著者
寺尾 純二 板東 紀子 室田 佳恵子
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

フィチン酸(Phytic acid:inositol hexaphosphaste:IP6)は.穀類豆類に広く分布し日常摂取する一般的な食品成分であるが.その強力な金属イオンキレート力には潜在的な生理機能性が存在するはずである。本研究は消化管の酸化ストレス抑制に対するフィチン酸の有効性を明らかにすることを目指すものであるがフィチン酸(IP6)とその部分加水分解物(IP5〜IP2)の(1)キレート能(2)リポソーム膜の鉄イオン依存性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性,(3)ラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性(in vitro系)の評価を行った。その結果(1)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順にキレート能が強まった。(2)リン酸数に従い,IP2<IP3<IP4<IP5<IP6の順に抗酸化活性が強まったがIP3以上ではIP6に匹敵する抗酸化活性がみとめられた。(3)IP3はIP6と同程度の粘膜酸化抑制作用を発揮することが明らかであった。さらにラット大腸粘膜の鉄イオン性脂質過酸化反応に対する抗酸化活性をex vivo系で評価することを試みた。フィチン酸投与群と無投与群(対照群)から18時間後に大腸粘膜を採取し鉄イオン誘導脂質過酸化反応を行ったところ,TBARS量,ヘキサナール量.4-ヒドロキシノネナール量においてフィチン酸群が無投与群よりも低値を示した。以上のことは、日常摂取するフィチン酸は実際に消化管での酸化ストレス防御に働くことを示すものであり.食品成分として摂取したIP6が消化管内で腸内細菌由来のフィターゼによる加水分解を受ける過程においても、生じた加水分解物が十分に抗酸化作用を発揮できることを示唆するものである。
著者
山西 倫太郎 板東 紀子 木本 真順美
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

我々は、これまでにマウスに高ビタミンEとともにβ-カロテンを摂取させた場合には、抗原斐与により誘導されるIgE抗体の産生が低下し、そして1型ヘルパーT細胞活性が亢進していることを報告している。本研究では、β-カロテンカ晩疫系に対してこのような影響を及ぼすメカニズムを解析することを目的とした。そこで、まずβ-カロテンを摂取したマウスの脾細胞およびそこに含まれる抗原提示細胞を実験材料に種々の検討を行った。また、マウスマクロファージ培養細胞RAW264を用いて、培地にβ-カロテンを添加することにより、β-カロテンの作月のより詳細な分析を行った。β-カロテンを摂取したマウスでは、β-カロテン投与量に応じて脾細胞のβ-カロテン蓄積量が増加し、それに呼応してグルタチオン量が亢進していることを竜出した。その際、グルタチオン合成酵素mRNA量が増加していることも突き止めた。さらに、脾臓細胞のプラスチック付着画分(抗原提示細胞リッチ画分)において、抗原呈示に関与するシステインーカテプシンの活性が亢進していることが判明した。培養細胞実験系では、細胞へのβ・カロテンの蓄積後、細胞膜の脂質過酸化が起こり、その後グルタチオン量の増加が生じるという時間的関係性が明らかとなった。以上より、β-カロテンはそのredox activityにより田胞内のグルタチオン合成を亢進させ、それに由来する還元性に基いて抗原呈示を活性化させるというメカニズムが強く示唆された。今回の研究によって、β-カロテンの免疫調節における作用機序が明らかとなったわけであるが、それにより、どのような場合に、β-カロテンの摂取による効果的な免疫賦活が見込めるのかを判断することができるようになる。この成果は、健康増進の観点からβ-カロテンやそれを含む緑黄色野菜・果物の効果的な摂取を企図する場合に、役に立っ知見であると見込まれる。