- 著者
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本田 昭四
山下 良二
新垣 洋史
岩下 陽市
- 出版者
- 一般財団法人 住総研
- 雑誌
- 住宅建築研究所報 (ISSN:02865947)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.255-269, 1987 (Released:2018-05-01)
わが国では1880年代の近代炭鉱業の成立期以降,1960年代の炭鉱合理化に至るまでに大量の炭鉱労働者住宅が建設・供給されてきた。しかし1960年代のエネルギー政策の転換により,炭鉱業はスクラップ化され多くの炭鉱労働者は失業し,産炭地域より流出した。以後1970年代に入って,この地域の振興がさけばれるようになった。本研究は以上の80年間に企業により供給・建設された炭鉱労働者用住宅-以下炭鉱住宅と略-を対象としてその歴史的な変化発展の過程につき住宅政策及び住宅計画という視点から考察したものである。さて,炭鉱業においては資源と生産方式の制約から労働者の居住の場が限定された。また労務管理の必要から集団居住が強制された。わが国では,これらの集団住宅を古くは納屋,小屋,飯場とよんだが,以後の労使関係の展開からこの呼称は抗夫長屋,鉱夫宿舎,炭鉱労務者住宅と変化した。とくに戦中,戦後に建設された炭鉱労働者住宅が,戦後の民主化運動の過程で行政的に「炭鉱住宅」と呼称されるようになった。本報告は大きく2つに区分される。まず第1編では1880年から1960年までの炭鉱労働者用住宅の発生と変遷を文献資料と現存する住宅の現地調査に基づき整理し,これと同時代の住宅政策や集団住宅計画の展開と比較研究する。これによって,わが国の労働者住宅の重要な部分である炭鉱住宅の政策・計画論上の特質について考察する。つぎに第2編では1960年以降の旧炭鉱住宅の滅失と再編・改良のプロセスについて調査研究を行っている。とくにこの期間に実施された「住宅地区改良事業」について実施された事例の分析を試みている。さらにいくつかの典型町をフィールドにして80年間の地域と住宅の変遷について通史的な考察を行うとともに,これからの住宅政策の課題について論じている。