- 著者
-
太田 智彦
- 出版者
- 聖マリアンナ医科大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1995
我々は培養フラスコ中でconfluentになった後、増殖を停止し、栄養飢餓状態で300日以上G0期で停止し得る癌細胞を用い、細胞増殖停止に伴うレセプター型プロテイン・チロシン・キナーゼの細胞外ドメイン糖鎖の変化について研究した。ところが、免疫沈降およびwestern blottingに用いたLRPやLARなどの抗体の条件が悪く、他にも適切な抗体を入手できなかったため、目的の蛋白が検出できず、これらについての結論はみちびきだせなかった。しかしながら、この実験の経過中、同時にこの細胞の細胞周期関連蛋白の動態を調べたところ、G0期静止に必要な条件はcdc2蛋白の消失とRb蛋白の脱燐酸化のみで、cdk2,cyclin-A,cyclin-D1,およびMAP kinaseが発現していも、細胞はG0期に移行し得ることが判明した。さらに、G0期より細胞周期に入るときのこれらの蛋白の発現を詳細に調べたところ、G1/S期のいわゆるStart pointでcdc2,cdk2,cyclin-D1の発現、Rbの燐酸化が一斉に起こるが、この変化に先行してそれまで発現していたcdk2とcyclin-D1がいったん消失し、再びRbの燐酸化と時期を一致して発現していることが分かった。これらの結果については、次項の雑誌にて発表予定である。今後の研究課題としては、このG1/Sのstart pointに先行した、cdk2とcyclin-D1の発現消失と関連する細胞周期関連因子間の相互作用があるかどうかを検証することである。すなわち、p15,p16,p21,p27 などのcdk inhibitor(CKI)の発現状況、cdk kinase活性、cdk,cyclinとCKIの結合状態を解析した後,このG0/G1移行期を通過した細胞が、S期に移行せずに再びG0期に戻ることが可能かどうかを検索する予定である。