著者
渡辺 賢治 辨野 義己 山本 雅浩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

漢方薬の腸内細菌に及ぼす影響について明らかにするとともに、アレルギー発症抑制が腸内細菌の変化を介して可能であるかどうかを検討した。まず漢方薬が腸内細菌叢に対してどのような影響を与えるかを検討した。従来の培養法では細かい腸内細菌の変化を捉えることが不可能であったが、腸内細菌のDNAを制限酵素で切断して塩基長を解析するT-RFLP法を用いて解析した。その結果、漢方薬では処方ごとに腸内細菌をある一定の方向に変化させることが分かった。腸管遺伝子発現と腸内細菌との関連を調べたところ、抗生剤(シプロフロキサシン)投与にて腸内細菌が変化し、ヒートショックプロテインの発現が低下した。このヒートショックプロテインの発現は漢方薬十全大補湯にても変化し、腸内細菌の変化を伴っていた。腸内細菌のない無菌マウスではこの遺伝子発現の変化は観察されず、ヒートショックプロテインの変化には腸内細菌の存在が不可欠であることが示唆された。次に抗生剤投与モデルでアレルギーを発症しやすくなるかどうかについて検討した。まずは免疫寛容の系を確立するために予備実験を行い、卵白アルブミン10mgの単回投与にて免疫寛容の誘導できることが分かった。このモデルを用いて抗生剤(セフジトレンピポキシル、アモキシシリン、カナマイシン)を投与し、免疫寛容が誘導できないかどうかを検討した。カナマイシン投与にて少し卵白アルブミン特異的IgEの上昇が見られたものの、基本的に免疫寛容は抗生剤投与により破綻しなかった。しかしながら経口的免疫寛容を誘導しなかった群において、逆に卵白アルブミン特異的IgEの上昇が抑制されており、抗生剤投与にて何らかの免疫系の破綻を来たしていることが分かった。