- 著者
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山田 達也
- 出版者
- メディカル・サイエンス・インターナショナル
- 巻号頁・発行日
- pp.124-128, 2010-02-01
下行大動脈手術後の対麻痺は,患者のQOLや予後に大きく影響する重大な合併症である。この脊髄虚血による対麻痺の発生頻度は減少しつつあるものの,下行大動脈手術後で10%前後1),胸腹部大動脈瘤術後では10~20%2)と報告されている。
脊髄は1本の前脊髄動脈と1対の後脊髄動脈からの血流を受けており,前脊髄動脈は運動領域である脊髄前面の2/3を,後脊髄動脈は知覚領域である脊髄後面の1/3に血液を供給している。これらの脊髄動脈は上位から椎骨動脈,上行頸動脈,深頸動脈,肋間動脈,腰動脈などから血流を受けているが,特に胸髄領域の前脊髄動脈は,ごく一部の前根動脈から血流を供給されており,これをAdamkiewicz動脈あるいは大前根動脈という。Adamkiewicz動脈は神経根に沿って脊髄レベルに到達し,ヘアピンカーブを描きながら前脊髄動脈に流入する。この特徴的な走行が術前の造影MRIやCTによる同定の決め手となっている。下行大動脈手術後に運動麻痺をきたすのはこの動脈の血流が障害を受けるためとされている。
脊髄保護は心筋保護に例えると理解が容易となる(表1)。脊髄のkey arteryはAdamkiewicz動脈であり,心筋における冠動脈に相当する。虚血には虚血時間,遮断中の側副血行路や灌流圧の維持,虚血中の酸素消費量などが関係し,今回のテーマである脳脊髄液(CSF)ドレナージは遮断中の灌流圧の維持を目的に行われる。ここではCSFドレナージの意義について概説する。