著者
岡本 義雄
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地学教育において,中高の教室で岩石薄片観察を実際に行うことはとても意義深く,生徒へのインパクトも大きい.しかし実施に当たっては2つの困難がつきまとう.偏光顕微鏡の準備と岩石薄片の準備である.本研究ではその困難の解決の一手法をその1(観察編,自作偏光ユニットの製作),その2(製作編,岩石カッターと研磨機の製作)に分けて紹介する.本編はその1を論ずる.タイトルの2.0は,従来の手作業に頼る伝統手法を1.0とし.その改良版を意味する.なお筆者は岩石学の専門家ではないので,改良点など指摘いただきたい. 教室での薄片観察には必須の偏光顕微鏡を,簡易手法により構築する.従来から簡易型の偏光顕微鏡の提案は数多いが,市販の双眼実体顕微鏡に自作の偏光ユニットを組み合わせる方法をここでは提案する.通販サイトで売られる安価な中国製の双眼実体顕微鏡は現在1万円台で入手できる.倍率は20倍と40倍に切り替えられ,下部および,上部からのLED照明を持っているため,岩石薄片の観察には好都合である. このステージ上に載せる偏光ユニットを次の方法で製作する.1)回転台:中国通販で入手できる安価な回転テーブル(約70mm角,中央に37mmの孔,400円程度)2)偏光フィルム:国内通販で入手できるもの(80mm角が10枚入って千円程度)を1/4に切って使用 3)アクリル板: 70mm角,5mm厚に直径25mm程度の孔をホールソーで開けたもの,及び上部偏光板取付用の45×90mm,3mm厚のアクリル板で構成する.アクリル板は端材として格安に販売するサイトから入手する. 組み立ては回転台を5mm厚のアクリル板に4mmビスで締め付け,同時に下の台と回転台の間に偏光フィルム1枚を挟む.上記とは直角方向に偏光フィルムを貼り付けた上部偏光板を作る.偏光フィルムの取り付けはセロハンテープで充分である.これを薄片の上部で回転して出し入れできるように取り付け台を工夫する.パーツの接着は液体のアクリル接着剤を用いる.双眼実体顕微鏡のステージ上にセットした,偏光ユニットに薄片を挟んで観察を行う.さらにこの生徒用顕微鏡セットとは別に,安価なUSB顕微鏡(国内通販で8000円程度)と組み合わせて,教室全体に提示して観察ポイントの説明を行った.USB顕微鏡は通常下部LED光源がないので,白色LED光源の選定と製作も合わせて行った. 筆者は生徒実習用にこのユニットを10台,さらに回転台を省いた簡易型の薄片を挟むだけの構造のもの20台(薄片の回転は手動で行う),従来の専門家用鉱物顕微鏡12台の計42台(生徒1人に1台)を用意した.高校地学基礎の42名クラスで,全員にいずれかの観察装置をあてがい,薄片観察実習を行った.50分の時間で花崗岩,安山岩,玄武岩,はんれい岩の薄片観察を順に行った(薄片の製作は筆者発表のその2を参照).さらに前述のUSB顕微鏡にこの偏光ユニットを付けた装置で,薄片観察の要点を大型モニタに映すことで,次の観察の要点を適宜指導した.1)無色鉱物の見分け方;石英と長石の違い(外形,へき開の有無,双晶)2)有色鉱物の見分け方;黒雲母,角閃石,輝石,かんらん石の違い(外形,へき開,屈折率,干渉色,多色性,消光角,双晶など) この結果,生徒の反応は上々で,歓声を上げて観察してくれた.スケッチを行うもの,スマホで写真撮影を行うものと様々であった.写真をSNSの個人ページの背景に使うと意気込んでいた生徒もいた.授業後のアンケート結果もすこぶる良好であった.アンケートの詳細は講演当日に紹介する. 本装置のメリットは安価なこと.1台あたりの単価は双眼実体顕微鏡1万8000円+偏光ユニット2000円程度.これにより実体顕微鏡をのぞくと,1クラス全員分の偏光装置の準備もそれほど難しくない(回転装置をのぞいた簡易型ならもっと容易となる).また下部照明を内蔵していることから肉眼観察,写真撮影ともに外部照明なしで簡単に行えること. デメリットは自作するのに工作技術が必要なこと.回転台にはややガタがあること.これにより回転時に視野の中心がやや動くのが気になる.また当然ながら専門家用の顕微鏡で行えるコノスコープ観察や干渉板での観察などはできない.さらに,絞りがないのでベッケ線の移動が見にくいこと,岩石顕微鏡としての倍率がやや不足気味(通常で20倍と40倍の切り替え)などである.しかし授業アンケート結果などを総合的に判断して教材としての価値は高いことが分かった.岩石薄片の作成についてはその2で詳説する.
著者
岡本 義雄 伊東 明彦
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年の地震災害でなぜ”想定外”と言う言葉が頻発するのかを地学教育の面から検討する教材を開発した.特にこの問題で専門家の意識と一般の人や中高校生の意識の差に着目した.そのための教材として,教材用の地震計を開発し,学校における地震観測の条件を検討した.同時に気象台等の波形の教材化を図った.次に,想定外という言葉の元は地震や火山などの災害の「べき乗則」としての性質に着目し,これらの「べき乗則」の元となる災害のメカニズムや発生機構を考えるための教材を開発した.また偶然や周期性と言った災害と関連深い概念が,学生や一般の人々の災害像にどのような心理的なバイアスをかけているのかという検証も行った.