著者
小池 宙 堀場 裕子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.281-286, 2018 (Released:2019-02-27)
参考文献数
20

[緒言]芎帰調血飲は『万病回春』に記載された産後一切の諸病に対して有効とされる方剤である。今回,流産後に出現し3年間持続していた全般性不安障害に対して芎帰調血飲が有効だった症例を経験したので報告する。[症例]39歳女性。生来明るい性格だったが36歳流産後より全般性不安障害を発症し人混みに留まることができなくなった。その後も不安が持続していたため漢方外来を受診した。[経過]抑肝散加陳皮半夏を約半年間内服するも症状持続したため芎帰調血飲に変更した後,精神状態が安定し日常生活の苦痛が大幅に軽減した。[考察]芎帰調血飲は『万病回春』に産後の治療薬の第一の方剤として挙げられ様々な加減での使用方法が記載されている。今回は流産以降3年間持続していた精神症状であったが芎帰調血飲に良好な反応を示した。産後に出現した症状の治療には芎帰調血飲も選択肢の一つとして検討するべきと考えられた。
著者
岡田 裕美 渡辺 賢治 鈴木 幸男 鈴木 邦彦 伊藤 剛 村主 明彦 倉持 茂 土本 寛二 石野 尚吾 花輪 壽彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.57-65, 1999-07-20
参考文献数
19
被引用文献数
5 4

症例は60歳男性で平成9年6月3日腹部不快感を主訴に北里研究所東洋医学総合研究所を受診した。半夏瀉心湯の投与により腹部症状は軽減したが, 半夏瀉心湯の服用は6月より8月まで継続した。同年8月3日より悪寒, 発熱, 倦怠感が出現した。肝機能障害を指摘されたため, 半夏瀉心湯を中止し小柴胡湯を投与した。14日当院漢方科入院となり, 抗生剤, 強力ミノファーゲンCにて経過観察した。入院時の胸部レントゲンにて左上肺野にスリガラス状陰影を認めたため, 小柴胡湯を中止した。肝機能障害は改善したが, 呼吸困難が顕著となり, 捻髪音を聴取するようになった。胸部レントゲン, 胸部CTにて間質性変化を確認し, 9月5日よりPSLの投与を開始した。経過は良好で症状, 画像所見, 検査所見とも改善を認めた。DLSTは小柴胡湯, 柴胡, 黄苓で陽性だった。当初小柴胡湯による間質性肺炎を疑ったが, 小柴胡湯投与前の他院での胸部レントゲン写真でも左上肺野のスリガラス上陰影を認めたため, 本例は半夏瀉心湯が主でさらに小柴胡湯の投与により薬剤性の肝障害ならびに間質性肺炎を発症したものと考えられた。
著者
渡辺 賢治 長崎 正朗
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

われわれはこれまでの研究により、漢方薬十全大補湯が1型インターフェロンであるインターフェロンαの遺伝子発現経路に作用してインターフェロン産生を制御していることを見出した。本研究ではさらなる機序解明のため、大腸の固有粘膜層に存在するインターフェロン(IFN)産生細胞について明らかにするとともに、Toll Like Receptor(TLR) 4およびMyD88ノックアウトマウスを使用してそのメカニズムを解明する事を試みた。その結果、十全大補湯はTLR4依存かつMyD88非依存のシグナル経路に働きかける事が明らかとなった。また、MyD88ノックアウトマウスではI型インターフェロン関連遺伝子の定常状態における発現レベルが高くなっており、十全大補湯により発現レベルが減少する事が認められ、同様の現象が無菌(GF)マウスでも認められた。さらに、それらの作用細胞は全て同じ単球系細胞であったが、既報のインターフェロン産生細胞とは異なることが示された。次に十全大補湯の感染防御能を確かめる目的でインフルエンザ感染実験を行ったが、対照群の補中益気湯と比べ、十分な抗インフルエンザ効果が認められなかった。マウスの系統やウイルスの特性によって十全大補湯の実験系に影響を及ぼす事が考えられた。また補中益気湯について、その感染防御メカニズムの一端を明らかにした。
著者
小池 宙 吉野 雄大 松本 紘太郎 竹原 朋宏 竹本 治 松浦 恵子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.238-244, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

近年,気候変動や生薬輸出国の経済発展により生薬の供給は不安定になりつつある。本稿では,生薬原料の国内生産の増加・自給率向上を目的に,需要が減少傾向にある葉タバコから生薬原料への転作の可能性について検討した。まず,転作をすすめる生薬原料として需要・品質・価格面を考慮し,当帰と柴胡を選定した。次に,これら生薬原料と葉タバコの国内生産について収益性等を比較した。当帰の収益性は葉タバコよりも低かったが,転作奨励金等で収益を補えば葉タバコからの転作が促されると考えられた。具体的には,年間3,500万円の転作奨励金により当帰の自給率は10割にまで上がるという試算結果となった。一方,柴胡の収益性は葉タバコを上回っていたが,国産品の販売価格は輸入品の約3倍であり,薬価よりも高く,生産補助金で価格競争力を補う必要があると考えられた。具体的には,年間6.6億円の生産補助金で柴胡の自給率は5割に上がるとの試算結果となった。
著者
沢井 かおり 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.203-207, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
29

防風通聖散はメタボリック症候群の治療薬として広く知られている。精神科領域では合併症としての肥満治療に用いられるが,精神症状そのものに主方として奏効した報告はほとんどない。症例は63歳のうつ病男性で,主訴は抑うつ症状である。特にきっかけなく抑うつ症状が増悪し,本が読めず好きな読書を楽しめなくなった。男性更年期を疑い,漢方治療を希望して受診した。やや実証,やや熱証,気滞,血虚と診断し,排便困難感を重視して防風通聖散を開始した。8週後本が読めるようになり,3ヵ月後には読書やテレビに集中できるようになった。その後下痢傾向になったため内服を漸減し,10ヵ月後終診となった。防風通聖散は,肥満治療のみならず,証によっては精神症状そのものに応用できる可能性が示唆された。
著者
沢井 かおり 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.278-281, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1

関節痛は,種々の整形外科的疾患や免疫性疾患などで生じるが,原因不明の場合,西洋医学的治療は限られる。今回,原因不明の多発関節痛が,補中益気湯で著明に軽快した症例を経験したので報告する。症例は48歳女性,4,5年前から易疲労感,3ヵ月前から多発関節痛がある。関節痛に関する内科的検査で異常はなかったが,疲れと肩・手首などのこわばりや痛みが持続していた。虚実・寒熱の偏りが乏しく,気虚・気滞と診断し,易疲労を重視して補中益気湯を処方したところ,3週後には関節のこわばりや痛みがほとんどなくなった。関節リウマチを含む多発関節痛が補中益気湯で軽快した報告はごく少ない。本症例では,慢性疲労症候群に準じた病態に対して,補中益気湯が補気剤として奏効した可能性が示唆された。原因不明の多発関節痛では,関節痛に多用される処方以外も選択肢として考えることが重要である。
著者
金 鍾元 渡辺 賢治 金 成俊 全 修亨
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.251-267, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
29

本研究は日本人を対象とした四象体質の分類と体質による疾病及び症状の関連性について検討する上で,参考となる情報を得る目的で行った。慶應義塾大学医学部漢方医学センター(以下「慶應大学漢方センター」と略)外来受診患者を対象に設問票を用い,四象体質診断を行い,また患者のカルテより疾病と症状を分類した。四象体質設問票は韓国のSSCQ-Pを改良したSSCQ-Jを用いた。慶應大学漢方センターの四象人分布は韓国人の四象人分布と異なった結果であり,少陰人の比率がかなり高かった。疾病分類においても,「Ⅴ.精神及び行動障碍」,「ⅩⅠ.消化系統の疾患」,「ⅩⅤ.姙娠,出産及び産後期」,「ⅩⅧ.別途分類できない症状,兆候と臨床及び検査の異常所見」の冷症疾患において少陰人の有病率が統計的に高かった。
著者
王子 剛 並木 隆雄 三谷 和男 植田 圭吾 中口 俊哉 貝沼 茂三郎 柴原 直利 三潴 忠道 小田口 浩 渡辺 賢治 藤井 泰志 喜多 敏明 小暮 敏明 小川 恵子 田原 英一 萩原 圭祐 矢久保 修嗣 南澤 潔 村松 慎一 和辻 直 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.224-230, 2014 (Released:2014-11-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

漢方医学では舌の色や形状を観察する舌診が患者の体質や病状を知る重要な手掛かりになると考えている。我が国において,舌診に関する書籍が複数発行されているが,記載内容が不統一で臨床的な舌診所見の標準的な記載方法はまだ確立してない。舌診の研究および学生への漢方教育において標準的な舌診臨床所見は必要である。そこで舌診の日本の文献(計12文献)を用いて,色調や形態の記載について比較検討した。その結果を用いて舌診に習熟した多施設の漢方専門医のコンセンサスを得た上で,舌診臨床診断記載の作成に至った。作成にあたり,実際臨床において短時間で観察し得る舌所見を捉える事と初学者でも理解し易いよう,微細な所見の違いよりも確実に捉えやすい舌診所見に重点を置いた所見記載とした。
著者
堀場 裕子 吉野 鉄大 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.298-301, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
15

月経困難症の漢方治療では,駆瘀血剤が処方されることが多く,大柴胡湯が第一選択になることは少ない。今回,月経困難症に大柴胡湯単独で奏効した2例を報告する。症例1は19歳,大学入学後から月経痛が悪化し,市販の鎮痛剤が無効であり,頭痛や嘔吐のため講義に出席できないこともあった。腹力充実,腹部膨満,胸脇苦満,左右臍傍の圧痛を認め,実証,熱証,気うつ証・瘀血証とした。大柴胡湯エキス内服4週後には月経前の頭痛や嘔気が軽減し,20週後には月経痛に対する鎮痛剤が不要となった。症例2は35歳,息子の進学問題と転居を契機に月経痛や頭痛,いらいらが出現した。腹力やや充実,腹部膨満,胸脇苦満,心下痞鞕,左右臍傍の圧痛を認め,実証,熱証,気うつ証・瘀血証とした。大柴胡湯エキス内服8週後には頭痛やイライラが消失し,20週後には月経痛は気にならなくなった。2例とも大柴胡湯にて「気うつ」が消失し,月経痛が改善した。
著者
秋山 光浩 松浦 恵子 今津 嘉宏 及川 恵美子 首藤 健治 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.17-28, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2015年に改訂される予定のICD—11に漢方医学を含む東アジア伝統医学を導入することが検討されている。このことがどのような意義があるのかを検証するために,ICDそのものの理解が必要である。本稿ではICDの歴史・意義・問題点につき整理し,何故伝統医学を入れるに至ったかの背景について述べる。ICDは,1900年から国際的に使用されている分類で,その内容も当初の死因のための分類から疾病分類の要素を加味し,さらに,保健サービスを盛り込むなど,社会の変化に対応した分類となっている。現在のわが国での活用も,死亡統計,疾病統計など各種統計調査にとどまらず,臨床研究等幅広いものとなり,今後さらにその利用範囲は拡大するものと考えられる。一方,ICD—10と医学用語の関係や臨床における疾病分類としての使い勝手など,様々な問題が山積している。また,実際に使用している国が先進国を中心に限定されており,人口の多い,アジア地域での統計が取れていない。2015年の大改訂(ICD—10からICD—11)では,紙ベースから電子データとするとともに,東アジア伝統医学分類を盛り込むことで,アジア地域へのICDの普及促進を図る。
著者
沢井 かおり 吉野 鉄大 大岸 美和子 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.235-238, 2021 (Released:2022-08-12)
参考文献数
8

漢方治療では,異なる病状の症例でも漢方的病態が同じであれば同一処方が有効であり,これを異病同治と称する。特に家族では,遺伝的素因や生活環境の共通性から漢方的病態が類似しやすい。今回,不登校の孫と易疲労の祖母に対する異病同治の症例を経験したので報告する。症例1(孫)は13歳女性,主訴は不登校である。やや実証,寒熱中間証,気逆,気滞,血虚と診断して柴胡加竜骨牡蛎湯を処方したところ,次第に登校できるようになり,集中力がついて成績もよくなった。症例2(祖母)は73歳女性,主訴は易疲労である。虚実中間証,寒熱中間証,気滞,気虚と診断して柴胡加竜骨牡蛎湯を処方したところ,体調がよくなり元気になった。不登校の孫と易疲労の祖母に対して,柴胡加竜骨牡蛎湯がいずれも奏効した。これは血縁であるということと,家庭内のトラブルという背景の一致によって,漢方的病態が似ていたためと思われた。
著者
沢井 かおり 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.311-315, 2015 (Released:2016-02-09)
参考文献数
11

発熱と易疲労感は感染症や悪性腫瘍,膠原病で生じるが,原因不明のことも多い。今回発熱と易疲労感が長期間続く女性に対し,消化器症状に注目して半夏瀉心湯を用いたところ,著明に改善した症例を経験したので報告する。 症例は47歳女性で,3年前月経不順や不正出血とともに発熱と易疲労感が出現した。夕方から38°C弱の発熱があり,朝から倦怠感が強く就業不能のこともあった。血液検査で肝機能,腎機能,炎症反応などに異常はなく,腹部CT 検査は子宮筋腫を認めるのみであった。漢方医学的診断はやや虚証,寒熱錯雑証,気滞・瘀血で,軟便・下痢傾向という消化器症状と心下痞鞕に注目して半夏瀉心湯を投与したところ,1ヵ月で発熱は37°C前後に低下し,身体が楽になって就業不能の日が減った。5ヵ月後には体温が36°C台となり,易疲労感は消失した。半夏瀉心湯は,消化器症状があり心下痞鞕を呈する症例の様々な症状に有効である可能性が示唆された。
著者
渡辺 賢治 辨野 義己 山本 雅浩
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

漢方薬の腸内細菌に及ぼす影響について明らかにするとともに、アレルギー発症抑制が腸内細菌の変化を介して可能であるかどうかを検討した。まず漢方薬が腸内細菌叢に対してどのような影響を与えるかを検討した。従来の培養法では細かい腸内細菌の変化を捉えることが不可能であったが、腸内細菌のDNAを制限酵素で切断して塩基長を解析するT-RFLP法を用いて解析した。その結果、漢方薬では処方ごとに腸内細菌をある一定の方向に変化させることが分かった。腸管遺伝子発現と腸内細菌との関連を調べたところ、抗生剤(シプロフロキサシン)投与にて腸内細菌が変化し、ヒートショックプロテインの発現が低下した。このヒートショックプロテインの発現は漢方薬十全大補湯にても変化し、腸内細菌の変化を伴っていた。腸内細菌のない無菌マウスではこの遺伝子発現の変化は観察されず、ヒートショックプロテインの変化には腸内細菌の存在が不可欠であることが示唆された。次に抗生剤投与モデルでアレルギーを発症しやすくなるかどうかについて検討した。まずは免疫寛容の系を確立するために予備実験を行い、卵白アルブミン10mgの単回投与にて免疫寛容の誘導できることが分かった。このモデルを用いて抗生剤(セフジトレンピポキシル、アモキシシリン、カナマイシン)を投与し、免疫寛容が誘導できないかどうかを検討した。カナマイシン投与にて少し卵白アルブミン特異的IgEの上昇が見られたものの、基本的に免疫寛容は抗生剤投与により破綻しなかった。しかしながら経口的免疫寛容を誘導しなかった群において、逆に卵白アルブミン特異的IgEの上昇が抑制されており、抗生剤投与にて何らかの免疫系の破綻を来たしていることが分かった。
著者
渡辺 賢治
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.471-479, 2018

<p><b>目的</b>:ICD-11に東洋医学分類が組み入れられるに至った背景,開発の経緯を概説し,その意義,課題,ならびに今後の展望につき解説する.</p><p><b>伝統医学分類の開発の経緯</b>:WHOにおける伝統医学分類の作成はWHO西太平洋地域事務局(WPRO)における伝統医学の標準化プロジェクトの一環として開始された.2008年まではWPROでの開発であったが,2009年からWHO本部としてのプロジェクトに移行し,2009年に世界中の伝統医学の代表が一同に介する会議を経て,2010年に,伝統医学の中で,東洋医学をICDの中に入れようということで,開発をスタートさせた.2013年にはベータ版が完成し,22カ国の東洋医学の専門家と言語の専門家142名によるピアレビューと,日中韓英によるフィールドテストを経て2018年 6 月にリリースされたICD-11の第26章として位置づけられた.</p><p><b>伝統医学分類の開発の意義</b>:1900年からのICDの歴史の中で,伝統医学がその中に入ったのは初めてである.その意味において,前WHO事務局長のマーガレット・チャン氏が歴史的といったのは必ずしも大げさなことではないであろう.</p><p>その一方で,西洋医学の分類に遅れること118年で,ようやく診断の体系が国際化されたに過ぎない.ICD-11に入ったことは,WHOが伝統医学の効果や安全性を認めたことではない.むしろ,有効性安全性を検証するための国際的なツールができたに過ぎない.よってこの伝統医学の章を用いてこれから説得力のあるデータを取っていくことが求められているのである.</p><p><b>伝統医学分類の今後の展望</b>:伝統医学の章の開発は日中韓を核とした国際チームによって成し遂げられた.今後は維持・普及のフェーズとなる.また,鍼灸などの介入に関してはICHIの中で位置づけられていく計画である.こうした活動の中心になる母体組織として,2018年,WHO-FICの中に伝統医学分類委員会が設置された.今後新たな伝統医学の開発も視野にいれて活動を行っている.活動の大きな柱の一つは普及である.東洋医学はアジア,オーストラリア,ニュージーランド,欧米はもちろんのこと,コロンビア,ブラジルなどの南米諸国,ロシアなどでも盛んに行われている.今後は東洋医学を行うすべての国において,伝統医学の保健統計が取得され,また,教育・研究などの分野で活用されることが期待される.</p><p><b>結論</b>:ICDの歴史の中で初めて伝統医学の章が入り,伝統医学保健統計の国際基盤ができた.今後伝統医学の統計・教育・研究の分野で活用されることが期待される.</p>
著者
西村 甲 前嶋 啓孝 荒浪 暁彦 渡邉 賀子 福澤 素子 石井 弘一 秋葉 哲生 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.867-870, 2007-09-20 (Released:2008-09-12)
参考文献数
6

背景 : 2002年以降, メディア, 出版, インターネットなどを通して様々な活動を行ってきたが, その効果あるいは外来患者の特徴について検討することがなかった。目的と方法 : 当漢方クリニック受診患者の特徴とこれまでの広報活動の効果を調査し, 将来のクリニックのあり方について検討した。平成16年11月から1年間に当クリニックを初診した患者791例 (男229, 女562) を対象に受診に至る紹介・情報源, 年齢性構成, 疾患領域について調査した。結果 : 紹介・情報源に関しては, インターネットによるものが最も多く, 他施設からの紹介が極めて低かった。女性は男性の3倍前後を占めた。患者数は女性では30歳代が最も多く, 男性では全年齢で同様であった。16歳未満と70歳以上の患者数に男女差がみられなかった。疾患領域では, 内科, 産婦人科, 皮膚科疾患が66.9%を占めた。結論 : インターネット・ホームページによる漢方診療に関する情報提供が, 患者数増加に有用であることが示唆された。紹介率が極めて低いことから, 内科, 皮膚科, 産婦人科を中心に病診連携機能を高めていく必要がある。
著者
宗形 佳織 渡辺 賢治
雑誌
消化と吸収 (ISSN:03893626)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.185-188, 2010-07-30
参考文献数
3
著者
渡辺 賢治
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.471-479, 2018-12-28 (Released:2019-02-16)
参考文献数
20

目的:ICD-11に東洋医学分類が組み入れられるに至った背景,開発の経緯を概説し,その意義,課題,ならびに今後の展望につき解説する.伝統医学分類の開発の経緯:WHOにおける伝統医学分類の作成はWHO西太平洋地域事務局(WPRO)における伝統医学の標準化プロジェクトの一環として開始された.2008年まではWPROでの開発であったが,2009年からWHO本部としてのプロジェクトに移行し,2009年に世界中の伝統医学の代表が一同に介する会議を経て,2010年に,伝統医学の中で,東洋医学をICDの中に入れようということで,開発をスタートさせた.2013年にはベータ版が完成し,22カ国の東洋医学の専門家と言語の専門家142名によるピアレビューと,日中韓英によるフィールドテストを経て2018年 6 月にリリースされたICD-11の第26章として位置づけられた.伝統医学分類の開発の意義:1900年からのICDの歴史の中で,伝統医学がその中に入ったのは初めてである.その意味において,前WHO事務局長のマーガレット・チャン氏が歴史的といったのは必ずしも大げさなことではないであろう.その一方で,西洋医学の分類に遅れること118年で,ようやく診断の体系が国際化されたに過ぎない.ICD-11に入ったことは,WHOが伝統医学の効果や安全性を認めたことではない.むしろ,有効性安全性を検証するための国際的なツールができたに過ぎない.よってこの伝統医学の章を用いてこれから説得力のあるデータを取っていくことが求められているのである.伝統医学分類の今後の展望:伝統医学の章の開発は日中韓を核とした国際チームによって成し遂げられた.今後は維持・普及のフェーズとなる.また,鍼灸などの介入に関してはICHIの中で位置づけられていく計画である.こうした活動の中心になる母体組織として,2018年,WHO-FICの中に伝統医学分類委員会が設置された.今後新たな伝統医学の開発も視野にいれて活動を行っている.活動の大きな柱の一つは普及である.東洋医学はアジア,オーストラリア,ニュージーランド,欧米はもちろんのこと,コロンビア,ブラジルなどの南米諸国,ロシアなどでも盛んに行われている.今後は東洋医学を行うすべての国において,伝統医学の保健統計が取得され,また,教育・研究などの分野で活用されることが期待される.結論:ICDの歴史の中で初めて伝統医学の章が入り,伝統医学保健統計の国際基盤ができた.今後伝統医学の統計・教育・研究の分野で活用されることが期待される.