著者
山西 倫太郎 板東 紀子 木本 真順美
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々は、これまでにマウスに高ビタミンEとともにβ-カロテンを摂取させた場合には、抗原斐与により誘導されるIgE抗体の産生が低下し、そして1型ヘルパーT細胞活性が亢進していることを報告している。本研究では、β-カロテンカ晩疫系に対してこのような影響を及ぼすメカニズムを解析することを目的とした。そこで、まずβ-カロテンを摂取したマウスの脾細胞およびそこに含まれる抗原提示細胞を実験材料に種々の検討を行った。また、マウスマクロファージ培養細胞RAW264を用いて、培地にβ-カロテンを添加することにより、β-カロテンの作月のより詳細な分析を行った。β-カロテンを摂取したマウスでは、β-カロテン投与量に応じて脾細胞のβ-カロテン蓄積量が増加し、それに呼応してグルタチオン量が亢進していることを竜出した。その際、グルタチオン合成酵素mRNA量が増加していることも突き止めた。さらに、脾臓細胞のプラスチック付着画分(抗原提示細胞リッチ画分)において、抗原呈示に関与するシステインーカテプシンの活性が亢進していることが判明した。培養細胞実験系では、細胞へのβ・カロテンの蓄積後、細胞膜の脂質過酸化が起こり、その後グルタチオン量の増加が生じるという時間的関係性が明らかとなった。以上より、β-カロテンはそのredox activityにより田胞内のグルタチオン合成を亢進させ、それに由来する還元性に基いて抗原呈示を活性化させるというメカニズムが強く示唆された。今回の研究によって、β-カロテンの免疫調節における作用機序が明らかとなったわけであるが、それにより、どのような場合に、β-カロテンの摂取による効果的な免疫賦活が見込めるのかを判断することができるようになる。この成果は、健康増進の観点からβ-カロテンやそれを含む緑黄色野菜・果物の効果的な摂取を企図する場合に、役に立っ知見であると見込まれる。
著者
山西 倫太郎
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.764-771, 2009-11-01 (Released:2011-07-28)
参考文献数
52

国民の健康志向とともに,食品に対する免疫調節への期待は高まっている.そして,近年は衛生仮説やToll-like receptorを介した自然免疫系の研究の進展を背景に,プロバイオティクスによる免疫調節の研究が盛んであり,知識の集積が進んでいる.一方,β-カロテンなどのカロテノイドによる免疫系への作用の研究も比較的古くから行なわれており,報告されている作用の種類も多岐にわたっている.ここでは,免疫に関するカロテノイド研究のこれまでを振り返り,その中から β-カロテンが抗原呈示細胞に及ぼす影響に関する研究についてその背景・現況を紹介するとともに,カロテノイド研究の今後の課題に言及する.