著者
明間 立雄 藤原 清悦 黒坂 光寿 舩橋 利也
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

ラットで受動的回避学習行い、ミクログリア特異的な阻害薬、ミノサイクリンを投与した。ミノサイクリンを投与したラットは嫌な記憶を早く忘れた。つまり、ミノサイクリン投与によりミクログリアの作用が弱まった結果、嫌な記憶の固定や再生が抑制されたと考えた。学習と関係のあるAMPA受容体のサブユニットを調べた結果、発現量にミノサイクリン投与による変化は認められなかった。しかし、リン酸化は減少する傾向が認められたことからPKAが関与する可能性が示唆された。マウスの受動的回避学習を解析する系を立ち上げた。その結果、ラットとマウスでミノサイクリン投与による受動的回避学習の変容が異なることが示唆された。
著者
藤原 成芳 高井 憲治
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

認知症は神経変性に伴う記憶や判断の欠落に加え個の尊厳も欠落させる。治療をサポートする側にも多大な負担となり、既に大きな社会問題となっている。現在対症療法しかないため根治的な治療法の開発が望まれているため、私は神経細胞移植による再生医療が認知症の根治的治療法となると考え研究を進めてきた。最初にヒトiPS(hiPS)細胞から神経細胞を分化誘導し、この細胞を認知症モデルマウスに移植する系を確立した。移植の結果、認知機能の改善が見られた。さらにマウス脳サンプルの解析の結果、移植神経細胞が欠落した神経系の再構築を促進し、認知機能改善に寄与している可能性が示唆された。
著者
吉川 英志 鈴木 登
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

神経細胞移植は現在有効な治療法がない難治性神経疾患に対する新規治療法として注目されている。本研究で、サルES細胞をレチノイン酸処理することで神経細胞を分化誘導できること、これを片麻痺マウスに移植することで運動機能を回復させることができた。移植した運動神経はケモカイン受容体CXCR4を発現しており、損傷部皮質に集族したグリア細胞の産生するケモカインSDF1に反応して、損傷部皮質に移動した。脳血流MRIを用いると、神経細胞移植脳では損傷部皮質の脳血流量が改善した。神経ネットワークの再生にはケモカインとその受容体が神経細胞の遊走に関わり、損傷組織への定着には神経接着因子が極めて重要な役割を果たすことを示唆された。今回の成績から、近い将来ヒトでの応用が行なわれれば運動障害も持つ多くの患者のQOLの改善に貢献すると期待される。
著者
太田 智彦
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

我々は培養フラスコ中でconfluentになった後、増殖を停止し、栄養飢餓状態で300日以上G0期で停止し得る癌細胞を用い、細胞増殖停止に伴うレセプター型プロテイン・チロシン・キナーゼの細胞外ドメイン糖鎖の変化について研究した。ところが、免疫沈降およびwestern blottingに用いたLRPやLARなどの抗体の条件が悪く、他にも適切な抗体を入手できなかったため、目的の蛋白が検出できず、これらについての結論はみちびきだせなかった。しかしながら、この実験の経過中、同時にこの細胞の細胞周期関連蛋白の動態を調べたところ、G0期静止に必要な条件はcdc2蛋白の消失とRb蛋白の脱燐酸化のみで、cdk2,cyclin-A,cyclin-D1,およびMAP kinaseが発現していも、細胞はG0期に移行し得ることが判明した。さらに、G0期より細胞周期に入るときのこれらの蛋白の発現を詳細に調べたところ、G1/S期のいわゆるStart pointでcdc2,cdk2,cyclin-D1の発現、Rbの燐酸化が一斉に起こるが、この変化に先行してそれまで発現していたcdk2とcyclin-D1がいったん消失し、再びRbの燐酸化と時期を一致して発現していることが分かった。これらの結果については、次項の雑誌にて発表予定である。今後の研究課題としては、このG1/Sのstart pointに先行した、cdk2とcyclin-D1の発現消失と関連する細胞周期関連因子間の相互作用があるかどうかを検証することである。すなわち、p15,p16,p21,p27 などのcdk inhibitor(CKI)の発現状況、cdk kinase活性、cdk,cyclinとCKIの結合状態を解析した後,このG0/G1移行期を通過した細胞が、S期に移行せずに再びG0期に戻ることが可能かどうかを検索する予定である。
著者
永渕 裕子
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

関節リウマチ(RA)の治療には炎症の制御と骨破壊の制御が重要である。Interleukin(IL)-34はColony-Stimulating Factor-1 Receptor (C)の第2のリガンドとして発見された慢性炎症と骨吸収に関与するサイトカインである。IL-34のRAの病態における役割を明らかにする目的で実験を行なった。RAおよび変形性関節症(OA)患者血清およびRA滑膜細胞を用いた。各種サイトカインをELISA法で測定した。CSF-1Rの発現は免疫組織染色で検討した。血清IL-34はOAに比べRAで有意に増加していた(RA;13.0±23.1,OA; 0.3±0.3 pg/ml, p<0.05)。RA初代滑膜細胞の培養上清で自発的にIL-34の産生を認めた。RA線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)はIL-1,TNFα刺激でIL-34を産生した。RAFLS はIL-34の受容体であるCSF-1Rを発現していた。RAFLSはIL-34刺激でIL-6を産生した。IL-1で刺激したRAFLS から産生されるIL-6は抗IL-34抗体, 抗CSF-1R抗体で抑制された。RA患者ではIL-34産生が亢進しており、滑膜病変でIL-34が産生れ、病態形成に関与していることを明らかにした。IL-34はRAの新たな治療標的となる可能性が示唆された。さらに本研究者はRA滑膜の病態形成にプロラクチが関与していることを報告している(JRheumatol. 1999, 26(9):1890-1900.)。滑膜細胞にIL-34を滑膜細胞にIL-34を添加すると培養上清中のプロラクチン産生の増加が認められた。これまでIL-34とプロラクチンの関連の報告はなく、今後さらに検討を重ねたい。肺がん患者の癌細胞がIL-34を産生し、IL-34をターゲットにした肺がん治療を提案する論文がある。IL-34をターゲットにしたRA治療を行うことで、担癌患者の腫瘍免疫を抑制にせずにRA治療ができる可能性があり 癌合併RA患者血清を用いた実験を追加し、この点も引き続き検討したい。
著者
明間 立雄 藤岡 仁美 舩橋 利也
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、海馬の高次学習機能の神経基盤にミクログリアが関与する可能性を調べるために、海馬の可塑性を検討している。このために、①Adeno-associated Virus(AAV)発現系の確立、②ミクログリアのみでCreを発現している動物の確立、③解析系の確立、を行っている。①に関しては、Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugもしくはdiphtheria toxin A subunitをAAVを用いて脳内に発現する系を確立した。すなわち、準備は整った。②に関して、ミクログリアのマーカーであるCD11bに注目していたが、CD11bを発現していないミクログリアの存在が別の系の研究から明らかとなったのでIba1もしくはCX3CRに注目している。後者は、抗体の特異性に問題がある可能性があり、今日まで染色にいたらずCX3CR-GFPマウスの使用を検討している。また、CD68のプロモーターでDREADDを発現するAAVの使用も考慮している。③に関して、受動的回避学習や、Y迷路、オープンフィールドの解析系を確立した。その過程で、本教室の条件では、マウスとラットがIAの再強化や学習の消去過程、情動など、異なることが示唆された。従って、これまで蓄積したデータを生かすためには、やはりラットの方が適しているとの結論に達し、現在、CX3CRのプロモーターでCreを発現するラットを作成中である。
著者
漆畑 保
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

喉頭は、発声を一つの機能とする器官であり、この組織を構成する上皮細胞は性ステロイドに対し感受性を有する。このことは音声の男女差に影響していることを意味し、また一方喉頭における新生物発生頻度は男性に多く、この組織における内分泌感受性という観点からの研究の必要性が存在する。性ステロイドによるこれら構成細胞内における作用機構の解明は、細胞活性の制御する上で重要な点である。このことを研究対象とし細胞モデルとして培養喉頭癌細胞を使用し、各種ステロイドに関して感受性実験の結果、胞喉頭上皮細胞が性ステロイド感受性の存在があり、性ステロイドに依存し細胞増殖抑制および細胞死が誘導されることが明らかとなった。なお、その細胞死の際において性ステロイドに対する特異受容体蛋白の発現することは無い(翻訳の不存在)。しかし、男性ホルモン受容体(AR)の翻訳がありそのRNAの選択的阻害により細胞増殖が促進する現象は存在する(転写の存在)。この転写の際、AR遺伝子発現の共役因子であるCBP、SRC、TIF2について検討し、その結果TIF2の転写が確認されずにAR蛋白作用に必要となるP-160の関与を否定しうる結果となった(細胞内シグナルの一部欠転写欠如)。また性ステロイドによる喉頭癌細胞死誘導の際、特異的に上昇する遺伝子発現を確認するため人遺伝子発現に関与する。更にこのことに関しマイクロアレー法により検討したが、ARに関与すると考えられる遺伝子の転写は一切発現していない事が確認された。また、RNA調節に系る段階によるこの細胞死誘導への関与を調べるべくiRNA発現に関してマイクロアレー法を用いて検討した。その結果hsa_miR_27a、hsa_miR_21、hsa_miR_23a、hsa_miR_16、hsa_miR_30c、hsa_miR_30a_5p hsa_miR_30d、hsa_miR_19b、hsa_miR_30e_5p、ambi_miR_7086、hsa_miR_17_5p等が性ステロイドによる喉頭がん細胞死誘導の際に有意に細胞内に上昇するiRNA群であることが確認された。しかし、そのAR遺伝子そのものまたは共役遺伝子に又は関係すると考えられる遺伝子等と基配列において相補的なものはまったく確認されなかった。そこで本研究の対象とする細胞がHPV感染細胞であり、HPV遺伝子が細胞増殖のサイクルに関与していることは確認されており、喉頭癌症例の数パーセントでその感染症例が示されており、そのウイルス存在又はその活性を含めウイルスの発現との性ステロイド関連遺伝子のiRNAとの相互調節も含め検討が必要であり、今後このことを含め更に研究する必要性がある。以上
著者
太田 智彦
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

申請者らは、乳がんの内分泌療法感受性を制御するメカニズムとしてFbxo22による転写調節因子KDM4Bの分解がエストロゲンシグナルの停止およびエストロゲン受容体(ER)モジュレーター(SERM)のアンタゴニスト作用に必須で、Fbxo22陰性乳がんは内分泌療法抵抗性となり、予後不良であることを見出した。本研究ではこのメカニズムの異常がER経路とHER2/PI3K経路のクロストークのキーイベントであることを証明し、HER2/PI3K経路が活性化したLuminal乳がんに対する内分泌療法感受性マーカーおよび治療薬を開発するための基盤とする。
著者
五十嵐 理慧 武永 美津子 中山 利明
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

臨床応用可能な神経系DDS製剤の開発を目ざして脳神経細胞由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor, BDNF)とレシチン誘導体を結合したレシチン化BDNF(PCBDNF)を合成し検討した。まずBDNFの薬理活性が報告されているC57BL/KSJ-db/dbマウスにおける摂食抑制効果、血中グルコース抑制効果、体重増加抑制効果で検討した結果、PCBDNFはBDNFそのものに比較して著明な薬理効果の増強が見られた。用量で比較するとPCBDNFはBDNFそのものより20倍も活性が増強していることが示唆された。その薬理効果増強の機序が何に起因するのかを検討したところ血中半減期の長さに起因するのではなくPCBDNFの高い細胞親和性によることが示唆された。またIn vivoでの検討により中枢神経系への集積性が高くなっていることが観察され血液脳関門(BBB)の通過性が高くなっていることが示唆された。さらに神経系細胞であるPC-pAB1細胞を用いて活性化MAPKをウエスタンブロッティングで追いかけたところPCBDNF添加PC-pAB1細胞は持続的なMAPK活性化を示し、レシチン化によってBDNFに新たな機能が付加されていることが示唆された。持続的なMAPK活性化は細胞を分化の方向に誘導するとされており、これらが薬理効果の増強と大きな関係を持つと考えている。また最適レシチン導入数の同定のために有機合成したPCBDNFについて結合部位と結合数を分析したところ、結合部位は平均的に導入され、平均導入数はBDNF一分子あたりおおよそ3分子のレシチン誘導体が結合していることが判明した。
著者
長岡 朋人
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では古代人のライフヒストリーを解明するために、ベイズ推定に基づいて縄文時代人骨の死亡年齢分布を求めた。ベイズ推定による年齢推定は、あらかじめ年齢が分かっている標本に基づいて未知のデータを分析する方法である。観察したのは骨盤の関節の腸骨耳状面である。その結果、15歳以上の個体の中で65歳以上の個体が占める割合が32.5%、15歳時点での平均余命は31.5歳と長生きという結果であった。
著者
長岡 朋人 安部 みき子 澤藤 匠 森田 航 川久保 善智
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

目的:本研究では、日本人の死亡年齢構成の時代変化と気候変動の関係を探った。中世終わりから江戸時代にかけて小氷期による寒冷化が世界中で起き、ヨーロッパでは低身長化に見られるように健康状態が悪化したという。本研究では、弥生時代から江戸時代にかけて、古人骨の死亡年齢構成を復元することで、気候変動の影響が強かった中世から江戸時代の健康状態の変化を追跡した。方法:指標としたのは仙腸関節にある腸骨耳状面であり、若年個体では滑らかであるが高齢になると骨棘や孔が多く現れる。バックベリーらの腸骨耳状面に基づく死亡年齢の推定方法は、腸骨耳状面の溝、テクスチャー、骨棘、孔から1~7の7段階(数字が小さいほど骨が若い状態である)に分類し、その後年齢に対応させるという手順をとる。弥生時代、鎌倉・室町時代、江戸時代の古人骨を資料に、腸骨耳状面段階の構成を直接比較した結果:本研究では、弥生時代から江戸時代にかけての死亡年齢構成を復元し、時代による健康状態の変化を調査した。その結果、中世において短命のピークを迎え、江戸時代にかけて徐々に回復する傾向が明らかになった。考察:死亡年齢構成の時代推移と寒冷化の傾向は一致しなかった。その理由として、都市の衛生環境の改善や農耕技術の発展が挙げられる。しかし、その結果は気候変動が日本人の健康状態に影響を与えていないわけではない。江戸時代前期はストレスマーカー(クリブラ・オルビタリア)の頻度が最も高く低身長を特徴とする。死亡年齢構成と寒冷化が一致しない理由としては、むしろ自然災害や戦乱などにより、人骨の死亡年齢構成が若齢化したことが想定できる。
著者
東海林 洋子 水島 裕 嶋田 甚五郎
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

我々はこれまで、単純ヘルペスウイルスI型(HSV-I)をターゲットとして、アンチセンスDNAを合成してきて、スプライシングのある限局した部分をターゲットとした場合にのみ、高い抗ヘルペス活性を認めてきた。そのメカニズムとして、スプライシングに必要な高次構造を崩すことにより高い抗ヘルペス活性を示すことを認めている。しかしながら、例外として、配列の中にGXGGG (X=A,T,C,G)を含む時には、アンチセンス配列を含まない場合にも、高い抗ヘルペス活性を認めた。ひとつの要因として、フォスフォロチオエート型オリゴヌクレオチド(S-ODN)の有する蛋白結合性に着目した。フォスフォロチオエート型オリゴヌクレオチドは血清蛋白との結合率は86.6%と天然型ODN(D-ODN)が21.6%に比べ高かった。また、ウイルスそのものとの結合率も、D-ODNが5%以下であるのに比べ、S-ODNは約50%がウイルスと結合した。そこで、S-ODNの抗ヘルペス活性のメカニズムの一つにウイルスの吸着阻害が考えれらた。ウイルス吸着阻害を検討すると、S-ODNでは、感染の初期にウイルスの吸着阻害が認められた。この吸着阻害がS-ODNの高次構造と関連があるものとみられ、CDスペクトラムを検討したところ、4重鎖構造を示唆するパターンが得られたが明確ではなかった。さらに、カチオン性リポソームによる活性増強を試みたところ、D-ODNによる活性増強は認められたものの、S-ODNでは活性の増強は認められなかった。この一因として、S-ODNの蛋白結合性、高次構造がむしろ、カチオン性リポソームの効果を阻害しているものと思われた。アンチセンス医薬品の第1号が発売されたのは、画期的なことであるが、連続したG配列を含む場合には、アンチセンス以外のメカニズムが存在することにも留意すべきであろう。
著者
曽根田 瞬 川村 智行
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1型糖尿病におけるカーボカウントは、食事の炭水化物量を把握し投与インスリン量を決定するのに有用だが、実践するには知識と経験が必要で、特に小児の患者において普及しているとは言い難い。そこで、食事選択をもっと自由にしQOLを改善することを目標に、カーボカウント導入を支援する携帯端末用アプリの開発を計画した。患児と保護者に行ったアンケートでは、インターネット接続せずに使用できることが要望として上がった。開発は進んでいたが、2014年11月25日に施行された「医薬品医療機器等法」により、ソフトウェア単体でも医療機器としてみなされる可能性が浮上し、アプリを配布して効果を検証することは困難な状況となった。
著者
山内 博 網中 雅仁 荒井 二三夫 吉田 勝美 中井 泉 斉藤 秀
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、急性や慢性砒素中毒患者の妊婦が高濃度な無機砒素を摂取した場合、胎児の脳中枢神経障害は発生するか否かについて、動物実験モデルを用いて解明を試みた。妊娠ラット(妊娠17日目)に投与した三酸化二砒素量はLD_<50>の1/4(三酸化二砒素として、8.5mg/kg)である。三酸化二砒素投与後、12、24、48時間目にラットを屠殺し、脳中の砒素を化学形態別に測定、そして、組織診断(タネル法でのアポトーシス細胞診断)を行った。他方、自然出産させた群(生後5週齢)を用いて、自発行動量(Animex)と7項目(潜伏時間、歩行量、立ち上がり回数、毛繕い回数、洗顔回数、脱糞回数、排尿回数)のOpen-field testを実施した。脳血液関門が未成熟な段階において、胎仔の脳へ三酸化二砒素もしくはその最終代謝産物であるジメチル化砒素(DMA)が増加し、脳細胞は損傷を受けた現象が観察された(アポトーシス細胞;12時間目が最も発生し、時間の経過と共に減少傾向)。この作用は母獣では認められず胎仔のみであった。脳細胞への損傷は三酸化二砒素によるものか、それとも代謝物であるDMAによる作用であるか、新たな研究の必要性が提起された。行動学(Open-field test)の7項目の結果は、三酸化二砒素投与群と対照群の二群間を比較すると、歩行量と潜伏時間に二群間で有意差が認められた。立ち上がり回数、毛繕い回数、洗顔回数、脱糞回数、排尿回数に関しては、二群間で差が見られなかった。しかし、三酸化二砒素投与群の雌では立ち上がり回数の減少、毛繕い回数の増加がそれぞれ統計学的に有意差が認められた。自発行動量の結果は、三酸化二砒素投与群と対照群の休眠期の活動に差は認められなかった。しかし、活動期では三酸化二砒素投与群は午前4:00〜午前8:00の時間帯での活動量の減少を認めた(t-testとANOVA)。今日、飲料水の無機砒素汚染からの高濃度な無機砒素暴露者は世界的な規模では約1300万人存在し、妊婦、胎児や乳児への暴露が存在している。また、急性砒素中毒患者の妊婦から生まれて来た赤ん坊も存在している。本研究において、胎児期の砒素暴露による脳障害の発生は、組織診断と行動学的な検査結果において示唆され、今後、この分野の研究は十分に発展させる必要性があると考えた。
著者
呉 文文
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

細胞周期を通して、BRCA1の蛋白複合体を網羅的に解析した。HERC2がS期特異的にBRCA1と結合し、分裂期ではBRCA1から迅速解離する現象を見出した。HERC2はBRCA1のユビキチンリガーゼで、BARD1から離脱したBRCA1を不安定させると同時に、pre-RC複合体のMCM蛋白質の活性化を誘発し、異常複製開始点を発火させる。HERC2はClaspinとともに複製フォークの進行や安定を制御し、最終的にG2/Mチェックポイント応答に機能する。HERC2はBRCA1が司っている細胞周期のG2/Mチェックポイント制御機構には重要な役割を担い、BRCA1の細胞周期調節機構には必須因子であることを明らかにした。
著者
後藤 勝正
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

老化に伴う筋力と骨塩量の低下を防止するための安全かつ効率的なストレス負荷で筋力増大をもたらす新しいトレーニング方法の開発に関して、筋力トレーニングを骨格筋に対するストレスと捉え、骨格筋に対する新しいストレスとして温熱刺激に着目した。そこで本研究では、温熱刺激による(1)骨格筋細胞の増量と増殖とその作用機序、(2)温熱刺激による筋トレーニング効果の促進、ならびに(3)温熱刺激による筋萎縮からの回復促進、について、新しいストレス負荷による骨格筋の肥大の可能性を探ることを目的とした。実験モデルとして培養骨格筋細胞ならびにWistar系雄性ラット(生後12週齢)を用い、実験的萎縮筋モデル(後肢懸垂モデル、前十字靭帯損傷モデル)を採用した。培養骨格筋細胞の実験ではL6(ラット)およびC2C12(マウス)を用いた。培養骨格筋細胞に対して温熱刺激(41℃、60分)、機械的伸展刺激ならびに両者を組み合わせて加えることで、骨格筋細胞の増殖や肥大に対する温熱刺激の効果が両細胞で確認された。したがって、温熱刺激による骨格筋細胞の増量は種に依存する現象ではないと考えられた。ラットを用いた実験では、温熱刺激のみにより骨格筋肥大が促進するか検討し、41℃の温熱環境に60分間暴露することで筋肥大が引き起こされた。また、後肢懸垂モデルを用いひらめ筋を萎縮させた後、後肢懸垂を解除し通常飼育をする前に温熱刺激を加えることで、萎縮からの回復過程が促進した。さらに、前十字靭帯損傷モデルでは、萎縮した筋ではストレスタンパク質の発現増加が認められ、温熱刺激による筋萎縮抑制の可能性が示唆された。以上より、温熱刺激が筋タンパク増量効果をもたらすことが明らかになった。また、温熱刺激による骨格筋の肥大は。(1)ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)/Artシグナル伝達系を活性化させることでもたらされることが明らかになった。
著者
寺久保 繁美 中島 秀喜 竹村 弘 金本 大成
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

百日咳、麻疹、風疹はワクチン接種により予防可能な感染症である。近年、我が国ではこれらの疾患の成人発症例が増加している。その原因として抗体低下が考えられる。今回、若年成人(医学生)の抗体価を測定した。百日咳抗体価は28.3%(194/686名)が感染防御レベル(10EU/ml以上)を満たしていなかった。麻疹抗体価は55.6%(322/579名)が感染予防の基準(16以上)を満たしていなかった。風疹抗体価は27.5%(159/579名)が感染予防の基準(8以上)を満たしていなかった。感染予防対策のためにも医学生に対するワクチン接種を積極的に推進する必要があると考える。
著者
脇坂 季繁
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

私たちの研究室では片麻痺モデルマウスに対してヒトiPS細胞から分化させた神経細胞の移植研究を行ってきた。Reelinは個体の発生過程において神経細胞の移動と運動皮質の層構造形成の制御を行う蛋白質として同定された。我々の実験系では脳内の炎症細胞と移植細胞はともにReelinを産生した。移植細胞はReelinの受容体を発現して移植細胞はReelinを受け取り損傷部皮質まで遊走しそこで神経ネットワークを再構築した。損傷部皮質まで移動した神経幹/前駆細胞は移動の過程で皮質運動神経への分化を伴った。片麻痺モデル動物への神経細胞移植ではReelinが組織学的な修復と機能回復に重要に関わる事が示された。
著者
平田 和明 長岡 朋人 澤田 純明 星野 敬吾 水嶋 崇一郎 米田 穣
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

赤星直忠博士を中心とする横須賀考古学会は,1967~1968年に神奈川県三浦市所在の雨崎洞穴遺跡(弥生~古墳期)において発掘調査を行った。本研究で出土人骨の整理を行なった結果,非焼骨について,大腿骨がもっとも残存する部位であり,その最小個体数は19体であった。死亡年齢や性別の構成を見ると,本人骨群には少なくとも成人男性3体,成人女性1体,性別不明成人11体,未成人5体の20体が含まれた。焼成人骨について,各部位の出土点数に基づく個体数の算定と焼成状況の復元を試みた。人骨は少なくとも33体からなり,主体は成人であるものの,未成人骨が複数確認された。