著者
早坂 信哉 尾島 俊之 八木 明男 近藤 克則
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2359, (Released:2023-07-24)
参考文献数
17

【背景・目的】高齢者において抑うつの発症は様々な疾患のリスクとなり,要介護状態に陥るきっかけとなる.一方,日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっているが,この生活習慣としての浴槽入浴と長期的な抑うつ発症との関連は明らかではなかった.本研究は,大規模な6年間にわたる縦断研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的な抑うつ発症との関連を明らかにすることを目的とした.  【方法】Japan Gerontological Evaluation Study(以下,JAGES)の一環として2010年,2016年に調査対象となった11,882人のうち,自立しておりかつGeriatric Depression Scale (以下,GDS)4点以下で抑うつがなく,夏の入浴頻度の情報のある6,452人,および冬の入浴頻度の情報がある6,465人をそれぞれ解析した.コホート研究として週0~6回の浴槽入浴と週7回以上の浴槽入浴の各群の6年後のGDSによる抑うつ発症割合を求め,浴槽入浴との関連をロジスティック回帰分析によって年齢,性別,治療中の病気の有無,飲酒の有無,喫煙の有無,婚姻状況,教育年数,等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比を求めた.  【結果】週0~6回の浴槽入浴に対する週7回以上の浴槽入浴の抑うつ発症の,調整後の多変量解析によるオッズ比は夏の入浴頻度0.84(95%信頼区間:0.64~1.10),冬の入浴頻度0.76(95%信頼区間:0.59~0.98)であり,冬に週7回以上浴槽入浴することは抑うつを発症するリスクが有意に低かった.  【結論】習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり,健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された.
著者
金森 悟 甲斐 裕子 山口 大輔 辻 大士 渡邉 良太 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.21-141, (Released:2022-06-30)
参考文献数
23

目的 高齢者の中には運動行動に関心が低くても,健康の保持・増進に必要な歩行時間(1日30分以上)を満たしている者が存在する。しかし,そのような集団の特性は明らかになっていない。そこで,本研究では,運動行動の変容ステージ別に,1日30分以上の歩行を行っている高齢者の特性を明らかにすることとした。方法 本研究は2019年度に日本老年学的評価研究(JAGES)が行った自記式郵送法調査を用いた横断研究である。対象者は24都道府県62市町村在住の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者45,939人とした。調査項目は1日の歩行時間,運動行動(1回20分以上で週1回以上)の変容ステージ,身体活動の関連要因(人口統計・生物学的要因8項目,心理・認知・情緒的要因3項目,行動要因8項目,社会文化的要因40項目,環境要因3項目)とした。分析は変容ステージで3群に層別し(①前熟考期,②熟考期・準備期,③実行期・維持期),目的変数を1日30分以上の歩行の有無,説明変数を身体活動の関連要因,調整変数を人口統計・生物学的要因全8項目としたポアソン回帰分析とした。結果 調査への回答者24,146人(回収率52.6%)のうち,分析に必要な項目に欠損がある者,介護・介助が必要な者を除いた18,464人を分析対象とした。前熟考期のみ,または前熟考期と熟考期・準備期のみ,1日30分以上の歩行ありと有意な関連が認められた要因は,人口統計・生物学的要因3項目(配偶者あり,負の関連では年齢80歳以上,および手段的日常生活動作非自立),行動要因2項目(外出頻度週1回以上,テレビやインターネットでのスポーツ観戦あり),社会文化的要因6項目(手段的サポートの提供あり,友人と会う頻度が週1回以上,町内会参加,互酬性高い,趣味が読書,負の関連では趣味が囲碁)であった。結論 高齢者において,前熟考期のみ,または前熟考期と熟考期・準備期のみで1日30分以上の歩行と関連が認められたのは,人口統計・生物学的要因,行動要因,社会文化的要因の中の11項目であった。変容ステージの低い層でも1日30分以上の歩行を促すには,身体活動を前面に出さず,人とのつながりなどを促進することが有用である可能性が示された。
著者
相田 潤 近藤 克則
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.57-74, 2014-04-25 (Released:2014-05-12)
参考文献数
108
被引用文献数
12 8

保健行動や遺伝要因に加えて,健康の社会的決定要因を考慮する重要性が指摘され,実際の保健政策でも考慮されるようになってきた。これは,人々の行動や健康が周囲の社会環境の影響を受けていることが研究により明らかになってきたことが理由である。社会的決定要因のひとつが,人々の絆から生まれる資源であるソーシャル・キャピタルである。人々のつながりが豊かであることが,情報や行動の普及や助け合い,規範形成を通じて健康に寄与する可能性が指摘されている。ソーシャル・キャピタルには,集団間の健康格差に関わる地域や集団の社会的凝集性に基づいた考え方と,主に個人のネットワークに基づいた考え方が存在する。マルチレベル分析の社会疫学研究への導入により,前者の考え方でソーシャル・キャピタルと健康状態や死亡,保健行動との関係が実証されてきた。一方,信頼や互酬性の規範といった概念よりも踏み込み,より実体のあるネットワークに基づくリソースに注目する後者の考え方は,現実的なソーシャル・キャピタルのメカニズムの理解や,健康向上の介入に利用しやすいと考えられ,研究がすすみつつある。また,社会格差や災害からの復興に関しても,ソーシャル・キャピタルが健康に寄与すると考えられている。そしてまだ数は少ないものの,ソーシャル・キャピタルを活用した介入研究も報告されつつある。前向き研究や介入研究の少なさや負の側面の存在など今後の研究が必要な部分も多いが,健康格差を減らして健康的な社会をつくる方法のひとつとして,今後もソーシャル・キャピタル研究は進められていくべきであろう。
著者
木村 美也子 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.3-13, 2020-06-19 (Released:2020-06-19)
参考文献数
51
被引用文献数
2

背景・目的 新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的な大流行)となり、外出や人との交流が難しくなっている。こうした状況の長期化は、閉じこもりや社会的孤立の増加につながりうるが、それによる健康への弊害にはどのようなものが予想されるであろうか。本稿では、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study: JAGES)で蓄積されてきた研究から、高齢者の社会的行動と健康に関する知見を概括し、新型コロナウイルス感染症流行時の高齢者の健康の維持・向上に望ましい生活への示唆を得ることを目的とした。方法 JAGESによる研究の中から、高齢者の社会的行動と健康の関連を示した46件の論文(2009年~2020年発表)を抽出し、その知見を概括し、新型コロナウイルス感染症流行時に可能な健康対策について考察した。結果 介護、認知症、転倒、うつなどを予防し、高齢者の健康を維持・向上するためには、外出や他者との交流、運動や社会参加が重要であることが示された。それらの機会が制限されることで、要介護、認知症、早期死亡へのリスクが高まり、また要介護状態も重症化することが予測された。考察 社会的行動制限は感染リスクを抑えるために必要なことではあるものの、健康を損なうデメリットもあるため、感染リスクを抑えつつ、人との交流、社会参加の機会を設ける必要があると考えられた。密閉、密接、密集を回避しつつ、他者との交流を続けることで、感染リスクと将来の健康リスクが減じ得るだろう。
著者
Ling LING 辻 大士 長嶺 由衣子 宮國 康弘 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.800-810, 2020-11-15 (Released:2020-12-23)
参考文献数
41
被引用文献数
3

目的 超高齢社会において,認知症予防は重要な課題である。先行研究では,趣味を有する高齢者は認知症リスクが低く園芸,観光,スポーツ系の趣味を行っている者では認知症リスクが低いと報告されている。しかし,趣味の種類の数が増えれば効果も上乗せされるのか,またたとえばスポーツ系の中でも種類によって認知症の発症リスクが異なるのかは明らかでない。本研究の目的は,趣味の種類および数と認知症発症との関連を,約6年間の大規模縦断データを用いて明らかにすることである。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が2010年に実施した要介護認定を受けていない高齢者を対象とした調査の回答者で,年齢と性に欠損がない56,624人を6年間追跡した。趣味の質問に有効回答が得られた者のうち,追跡期間が365日未満の者を除く49,705人を分析対象者とした。アウトカムの認知症発症は,365日以降の認知症を伴う要介護認定の発生と定義した。実践者割合が5%以上の趣味の種類(男性14種類,女性11種類)およびその数(0~5種類以上)を説明変数とし,基本属性,疾患,健康行動,社会的サポート,心理・認知機能,手段的日常生活動作能力の計22変数を調整したCox比例ハザードモデルを用いハザード比(HR)を算出した。結果 追跡期間中に4,758人(9.6%)に認知症を伴う要介護認定が発生した。男女いずれも,認知症リスク(HR)はグラウンド・ゴルフ(男:0.80,女:0.80),旅行(男:0.80,女:0.76)を趣味としている者において,それらが趣味ではない者と比較して低かった。さらに男性ではゴルフ(0.61),パソコン(0.65),釣り(0.81),写真撮影(0.83),女性では手工芸(0.73),園芸・庭いじり(0.85)を趣味とする者で低かった。男女ともに趣味の種類の数が多くなるほど認知症発症リスクが低くなる有意なトレンドが確認された(男:0.84,女:0.78)。結論 男女ともグラウンド・ゴルフ,旅行が趣味の者では認知症リスクが低く,また趣味の種類の数が増えるほどリスクは低下することが示唆された。本研究で有意な関連が見られた趣味の種類を中心に,高齢者が多様な趣味を実践できる環境づくりが,認知症予防を効果的に進めるうえで重要であることが示唆された。
著者
田島 明子 近藤 克則
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.14, pp.47-59, 2019-03-31

目的:介護予防を目的とした住民運営の通いの場で間接的支援を行う作業療法士の役割について明確化すること.対象:A 県B 町憩いのサロンプロジェクトを主導してきたリハビリテーション専門医であるA 氏,サロンのボランティア養成講座の講師を担当してきた作業療法士B 氏.方法:A 氏,B 氏へ個別インタビュー調査を行い,目的に沿って結果を整理した.結果:サロン全体の取り組みと作業療法士が関与する点,ボランティア養成講座を通した作業療法士の支援の視点が明らかになった.考察:作業療法士の役割として,サロンの企画・運営の支援,ボランティア養成講座の企画・講師,サロン実施の際のサポートと振り返りの助言,サロン参加者の評価と行政へのフィードバック,の4点があった.
著者
近藤 克則
出版者
特定非営利活動法人 横断型基幹科学技術研究団体連合
雑誌
横幹 (ISSN:18817610)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.16-23, 2020 (Released:2020-06-15)
参考文献数
49

Health disparities between communities, municipalities, or social groups exist in Japanese society. Pathways from background to health are complex involving social environmental factors, life courses, psychological and social factors such as depression and social participation, health behavior, and biological systems. Through longitudinal studies and community intervention studies, it has been demonstrated that it is possible to build a community or society facilitating social participation having a positive effect on health. Scientific evidence supporting the theory of “primordial prevention”, which aims to build a healthy community and society where living people become healthier, has been accumulated. It has entered the design stage for social implementation from the stage of searching for the supporting scientific basis. Design science aiming at the realization of “primordial prevention” requires “integration of knowledge”, transdisciplinary science and technology, and industry-government-academia collaboration.
著者
大類 真嗣 田中 英三郎 前田 正治 八木 淳子 近藤 克則 野村 恭子 伊藤 弘人 大平 哲也 井上 彰臣 堤 明純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.101-110, 2020-02-15 (Released:2020-02-22)
参考文献数
27

大震災の支援に当たった専門家による研究成果と経験に基づき,災害時のメンタルヘルスと自殺予防に資する留意点についてまとめた。支援の対象と支援方法の重点は,被災からの時期・段階によって変化する。とくに被災による避難時と避難指示解除時はともに留意が必要である。対象のセグメンテーションを行い,必要な支援を必要なタイミングで届ける必要がある。真に支援が必要な対象やテーマは表出されない場合があることに留意する。震災後に生まれた子どもや母親の被害,高齢者の認知症リスクも増えることが観察されている。被災者だけではなく,その支援を行う自治体職員や保健医療福祉職員のメンタルヘルスにも配慮する必要がある。避難地区だけでなく避難指示解除地区においても自殺率が高いという知見も得られている。教育や就労支援,社会的役割やサポートまで,総合的・長期的な支援が必要で,保健医療関係者だけではない分野横断的なネットワークの構築が平時から必要である。危機的な状況であるほど,なじんだ手段しか使えない。平時からの教育・訓練・ネットワーク化で被害の緩和を図っていく必要がある。
著者
市田 行信 吉川 郷主 平井 寛 近藤 克則 小林 愼太郎
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.24, no.Special_Issue, pp.S277-S282, 2005 (Released:2007-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

This paper investigates linkage between social capital and individual health using multilevel analysis. Data for the analysis is based on 9,248 people over 65 years old living in 28 school districts in Chita peninsula. Results show that school-district-level contextual effects are found for average income and social capital. Importantly, it is argued that without adopting a multilevel approach, the debate on linkage between individual health and social capital cannot be adequately addressed.
著者
熊澤 大輔 田村 元樹 井手 一茂 中込 敦士 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-128, (Released:2023-06-28)
参考文献数
33

目的 千葉県睦沢町では,2019年に「健康支援型」道の駅を拡張移転した。仮説として,道の駅を利用した高齢者では,利用しなかった高齢者に比べ,主観的健康感不良者が減少したと考えられる。そこで,道の駅利用が主観的健康感不良の減少と関連するのか検証することを目的とした。方法 2019年9月の道の駅拡張移転前後の3時点パネルデータを用いて道の駅開設後の利用群と非利用群を比較評価した縦断研究である。道の駅拡張移転前の2018年7月(2018年度調査)と2019年の拡張移転後の2020年11月(2020年度調査)と2022年1月(2021年度調査)の3回,自記式調査票の郵送調査を行い,個票レベルで結合した3時点パネルデータを作成した。目的変数は2021年度調査の主観的健康感不良,説明変数は2020年度調査時点の道の駅利用とした。調整変数は2018年度調査の基本属性と2018,2020年度の外出,社会参加,社会的ネットワークとした。多変量解析は多重代入法で欠損値を補完し,道の駅利用のみを投入したCrudeモデルと,2018年度調査の基本属性(モデル1),2018年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワーク(モデル2),2020年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワーク(モデル3)を投入した各モデルについて分析を行い,修正ポアソン回帰分析を用い,累積発生率比(Cumulative Incidence Rate Ratio, CIRR),95%信頼区間,P値を算出した。結果 対象者576人のうち,道の駅利用者は344人(59.8%)であった。基本属性を調整した多変量解析の結果,道の駅非利用群に対して利用群では,主観的健康感不良者のCIRR : 0.67(95%信頼区間 : 0.45-0.99,P=0.043)であり,有意に少なかったが,道の駅開設後の2020年度調査の外出,社会参加,社会的ネットワークを調整したモデルではCIRR : 0.71(95%信頼区間 : 0.48-1.06,P=0.096)と点推定値が1に近づいた。結論 本研究では,3時点パネルデータにより,道の駅拡張移転前の交絡因子を調整した上で,利用群で主観的健康感不良者が減少,つまり不良から改善していた。外出のきっかけとなり,人と出会う機会となる道の駅などの商業施設が「自然に健康になれる環境」になりうることが明らかとなった。
著者
石川 鎮清 木村 哲也 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202244G01, (Released:2022-08-17)
参考文献数
12

背景・目的 医療経済学への社会的要請は高まっているが、担う人材は十分とは言えず、養成上の課題は多い。そこで医療経済学の人材養成の課題を把握し、解決策の方向を示すことを目的とした。方法 2つの調査を行った。量的調査では、主要2学会の抄録集を対象に近年10年間における医療経済学分野の研究発表数、人材数を調査した。質的調査では、国内の医療経済学分野における中堅研究者8人を対象に半構造化面接を行い、質的に分析した。結果 日本経済学会では一般演題に占める医療経済学関連の演題の割合が2000年代には2%~6%台だったが、2012年を境に8%~10%台へと増加していた。医療経済学会では、経済学系の発表者の割合が2000年代には4~7割の幅で上下していたが、2013年以降は、上昇に転じ、2015年~2016年は7割を超えていた。インタビュー調査からは、大学教育における医療経済学の課題、研究職ポストの不足、データ利用の促進の必要性、経済学系と医学系との協働の可能性の4つのカテゴリを抽出した。考察 量的・質的調査の結果、社会的ニーズの増大にもかかわらず、人材育成には課題があることが明らかになった。問題解決の方向性として1)重点的で継続的な人材養成、2)雇用ポストの創出、3)医療データの利用環境の改善促進、4)医学分野と経済学分野との協働の場の創設の4つが重要と考えられた。
著者
斉藤 雅茂 近藤 克則 尾島 俊之 平井 寛 JAGES グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.95-105, 2015 (Released:2015-06-12)
参考文献数
54
被引用文献数
11

目的 社会的孤立や孤立死の問題への関心は高い一方で,孤立状態の操作的定義に関する根拠は蓄積されていない。社会的孤立が健康の社会的決定要因の 1 つであることを考慮し,健康リスクが高まる交流の乏しさ(頻度)があるのかを明らかにすることを目的にした。方法 2003年10月に愛知県下 6 市町村における要介護認定を受けていない高齢者14,804人を対象にした AGES(Aichi Gerontological Evaluation Study,愛知老年学的評価研究)プロジェクトのデータの一部を用いた(回収率=50.4%)。性別・年齢が不明な人を除き,調査時点で歩行・入浴・排泄が自立であった12,085人について分析した。要介護認定・賦課データに基づいて,調査時点から2013年10月時点までの約10年間を追跡し,要介護状態(全認定および要介護 2 以上)への移行,認知症の発症と死亡状況を把握した。社会的孤立の指標には,別居家族・親族および友人と会う頻度と手紙・電話・メールなどで連絡を取り合う頻度を用いた。1 か月を4.3週と換算してすべての交流頻度を加算後,「月 1 回未満」から「毎日頻繁(週に 9 回以上)」群に分類した。結果 Cox 比例ハザードモデルの結果,調査時点での性別・年齢や同居者の有無,治療疾患の有無等を調整したうえでも,毎日頻繁群と比べて,月 1 回未満群では,1.37(95%CI:1.16–1.61)倍要介護 2 以上に,1.45(95%CI:1.21–1.74)倍認知症に,1.34(95%CI:1.16–1.55)倍早期死亡に至りやすいということが示された。月 1~週 1 回未満群でも同様に,いずれの健康指標とも有意な関連が認められたが,週 1 回以上の群では有意な関連は消失した。なお,調査後 1 年以内に従属変数のイベントが発生したケースを除外しても結果は大きく変わらなかった。同居者以外との交流頻度が月 1 回未満を孤立の基準とすると,高齢者の7.4%(男性で10.2%,女性で4.7%)が該当し,週 1 回未満を含めると15.8%(男性で21.2%,女性で10.6%)が該当した。結論 同居者以外との対面・非対面交流をあわせて週に 1 回未満という状態までがその後の要介護状態や認知症と関連し,月 1 回未満になると早期死亡とも密接に関連する交流の乏しさであることから,これらが社会的孤立の妥当な操作的定義であることが示唆された。
著者
近藤 克則
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.41-52, 2012-10-01 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

小論の目的は,(1)健康格差と,(2)健康格差が生まれる経路に関する文献をレビューし,(3)社会政策の必要性と海外における事例を検討することである。社会疫学研究によって,(1)日本においても健康における社会経済的な格差があること,(2)社会経済格差拡大や介在要因としての社会的サポートやソーシャル・キャピタルのような「健康の社会的決定要因」から健康に至る複雑な影響経路が明らかにされてきた。(3)健康格差の縮小策として期待されるものにも,個人レベルと社会レベルのものとがあり,後者として社会政策は重要である。社会経済格差の是正やコミュニティのソーシャル・キャピタルを豊かにすることなどが必要である。海外での取り組み事例に学ぶと,教育,労働,所得保障政策など広い範囲の社会政策が健康政策になることがわかる。(a)上流にある根本的な原因へのアプローチ,(b)すべての政策において健康を考える,(c)環境への介入,という3つの考え方が根底にある。
著者
近藤 克則
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.435-436, 2018-02-23 (Released:2018-03-08)
被引用文献数
2
著者
近藤 克則
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.369-377, 2019-11-30 (Released:2019-11-30)
参考文献数
15

日本でも「健康日本21(第2次)」で「健康格差の縮小」が政策目標となった.しかし健康教育は,深く考えずに推し進めれば,健康格差をむしろ拡大しかねない.低学歴,非正規雇用,低所得で困窮している人たちほど,健診や健康教室に参加せず,健康情報を得る機会が少なく,知識はあっても処理能力に余裕がない傾向があるからである.ではどうしたら良いか.その手がかりは,ヘルスプロモーションのオタワ憲章などで示された「健康的な公共政策の確立」「支援的な環境の創造」「コミュニティの活動強化」など環境への介入である.それを進めるためには,その重要性を健康・医療政策に留まらない公共政策,環境・コミュニティづくりを担っている人・部門に対して伝えることが必要となる.従来型の健康教育から「健康格差の縮小」に寄与する21世紀型の「健康教育21」にしていくには 3つの見直しが必要である.1)生活習慣・行動変容を本人に迫る内容から,暮らしているだけで健康になる環境づくり「ゼロ次予防」への内容の拡大,2)ヘルスセクターや一般の人たちに留まらず,非ヘルスセクターや民間事業者への対象の拡大,3)教育方法の研究・開発・普及において,知識伝授型教育から行動経済学などの知見を踏まえた認知・処理能力を重視した方法への変革である.ヘルスプロモーションを実現するために,21世紀型「健康教育21」へのシフトが必要である.
著者
田代 敦志 相田 潤 菖蒲川 由郷 藤山 友紀 山本 龍生 齋藤 玲子 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.190-196, 2017

<p><b>目的</b> 高齢者における残存歯の実態と背景にある要因を明らかにすることを目的として,個人の所得や暮らしのゆとりといった経済的な状況で説明されるかどうか,それらを考慮しても高齢者の残存歯数がジニ係数により評価した居住地の所得の不平等と関連するか検討した。</p><p><b>方法</b> 介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象として2013年に全国で約20万人を対象に行われた健康と暮らしの調査(JAGES2013,回収率71.1%)において,新潟市データを分析対象とした。自記式調査票を用いて新潟市に住民票がある8,000人に郵送調査を実施し,4,983人(62.3%)より回答を得て,年齢と性別に欠損が無かった3,980人(49.8%)の有効回答を使用した。中学校区別の所得格差(ジニ係数)と残存歯数の地域相関を求め,ジニ係数別の残存歯数を比較した。次に,目的変数を残存歯数,説明変数を個人レベルの変数として,性別,年齢以外に,教育歴,等価所得,暮らしのゆとり,世帯人数,糖尿病治療の有無,喫煙状況を用い,地域レベルの変数として,中学校区ごとの平均等価所得とジニ係数とした順序ロジスティック回帰モデルによるマルチレベル分析を行った。</p><p><b>結果</b> 57中学校区別のジニ係数と残存歯数の地域相関は,相関係数−0.44(<i>P</i><0.01)の弱い負の相関を認め,ジニ係数が0.35以上の所得格差が大きい地域は他の地域と比較して有意(<i>P</i><0.001)に残存歯数が少なかった。残存歯数を目的変数とした順序ロジスティック回帰モデルにおいて,性別と年齢を調整後,個人レベルでは教育歴,等価所得,暮らしのゆとり,喫煙状況,地域レベルではジニ係数,平均等価所得が有意な変数であった。一方で,すべての変数を投入したモデルでは,個人レベルの教育歴と地域レベルの平均等価所得において有意な結果は得られなかった。</p><p><b>結論</b> 所得格差が比較的小さいと考えられる日本の地方都市においても,個人レベルの要因を調整後に地域レベルの所得格差と残存歯数の間に関連が認められた。高齢者の残存歯数は永久歯への生え変わり以降,長い時間をかけて形成されたものであり,機序は明らかではないが,所得分配の不平等が住民の健康状態を決めるとする相対所得仮説は,今回対象となった高齢者の残存歯数において支持される結果であった。</p>
著者
近藤 克則 太田 正
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.129-133, 1997-02-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
18
被引用文献数
14 4

発症後第14病日以内(中央値第1.5病日)に入院した初発脳卒中患者20人の下肢筋断面積をCTを用いて経時的に計測した.(1)「全介助群」で入院2週後の両側大腿,下腿筋断面積は,入院時の79~86%(両側大腿,下腿各々の平均80%,84%)と有意に減少し,4週時に69~79%,8週時に62~72%まで萎縮した.(2)「早期歩行自立群」では,2週時で96~100%と断面積を維持していた.(3)両群の「中間群」では,2週時に89~95%と有意に減少したが,8週時には入院時の94~99%(入院時と有意差なし)まで回復した.早期リハビリテーション患者でも廃用性筋萎縮は見られ,麻痺側でも十分な訓練により筋肥大をきたすが,回復には歩行訓練開始までの期間の3倍以上の長期間かかることが示唆された.
著者
小林 周平 陳 昱儒 井手 一茂 花里 真道 辻 大士 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.235-242, 2023-04-15 (Released:2023-04-25)
参考文献数
37

目的 高齢者の歩行量を維持・増加させることには多くの健康上望ましい効果が期待できる。しかし,健康日本21(第二次)中間評価では,高齢者の歩数が目標値まで達成できなかったことが報告されている。そのため,従来とは異なるアプローチに建造環境(街路ネットワーク,施設や居住密度,土地利用など人工的に造られる環境)を通じた身体活動量や歩数の維持・増加をもたらすゼロ次予防が注目されている。本研究では,建造環境の1つである生鮮食料品店の変化と歩行時間の変化との関連を明らかにすることを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(JAGES)が27市町の要介護認定を受けていない65歳以上を対象に実施した自記式郵送調査データを用いた2016・2019年度の2時点での縦断パネル研究である。目的変数は,歩行時間の2時点の変化(増加あり・なし)とし,説明変数は追跡前後の徒歩圏内にある生鮮食料品(肉,魚,野菜,果物など)が手に入る生鮮食料品店の有無の2時点の変化を5群にカテゴリー化(なし・なし:参照群,なしとわからない・あり,あり・あり,あり・なしとわからない,その他)したものである。調整変数は2016年度の人口統計学的要因,健康行動要因,環境要因,健康要因の計14変数とした。統計分析は,ロバスト標準誤差を用いたポアソン回帰分析(有意水準5%)で歩行時間の増加なしに対する歩行時間の増加ありとなる累積発生率比(cumulative incidence rate ratio:CIRR)と95%信頼区間(confidence interval:CI)を算出した。分析に使用する全数のうち,無回答者などを欠測として多重代入法で補完した。結果 歩行時間の増加ありが13,400人(20.4%)だった。追跡前後で徒歩圏内の生鮮食料品店の有無の変化が「なし・なし」(6,577人,10.0%)と比較した場合,「なしとわからない・あり」(5,311人,8.1%)のCIRRは1.12(95%CI:1.03-1.21)だった。結論 徒歩圏内の生鮮食料品店が増加していた者で,高齢者の歩行時間が増加した者の発生が12%多かった。暮らしているだけで歩行量が増える建造環境の社会実装を目指す手がかりを得られたと考える。
著者
竹内 寛貴 井手 一茂 林 尊弘 阿部 紀之 中込 敦士 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-088, (Released:2023-06-08)
参考文献数
61

目的 健康寿命延伸プランの主要3分野の1つに,高齢者のフレイル対策が掲げられ,その1つとして社会参加の活用が期待されている。しかし,これまでの先行研究では,社会参加の種類や数とフレイル発症との関連を縦断的に検証した報告はない。本研究では,大規模縦断データを用い,社会参加の種類や数とフレイル発生との関連について検証することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study : JAGES)の2016年度と2019年度のパネル調査データを用いた縦断研究である。2016年度(ベースライン時点)と2019年度(追跡時)のJAGES調査に回答した高齢者から,ベースライン時点の日常生活動作の非自立者と無回答者,フレイル(基本チェックリスト8点以上/25点)とフレイル判定不能者などを除いた,28市町59,545人を分析対象とした。目的変数は追跡時のフレイル発症とし,説明変数はベースライン時点の9種類の社会参加の種類と数を用いた。調整変数には,ベースライン時点の性,年齢,等価所得,教育歴,婚姻,家族構成,就労,プレフレイル(基本チェックリスト4~7点/25点)の有無,喫煙,飲酒,都市度の11変数を用いた。多重代入法により欠損値を補完し,ポアソン回帰分析を用いて社会参加とフレイル発症との関連を検証した。結果 追跡時のフレイル発症は6,431人(10.8%)であった。多重代入法後(最小64,212人,最大64,287人)の分析の結果,老人クラブを除く8種類の社会参加先である介護予防(Risk Ratio: 0.91),収入のある仕事(0.90),ボランティア(0.87),自治会(0.87),学習・教養(0.87),特技・経験の伝達(0.85),趣味(0.81),スポーツ(0.80)で,フレイル発症リスクが有意に低かった。さらに,社会参加数が多い人ほどフレイル発症リスクが有意に低かった(P for trend <0.001)。結論 社会参加とフレイル発症リスクとの関連を検証した結果,ベースライン時点で8種類の社会参加をしている人,社会参加数が多い人ほど3年後のフレイル発症リスクが低かった。健康寿命延伸に向けたフレイル対策の一環とし,社会参加の促進が有用であることが示唆された。