- 著者
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宋 一〓
山根 爽一
何 鎧光
陳 文雄
- 出版者
- 日本昆虫学会
- 雑誌
- 昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.2, pp.33-45, 2006-06-25
- 参考文献数
- 48
- 被引用文献数
-
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タイワンハリナシバチ(Trigona ventralis hoozana)と台湾産トウヨウミツバチ(Apis cerana ssp.)の地理的分布を,過去の文献・標本と1994年から2005年にかけて著者らが全15縣と2市の42地点で行った調査に基づいて調べた.ハリナシバチは,台湾島を南北に貫く縦貫山脈の中部から南部にかけての山地で,海抜250〜2,500mの範囲の森林地帯で確認された.それらは,台中縣と南投縣,嘉義縣,高雄縣の4縣,22地点にわたる(高雄縣は今回正式に確認).一方,トウヨウミツバチは全島の海抜3,300m以下の地域に広く分布し,それはハリナシバチの生息域を完全にカバーしている.観察したハリナシバチの40巣(うち33巣は飼育巣)はすべて大樹の空洞に作られていた.最も高い所は20mであった.巣の発見された樹種はクスノキ科とムクロジ科,サルスベリ科,ニレ科,マツ科で,クスノキ科がもっとも多かった.ミツバチの22巣は,岩石の間隙がもっとも多く(約60%),大樹の根元の空洞や電柱や木箱などでも発見された.このように,ハリナシバチとミツバチは営巣場所の選択において,明確な違いを有し,両種の営巣場所をめぐる競争は,仮にあっても弱いものと推測された.ハリナシバチの分布が台湾島の山地に限られる理由は,台湾人が大陸から渡来して以来,特に戦前の日本統治時代から戦後の経済急成長期にかけて平地部や低山地の森林が伐採され,営巣に適する大樹が著しく減少したためと思われる。