著者
山村 尚子
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.587-589, 1998
参考文献数
7

重篤な基礎疾患や病状の悪化により,昏睡状態に陥ったが,救命医療により意識の回復をみた連続38例を対象に,臨死体験の有無とその内容を調査した。連続38例中14例(37%)に臨死体験をみた。体験内容では,虚空感,平和の情感,自己観察,フラッシュバック,死者との遭遇,帰還などの要素をみることができたが,欧米に多いトンネル体験はみられなかった。臨死体験の終末医療への応用の可能性としては,i)臨死状態から回復した患者の体験内容に耳を傾けることが,不安をもつ患者の心の支えになる,ii)終末期にある患者の不安や恐怖に対して,慰めと安らぎを与えることができる,iii)死に直面した経験がないものでも,死に対する知識をもち,患者に対応できるようになりうる,iv)臨床科学の研究面を拡大する可能性があるといった点であった。

1 0 0 0 OA 臨死体験

著者
山村 尚子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.103-115, 1998-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
47
被引用文献数
2 1

意識状態が Japan coma scale で300の昏睡に陥った連続38例につき, 蘇生回復後, 同一医師が同一プロトコールで臨死体験の有無を問診し, 14例, 37%に体験をみとめた.体験ありの例14例に対して, 体験なしの24例を対照として, 年齢, 性別, 原因疾患, 職業, 宗教, 学歴, 体験場所, 使用薬物などによる出現頻度ならびにオッズ比を比較した. 体験場所として病院が高率であったが, 院内故に重症者も救命される率が高いためとみられた. 原因疾患では自殺企図者に1例も体験がなかった. その他に関しては, 体験の有無による群間に差をみず, これらの臨床背景因子が体験の出現, 不出現を分けることはなかった.体験の型として, 超越型, 自己観察型, フラッシュバック型の3型をみとめたが, 欧米に多いトンネル体験の型はみとめなかった. 体験の構成要素としては, 暗闇の虚空と先方の薄明り, 死者との遭遇, 小川, 川, 溜池といった要素がみとめられた.臨死体験の影響として, 死の恐怖が緩和したと述べたものがみられ, その後の生活態度が内省的になり, 精神的影響をうけたとするものが, 対照群に比べて有意に多かった. 体験なしの群では, 意識が300のレベルに陥る疾患に罹患しながら, その経験を日常的健康問題と捉えた例が多かったのと対照的であった.臨死体験例の研究結果として, 高齢者の終末医療に益すると考えられた点は, (i) 死あるいは死に至る過程に関する体験的知識を収集することができた, (ii) 体験者では死に対する不安, 恐怖がないか, 極めて少ないことが分かった, (iii) 終末医療に従事するものが心すべきことが示唆された点であった.