著者
武山 健一 今井 祐記 岡田 麻衣子 藤木 亮次
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-06-23

「研究の目的」本研究では、性差構築におけるエピゲノムコードの解明を研究課題として、ピストン修飾やそれに伴うクロマチン構造変化等のエピジェネティクスの性差を見いだすことである。これまで、エピジェネティクスの現象に性ホルモンや性染色体依存的性差は判然としていない。そのため、本研究アプローチでは、細胞レベルでの性ホルモンによるエピゲノム調節を解析することとした。「研究実施計画とその成果」性差の認められる組織や器官において、それらを構成する細胞の分化や維持について着目した。特に、間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、B細胞など多様に細胞分化することが明らかであるが、これら細胞数や細胞分化には性差が認められる。本研究では、これら細胞分化に必須となるZincfingerタンパク質(Zfp)に着目し、核内におけるZfpやタンパク複合体精製を行った。興味深いことに既知のクロマチンリモデリング因子複合体構成因子に加え、これまで染色体上では着目されていない酵素を見いだした。この点をより詳細に検討するため、タンパク精製を繰り返し、複合体構成因子の全貌を解明することができた。更にこの酵素活性が複合体中に存在することが判明した。また、この酵素遺伝子を不活性化させると、間葉系幹細胞の分化促進や細胞系譜に異常が生じることが明らかとなった。これらのことから、細胞分化における新たな分子機構が明らかとなり、今後、細胞分化における性ホルモンやY染色体とのシグナルクロストークを解明する糸口を提案できた。以上、細胞分化制御における新たな性差のエピジェネティクスの分子機構解明の一端を見いだすことに成功した。
著者
岡田 麻衣子
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本年度は、リガンド依存的なユビキチン制御システムの新たなモデル基質の候補として、プロテアソーム構成因子に焦点を当てて解析を行った。ER陽性乳癌細胞株MCF7において、プロテアソーム阻害剤下においてUBE3Cがプロテアソーム構成因子をユビキチン化することが確認された。しかし、そのユビキチン化の程度は微弱である一方で、女性ホルモンによりERを活性化することで、プロテアソーム構成因子のユビキチン化が顕著に亢進することが示された。UBE3Cによるプロテアソーム構成因子のユビキチン化修飾はプロテアソームの機能に抑制的に働くことを踏まえると、女性ホルモンがER/UBE3Cを介してプロテアソーム阻害剤効果を増強させることが示唆された。そこで、各種乳癌細胞株において女性ホルモンの有無に応じた乳癌細胞株のプロテアソーム阻害剤の感受性を検討した。その結果、ER陽性乳癌細胞株の阻害剤の感受性は、ER陰性乳癌細胞と比較して低い傾向にあったものの、女性ホルモンの添加により顕著に亢進することが示された。上記の系において既存の多様なER合成リガンドの評価を行った。SERMをはじめとする既存のリガンドはERの転写機能に部分的に作用することが知られているが、UBE3Cを介したERのユビキチン制御能に対する作用は未知である。その結果、ER陽性乳癌細胞株において、ERの転写機能に対するアンタゴニストとであるタモキシフェンとラロキシフェンは、プロテアソームに対するER/UBE3Cの機能に対してはアゴニストとして作用する可能性が示唆された。このことから、本モデル系はERの"機能”に選択的なリガンドの特定に有用であると考えられる。さらに、このような機能選択的なリガンドの評価を個体で確認することを想定し、UBE3Cノックアウトマウス及びノックインマウスを作出した。また、新たにこれらの生体内での意義として、DNA損傷応答に寄与する可能性を見出した。