著者
小柳 恭治 志村 洋 山県 浩 永田 三郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.55-70, 1980-03-15

本稿は、わが国におけるオプタコン研究の現状を展望したものであり、これまでに明らかにされてきたオプタコン触読における文字パターン認識のメカニズムや、今後さらに研究を要する諸問題について論議を展開した。1.オプタコン触読訓練プログラムにおいても、「文字→単語→語句→文→文章」の順に学習のステップを組むことが、その読み取りの能力を高めるうえに効果的である。2.最初にカタカナおよびひらがなを学習し、そのあとで漢字を学習したほうが、文字パターンの構成要素についての学習効果の転移その他の面で、より有効である。3.アルファベットやカタカタナ、ひらがなおよび字形が比較的簡単な漢字の場合には、いわゆる<決定的特徴・I型>の把握によって、文字パターン識別が可能である。4.しかし、比較的字形の複雑な漢字の場合にはそれだけでは不十分であり、そこに文字パターンの「分解=合成提示」と、文字の"似顔絵"ともいうべき<決定的特徴・II型>の導入により、字形の全体一部分関係の把握を強める手だてが必要である。5.その文字パターンの<決定的特徴・II型>の導入は、それぞれの文字の触覚的な入力パターンと、記憶の中に定着しているそれぞれの文字の標準パターン(原型)との比較照合過程についての情報処理論とゲシュタルト理論とを統合した考え方によるものである。6.オプタコン触読における誤読傾向の分析は、触知覚による文字パターン認識のメカニズムを知るうえに有力な手がかりとなる。とくに漢字の場合の読み誤りの傾向は、盲人の触覚パターン認識と弱視者の視覚パターン認識との間である共通した原理が働くことを示唆するものとして興味深い。7.漢字辞典でいうところのいわゆる伝統的な部首を考慮しながら、オプタコン触読のための新しい部首の設定を行い、それによって文字パターン識別をより効率化するための漢字のグループ分けの研究が今後必要である。8.学年配当教育漢字の画数の平均値をみると、1年生から2年生にかけてかなり増加し、さらに、3、4年生でも若干増えているが、それ以降はほとんど変わりがない。したがって、高学年になると字形が複雑になり、オプタコン触読が困難になるという心配はない。9.目が見えない子どもたちにも、適切な指導をすれば、表意文字としての漢字の成り立ちやその使い方のおもしろさが理解できる。もちろん、そこには個人差がある。10.文字や数字、記号のみならず、図や表、グラフなども、あまり複雑なものでなければ、オプタコンで読み取ることが可能である。11.教育漢字996字を習得すれば、漢字出現頻度数からいって、一般の漢字かなまじり文をかなりの程度読み取ることができる。12.英文タイプやカナタイプだけではなく、「日本語ワードプロセッサ」などとの併用により、盲人用読書器としてのオプタコンの利用価値は、今後さらに高まっていくであろう。