事は、数は多くなく一定した傾向も見られなかったが、「歌舞伎」五九号では地方特集号とでも言うべき編集形態がとられ、竹二が地方演劇界にも関心を配っていたことがわかった。また、編集者が一方的に関心を持つのではなく、地方からの投書や、劇評の寄稿といった、レスポンスが見られることも特筆される評価の一つであると言える。以上、本論考では竹二の「歌舞伎」編集方針として、新派・旧派にとらわれることなく劇評を掲載したこと、同時に海外・地方それぞれの演劇に目を配り、記事を掲載したことの二点に注目して考察した。このような編集方針をとったことで、「歌舞伎」は、歌舞伎と言う雑誌名を持ちながらも総合演劇雑誌として扱われ、当時の劇壇では屈指の存在であり続けたのであろう。