著者
岡部 大地 辻 大士 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.367-377, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
30
被引用文献数
6

目的:高齢者総合機能評価は有用とされ,その一つとして自記式質問紙の基本チェックリストがある.一方,要介護状態の最大原因は脳卒中であり,特定健康診査(特定健診)などで検出しうる糖尿病や脂質異常症などが基礎疾患と分かっている.しかし高齢者において総合機能評価と健診のどちらが健康寿命喪失リスクの予測力が大きいか比較検討した研究はない.そこで本研究では,高齢者総合機能評価と健診のどちらが健康寿命喪失の予測力が大きいか明らかにすることを目的とした.方法:要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)の2010年の自記式郵送調査データを用いた.同年の健診データを得られた6市町において,データ結合が可能で,その後3年間の要介護認定状況および死亡を追跡することができた9,756人を分析対象とした.基本チェックリストから判定される7つのリスク(虚弱,運動機能低下,低栄養,口腔機能低下,閉じこもり,認知機能低下,うつ),メタボリックシンドロームを含む特定健診必須15項目を説明変数とし,要介護2以上の認定または死亡を目的変数としたCox比例ハザード分析をおこなった(性,年齢,飲酒,喫煙,教育歴,等価所得を調整).結果:要介護2以上の認定または死亡の発生率は,19.4人/1,000人年であった.基本チェックリストからは口腔機能低下を除く6つのリスクにおいてhazard ratio(HR)が1.44~3.63と有意であった.特定健診からは尿蛋白異常,BMI高値,AST異常,HDL低値,空腹時血糖高値,HbA1c高値の6項目においてHRは1.37~2.07と有意であった.メタボリックシンドローム該当のHRは1.05と有意ではなかった.結論:血液検査を中心とした健診よりも問診や質問紙を用いた高齢者総合機能評価の方が健康寿命喪失を予測すると考えられた.