著者
名塚 健史 猪狩 寛城 竹中 良孝 山田 智教 諸澄 孝宜 谷口 剛俊 立谷 守
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2283-CbPI2283, 2011

【目的】<BR> 我々は,2006年の全国高校野球選手権埼玉県大会(夏季大会)より年間3大会(春・夏・秋)の理学療法士(PT)によるメディカルサポートを開始し5年が経過した。本報告の目的は,5年間のメディカルサポートの対象となった部位や障害・外傷,またそれらへの介入内容を明らかにし,サポート内容を振り返る事で今後の課題を明確にしていく事である。<BR>【方法】<BR> 対象は2006年の夏季大会から2010年の秋季大会までの14大会のうちメディカルサポートを実施した95試合とした。2006年から2008年までは夏季大会はベスト8以降,春・秋季大会はベスト4以降,2009年以降では夏季大会はベスト16以降,春・秋季大会はベスト8以降の試合に対し活動を行った。<BR> メディカルサポートの内容は,試合前はテーピング,試合中は外傷のチェックと応急処置,試合後はクーリングダウンとしてストレッチ指導を実施した。また試合後は必要があればテーピング・アイシング・ストレッチの指導も実施した。なおクーリングダウンは2007年の夏季大会から開始し,原則は全ての高校が対象だが精神面も考慮し敗戦校は希望制としている。<BR>【説明と同意】<BR> 本報告の目的および個人情報保護について埼玉県高等学校野球連盟(高野連)に十分に説明し,同意を得た。<BR>【結果】<BR> 5年間でメディカルサポートに参加したPTはのべ223名であり、1会場平均4.2名であった。デッドボールなどアクシデント後にベンチなどで確認を行った件数は267件、実際にPTが何らかの技術的介入をしたのは178件であった。介入部位としては大腿部が最も多く,続いて肩関節・腰部・下腿・肘関節の順であり,上肢38%,下肢45%,頭部・体幹17%であった。介入の内容としてはアイシングが44%と最も多く,続いてストレッチ35%,テーピング19%,その他2%の順であった。また骨折の疑いや熱中症などで救急搬送が行われたのは3件だった。<BR> 試合中のアクシデントによる外傷と試合以前からの障害の割合は,外傷59%,障害38%,その他3%であった。外傷の受傷機転はデッドボール47%,守備中25%,走塁中15%,自打球3%,その他10%であった。また介入時期の割合は試合前7%,試合中31%,試合後62%であった。<BR>【考察】<BR> 実際に対応を行ったのは野球の競技特性でもある上肢よりも下肢の方が多かった。下肢の障害としては肉離れ,慢性的な足関節捻挫,熱中症に伴う下腿筋けいれんが多かった。また慢性的な障害よりもデッドボールやプレー中のアクシデントによる外傷への対応が多かったのも下肢の介入件数が多かった理由ではないかと考えられる。この結果より,野球というオーバーヘッドスポーツに対しても上肢のみではなく全身への介入が求められ,幅広い知識が必要となる。また外傷が多いことから外傷に対する素早い応急処置の技術の向上が必要であると考える。<BR> 介入時期としては試合後に多くなっており,これはクーリングダウンを開始した07年夏以降著明にみられ,クーリングダウン時に選手とコミュニケーションをとる事で疼痛の訴えを聞きやすい状況にあるのではないかと考える。試合後の介入としてはストレッチが最も多く,選手の訴えに対する的確な評価とそれに対応するストレッチ法の指導が必要になると考える。<BR> 試合以前からの障害が全体の38%を占めるにも関わらず,試合前の介入が全体の7%となった。これは試合前には何らかの障害があっても訴えにくい環境があること,また大会後半からの介入のためトレーナーが帯同している高校が多く,テーピングなどの事前処置はトレーナーが対応しているケースが多いことが考えられる。また大会後に詳細な介入結果の提示が出来ていなかったため,メディカルサポートで何ができるのか指導者側にうまく把握してもらっていない状況があると考える。早急にこの結果の提示と,それをもとに高野連・指導者と勉強会を行い,PTがどのように考えどのような介入を行っているのかを伝える必要があると考える。<BR> また参加人数は1日原則4名体制だが,シフトの関係上2名でサポートを行い,試合後のクーリングダウンで投手・野手を分けて行えなかった日程があった。これはアナウンスの時期が遅い,継続して参加するスタッフが少ないなどの問題点が上がった。今後は現場経験の少ない理学療法士でも参加しやすいよう,現場で必要な知識や技術を身につけてもらえるように年数回,段階的に勉強会を行うことを計画している。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 5年間の埼玉県における高校野球のメディカルサポートの内容を整理し,今後の課題を明らかにした。これらをもとに,メディカルサポートに関わる理学療法士の育成のための勉強会や実技講習会,また選手や指導者にフィードバックすることで障害予防へつながる有益な資料となると考える。
著者
名塚 健史 遠藤 浩士 長瀬 エリカ 佐々木 良江 鮫島 菜穂子 竹中 良孝 北村 直美 浦川 宰 根岸 朋也 山田 智教 藤縄 理 高倉 保幸
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 2007-04-20

【はじめに】今回、埼玉県理学療法士会スポーツリハビリテーション推進委員会(以下スポリハ委員会)では埼玉県高等学校野球連盟(以下高野連)の依頼により、第88回全国高等学校野球選手権埼玉大会(以下選手権大会)、秋季埼玉県高等学校野球大会(以下秋季大会)でメディカルサポートを実施した。そこで、実際の活動内容と今後の課題について考察し報告する。<BR><BR>【方法】選手権大会は準々決勝、準決勝、決勝の7試合、2球場で各日程4名、秋季大会は準決勝、決勝の3試合、1球場で各日2名の体制でサポートを行った。サポートスタッフはスポリハ委員会の中から甲子園でのサポート、スポーツ現場での活動経験があるメンバーを中心に構成した。サポート内容は試合前後のコンデショニング・テーピングなど、試合中は所定の場所で待機し、デッドボールなど緊急時の対応を行った。実際に行ったサポートの内容はすべて記録し、1日毎終了後高野連側へ提出した。<BR><BR>【結果】実際の活動は、テーピング、外傷に対するチェックと応急処置、試合後のコンディショニングが活動の中心であった。選手権大会はテーピング2件、外傷後のチェック約15件、アイシング2件、熱中症の対応数件、コンディショニング1件であり、秋季大会はテーピング1件、外傷後のチェック約8件、アイシング1件、コンディショニング4件であった。最も多かったのは外傷後のチェックとコンディショニングであり、1試合平均3~4件程度の活動を行った。部位の内訳は、テーピングは肘関節2件、手関節1件、コンディショニングを利用したのは2チーム5名で下肢1件、肩関節2件、腰部2件であった。<BR><BR>【考察】全体的に活動の件数が少ない傾向にあった。外傷のチェックは圧痛や運動痛など疼痛の問診を中心に行ったが、選手は試合を続けたいがために症状を正確に伝えていない可能性が考えられた。また、今回の活動は埼玉県の高野連では初めての試みであり、事前の説明が不足していたことも加わって選手や監督にサポートの内容が浸透していなかった可能性が考えられる。このため、潜在的には今回関わった以上の傷害が生じていた事が予測された。このことより、事前の組み合わせ抽選会などで理学療法士が直接サポートの説明やストレッチのデモンストレーション、障害予防の講演などを行い、サポート活動や障害予防に対する認識を向上させる必要があると感じた。今後も春季大会、夏の選手権大会、秋季大会とサポートを行うことが決まっており、サポート内容、質の向上、事前の啓蒙活動などが今後の検討課題となった。<BR>