著者
川田 菜穂子 平山 洋介
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:21878188)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.215-225, 2016 (Released:2017-08-10)

『全国消費実態調査』(1989・1994・1999・2004年)の匿名データを用いて家計における住居費負担の動向を把握し,所得格差と相対的貧困の拡大における住居費負担の影響を検討した。住居費負担率は経年に従って増加しており,とくに『公団・公社の借家』や『民営借家』に居住する世帯の負担増が顕著であった。また,住居費控除後所得を基準に貧困率を算出すると,住居費控除前所得を基準にした場合と比較して上昇した。さらに,低所得世帯を対象としたヒアリング調査の事例分析から,狭小・老朽で低廉な借家に居住せざるを得ない世帯や住宅を選好できず住居費負担が過重になる世帯の具体的な生活状況を把握した。
著者
伊藤 瑞恵 藤井 恵介 藤原 重雄
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.207-216, 2005 (Released:2018-01-31)

南北朝期に編纂された,青蓮院流の記録集である『門葉記』は,中世建築指図を多数含む,中世建築史上重要な史料である。青蓮院に尊円親王自筆本を主とする原本州伝来しているが,流布している図版は写本によるものであるため,原本図版による指図集を作成し,指図研究の基礎史料とする。『門葉記』修法記録のデータベースを作成し,図版整理に活用する。同じく代々青蓬院門主に伝領されてきた『吉水蔵聖教』についても,指図を抽出し,図集を作成する。『吉水蔵聖教』指図と『門葉記』指図とを比較し,両者の書写関係を明らかにすることによって,『門葉書割の指図作成過程を考察し,『門葉記』の指図の特徴を多角的に論じる。
著者
花里 俊廣 佐々木 誠 温井 達也
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:21878188)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.89-100, 2012 (Released:2017-08-10)

本稿は,別荘地「普賢山落」の人間関係の豊かなコミュニティの形成に関して,1)別荘の所有者に「ものづくり」志向を持った人が多くおりコミュニティとして成立しやすかったこと,2)コミュニティの運営方法のルールやイベント等に特徴がみられたこと,3)別荘地特有の現象として滞在の時期が重なっていること,4)いくつかの出来事や事件などが偶然にコミュニティ形成にプラスに働いたこと,5)最小限で開放的な別荘建築がコミュニティ形成に好影響を与えたこと,という5点に基づき議論し,また,写真等で別荘建築について紹介するものである。
著者
平井 ゆか 内田 祥哉
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.263-274, 2001

本研究は,日本の伝統的な床材である畳と,畳を支える各種のシステムの開発と普及について,文献資料を広く収集し全貌を明らかにする事を目的としている。古代における畳の開発について,現存する最古の畳を区切りとして日本の独自性を記録から検証し,中世以後については形状の変化や床材としての成立を絵巻を中心に探り,畳の普及を日光社参史料をもとに検証している。畳職人の出現を記録から,畳屋の地方への広まりを地名から検証し,メンテナンスシステムの開発と普及を明らかにしている。一方,畳職人の育成システムについては職業訓練校の歴史等を探り,畳の生産・供給システムについては産地や問屋等の現地調査・資料収集を行っている。
著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.223-239, 1990 (Released:2018-05-01)

東アジアから東南アジアにかけて集中的に分布する高床住居は,主として近年の発掘成果により,新石器時代の華南にその起源を求められつつある。そして,最近の研究によれば,先奏時代の華南に蟠踞した百越という1群の南方系諸民族が,初期における高床住居の担い手であった。本研究の対象となる貴州のトン族は,この百越の一地方集団であった駱越の末裔と考えられている。たしかにトン族は,雲南のタイ族や海南島のリー族とともに,高床住居を保有する代表的な民族であるが,これまでその高床住居に関する研究はほとんどされていない。したがって,百越の末裔たるトン族の高床住居を研究対象にすること自体に大きな意味があるといえるだろう。しかし,問題はそれだけではない。調査対象地である黔東南苗族とう族自治州には,トン族以外にもミャオ族,プイ族,スイ族,漢族など多数の民族が居住しているからだ。われわれの研究がめざすもう1つの目標は,このような多民族地域における文化の重層性と固有性を,住居という物質文化を媒介にして解明することである。これは,文化人類学における「文化の受容とエスニシティの維持」というテーマに直結する,重要な問題といえるだろう。今年度の調査は,次年度以降,継続的になされるであろう集中的な調査の予備的役割を担うものであり,自治州を広域的に踏査し,できうるかぎり多くの家屋を観察・実測することに主眼をおいた。その結果,トン族,ミヤオ族,プイ族,漢族の家屋を,合わせて50棟実測することができた。本稿では,以上の諸例を民族別・類型別に報告するとともに,民族相互の比較から,平面と架構について,トン族本来の形式と漢文化受容以後の形式の差異を論じ,また住居に現れた「漢化」の諸側面についても指摘している。来年度以隆は,調査対象を1か所に限定し,住み込みによる集中的な調査を行なう予想である。
著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 島田 敏男 羅 徳啓 黄 才貴 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.405-420, 1992 (Released:2018-05-01)

88年度に行なった貴州省黔東南苗族トン族自治州での広域的な調査をふまえ,90年度には対象村落を1か所に限定して,トン族の集落に関する集中的調査を行なった。(天安門事件の影響で調査・研究のプログラムが丸1年延期された)。調査地は,第2次調査で最も斬新な知見をもたらした巨洞と同じ都柳江沿岸に位置する蘇洞上寨(住居散35・世帯数44・人口218)である。蘇洞は,従江県下江区の中心地である下江鎮に近接するため,巨洞などの僻地集落に比べるといくぶん漢化の様相が著しい。しかし,漢化もまた,トン族の文化を理解するうえでの重要なキーワードである。調査は建築班2班と民族学班1班に分かれ,建築班は集落内の主要家屋全戸の平面・断面の実測,民族学班は全世帯の家族構成・血縁および婚姻関係の把握を最低のノルマとし,余裕ができた段階で,村大工からの聞き取り,部材呼称の音声表記,通過儀礼・祭祀・禁忌に関する聞き取り,スケッチ・マップ調査などを相互協力のもとに進めた。本稿では,とくに龍脈に統制された集落の空間構造と,住居の平面・構造に映し出された漢化の様相に焦点をしぼって,蘇洞の住空間を素描してみた。
著者
冨井 正憲 鈴木 信弘 渋谷 猛 川端 貢
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.125-134, 1989 (Released:2018-05-01)

本研究は,かつて日本の統治下にあった朝鮮半島に建てられた朝鮮住宅営団の住宅がどのようなものであったのか,またそれらの住宅がその後韓国人の住み手によってどのような変容を遂げたかを,史的文献調査と実測調査によって明らかにし,①朝鮮住宅営団の慨要,②朝鮮半島と日本内地の旧営団住宅の比較考察,③旧営団住宅の変容過程の分析,の3つの枠組みをもって住まいの持つ特性を明らかにすることを目的としている。第1章では朝鮮住宅営団の概要を,第2章では現在の旧営団住宅の現存状況,上道洞営団住宅地及び住宅の現況を,文献・現地調査・実測・写真撮影等により明らかにし,伴せて旧営団住宅地の復元を試み住宅の現在の平面図を図化するなど,分析・考察の資料を調えている。また,文献資料より朝鮮住宅営団が建設した住宅には甲・乙・丙・丁・茂の5種の標準設計があったことをつきとめている。そしてソウル上道洞に現存する営団住宅の実態調査の分析とあわせて,その建設当時の営団標準住宅を復元している。第3章では,日本住宅営団・同潤会の標準設計と,朝鮮住宅営団の住宅を比較考察し,オンドルや二重窓その他の気候風土に対する改良が試みられている部分と,外観や平面構成などの日本内地の住様式が踏襲されている部分があり,日本人の気候風土に対する対応のしかたを明らかにしている。そして,それが戦後韓国人によって住まわれてどのような部分が変容し,どのような部分が存続しているかを明らかにし,日本時代に建てた住宅が韓国人の住み手によって韓国の居間中心型の伝統様式に改められてゆく傾向があることを指摘している。
著者
綾木 雅彦 森田 健 坪田 一男
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:21878188)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.85-95, 2016 (Released:2017-08-10)

生活環境内の自然光と人工照明中のブルーライト成分を試作した光センサーを使用して測定した。ブルーライトを発する光源を使用して眼の角膜上皮細胞への光毒性の培養実験を行って,眼障害の可能性と対策について考察した。ブルーライトならびにブルーライトの覚醒度への影響を検証した。新たに作成した網膜電位図記録装置により,ブルーライトに反応する内因性光感受性網膜神経節細胞の電気活性をヒトで記録することに成功し,住環境で曝露するブルーライトの生体反応の新たな検査法を開発することができた。以上の結果から,通常の視力や視野の確保以外にも眼と全身の健康に配慮した照明,遮光が使用されるべきであると結論した。
著者
中島 伸 田中 暁子 初田 香成
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住総研研究論文集 (ISSN:21878188)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.181-192, 2015 (Released:2017-08-10)

本研究は,城南住宅組合を対象に組合活動を通時的に分析し,住環境を下支えしてきた土地所有の状況など明らかにすることで,住環境の形成・維持へとつながる住民主体のまちづくりへの知見を得ることである。組合の活動記録の一次史料と土地所有形態の変遷を調べることで,理想的田園生活を目指した城南住宅組合は当初こそ別荘利用の形態で住宅地化が進まなかったものの,戦中,戦後より住宅地として居住実態が伴ってくると,当初より定めた規約による各住宅地での環境整備が進んだ。共同借地経営の住宅組合という組織ではあるが,土地所有など前提となる経営基盤が大きく変化する中で,住環境維持を目標にしつつも,居住者のコミュニティ活動を相互補完的に行う中で,組織活動を継続してきていることがわかった。
著者
寺内 信 西島 芳子 佐藤 圭二 鈴木 浩 安田 孝 和田 康由 馬場 昌子 バージェス グレイム
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報
巻号頁・発行日
vol.25, pp.37-48, 1999

近代産業都市の発展は,19世紀イギリスにおいても20世紀の日本においても,商業業務を主とする都心部の成立と,その周辺における工業地域と高密度居住地域の形成をもたらした。イギリスでは19世紀の初めからの都市への人口集中は都心周辺部での高密度テラスハウス(バックツウバックあるいはバイロウハウス)によって吸収され,日本の大阪では20世紀初期からの人口集中は長屋や町屋によって吸収されたのである。その結果としての都市形成と都心周辺部の居住様式には,約100年の時期的差異があるにもかかわらず,共通するところが多いことが明らかになった。このような高密度居住による衛生問題を主とする住宅問題・都市計画問題に対して,イギリスではリバプールをはじめとする条例制定や,それを支援する中央政府の公衆衛生法の制定によって改善が進められた。しかし,日本では1900年頃までの上水道普及の進展もあって,建築・都市計画法制からは衛生問題が抜け落ちている。 大阪,リパプール,バーミンガムを主とする本研究では日英比較による都心住宅地形成と更新・保存の制度化の差異の要因として,1)都市自治体の主体性の強弱,2)防火建築材料などの社会的合意形成の時期,3)建築産業の近代化,4)地域住宅産業の育成,5)住宅改善・居住地更新の総合性,6)近隣関係重視の居住地更新政策,などにあることを仮説として明らかにした。この結果を背景に,これからの都心周辺部居住地更新においては,居住者の近隣関係を重視した参加と支援による計画・事業制度の整備と推進が重要と考えている。
著者
浅川 滋男 村田 健一 大貫 静夫 栗原 伸司 坂田 昌平 楊 昌鳴 黄 任遠
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.87-96, 1997 (Released:2018-05-01)

本研究は,建築史・民族学・考古学の研究者が協力して,北東アジアにおけるツングース系諸民族住居の特質と歴史的変遷を描きだそうとする試みである。主要な研究対象地域は,中国で最もツングース系諸民族の集中する黒龍江省で,興安嶺とアムール川流域を中心に,満洲族,シボ族,ナーナイ族,オロチョン族,エヴェンキ族という5つのツングース系民族が分布している。また,清朝以来,豆満江をわたり中国東北地方に移住してきた朝鮮族も,歴史的・言語的にみて,ツングースときわめて関係の深い民族である。ツングースの歴史は必ずしもあきらかでない。言語的にみて,ツングース系諸語と認定できる最古の資料は12世紀女真の碑文・銘文である。つまり,女真以前の渤海・靺鞨・高句麗などの国家や民族をツングースの祖先とみなせるのかどうか,それはまだ検証されていないのである。しかし,本研究では,先史時代から現代まで,この地域の民族の住層形式をひろく視野におさめることにした。すでに浅川は,中国正史の東夷伝にみえる関係記載を集成し,主として唐代までの住居の特質と変遷を考証している。これをうけて本研究では,考古・民族誌資料の収集と整理を行ないつつ,民族学的なフィールド・ワークにも取り組んできた。すなわち,1995~1996年に黒龍江省で3度の現地調査を行なった。第1次調査では同江市でナーナイ族の堅穴住居と平地住居,第2次調査では寧安市の鏡泊湖に近い瀑布村で朝鮮族の集落と満州族・漢族の住居,第3次調査では小興安嶺一帯でオロチョン族とエヴェンキ族のテント住居と平地住居を調査した。実測総数は50件を数える。報告では,考古資料による住居形式の分析と調査資料の記述を展開し,最後に両資料の比較を試みてみた。機会が与えられるなら,調査・研究の対象域をロシア側にもひろげ,ツングース住居の総合的研究に結晶させるとともに,日本住居の起源との関係にも言及したい。
著者
浅川 滋男 村田 健一 大貫 静夫 栗原 伸司 坂田 昌平 楊 昌鳴 黄 任遠
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報
巻号頁・発行日
vol.23, pp.87-96, 1997

本研究は,建築史・民族学・考古学の研究者が協力して,北東アジアにおけるツングース系諸民族住居の特質と歴史的変遷を描きだそうとする試みである。主要な研究対象地域は,中国で最もツングース系諸民族の集中する黒龍江省で,興安嶺とアムール川流域を中心に,満洲族,シボ族,ナーナイ族,オロチョン族,エヴェンキ族という5つのツングース系民族が分布している。また,清朝以来,豆満江をわたり中国東北地方に移住してきた朝鮮族も,歴史的・言語的にみて,ツングースときわめて関係の深い民族である。ツングースの歴史は必ずしもあきらかでない。言語的にみて,ツングース系諸語と認定できる最古の資料は12世紀女真の碑文・銘文である。つまり,女真以前の渤海・靺鞨・高句麗などの国家や民族をツングースの祖先とみなせるのかどうか,それはまだ検証されていないのである。しかし,本研究では,先史時代から現代まで,この地域の民族の住層形式をひろく視野におさめることにした。すでに浅川は,中国正史の東夷伝にみえる関係記載を集成し,主として唐代までの住居の特質と変遷を考証している。これをうけて本研究では,考古・民族誌資料の収集と整理を行ないつつ,民族学的なフィールド・ワークにも取り組んできた。すなわち,1995~1996年に黒龍江省で3度の現地調査を行なった。第1次調査では同江市でナーナイ族の堅穴住居と平地住居,第2次調査では寧安市の鏡泊湖に近い瀑布村で朝鮮族の集落と満州族・漢族の住居,第3次調査では小興安嶺一帯でオロチョン族とエヴェンキ族のテント住居と平地住居を調査した。実測総数は50件を数える。報告では,考古資料による住居形式の分析と調査資料の記述を展開し,最後に両資料の比較を試みてみた。機会が与えられるなら,調査・研究の対象域をロシア側にもひろげ,ツングース住居の総合的研究に結晶させるとともに,日本住居の起源との関係にも言及したい。
著者
沢田 知子 内田 青蔵 渡辺 秀俊 谷口 久美子 丸茂 みゆき
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報
巻号頁・発行日
vol.26, pp.191-202, 2000

本研究では,首都圏に建設された築後約20年の集合住宅を対象にして,居住者の家族構成と住まい方の変化,環境移行の様態を明らかにした。実態調査の結果,「夫婦と子供」の標準世帯として入居した当初居住者層が,子供の独立別居を経て「夫婦のみ」の非標準世帯に移行していることが確認された。また,壮年夫婦のみの世帯では,退職を機に在宅時間が増加し,夫や妻の個人的な時間の過ごし方が拡大したこと,別居子の子供室を利用して,夫婦が別就寝に移行したり,夫や妻の個人専用部屋が設けられることが明らかになった。また,私的な行動を支援する拠点が個人専用部屋以外に広く点在し,個人領域が住戸内に拡大している実態が明らかになった。
著者
三宅 醇 小川 正光 松山 明 田中 勝
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅建築研究所報
巻号頁・発行日
vol.12, pp.313-322, 1986

この研究は,同名の前回研究(No.8110)に引き続くものである。前回研究では,明治以降現在に至る主要な住宅事情の流れを,都道府県別のデータに推計整理し,各時代ごとの主要な住宅型のプランの代表例によって,量的質的な,住宅事情史の概親を試みた。今回の研究では,過去の住宅事情の構造的把握により将来予測をする方法の開発に意を用いた。将来予測は困難な課題だが,もし可能ならば,現在の矛盾の拡大方向や,自然の治癒作用が分かり,要求の発展のレベルの予測によって,政策の展開がより有効に提起できるようになるはずだからである。今回の研究では3つの予測を行った。第1に,年齢×人員数というライフサイクルマトリックスの利用による新しい住宅事情の予測法(ライフサイクルマトリックス法:LCM法)を開発して,全国を大都市圏域(10大都道府県)と地方圏域(その他地域)の,住宅所有関係別住戸数の,ストック予測を行ってみた。ストックの増は,従前よりも低下し,建設フローも現在の7~8割程度に低下すると考えられる。第2に,人員数別住宅畳数による,住宅規模水準の予測を行ってみた。住宅規模の拡大と,低レベルでの停滞の2極分解が予測される。住居水準値の政策的決定にも住戸規模の予測は重要な役割を果す。第3に,過去の住宅型の発生理由と,その住戸プランの変遷の再整理を行い,上記の水準についての将来予測値を加味して,今後の住戸プランや住宅計画上の留意点について,居住者のデマンド予測からの予測的提言を行った。前回の報告と合わせて,日本の全住宅について,住宅需給構造上の型区分によって流れを追い,予測を含めて100余年の住宅事情史概観の重要データを作成することができた。
著者
平井 聖 水沼 淑子 磯野 さとみ 加藤 仁美
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.201-211, 1996 (Released:2018-05-01)

明治維新後,東京の旧大名家の屋敷地の多くは官公庁舎用地や軍用地にされたが,有力な旧大名等の屋敷地の内には公収されず宅地化されたものも少なくなかった。明治末期,東京の宅地総面積の約1/4は,1万坪以上の宅地を所有する100人程度の大土地所有者-旧大名などの華族,財閥,豪商,新興富豪等によって支配されていた。この内,旧大名で最大の土地をもっていたのが,旧福山藩主の阿部正桓である。旧福山藩阿部家は,中屋敷のあった本郷西片町(現在の文京区西片1・2丁目)で明治期より賃地貸家経営を行なっていた。本稿では,規模的にも性格的にも東京の宅地形成に影響を与える存在であった大名屋敷跡地の一つである本郷西片町における明治年間の住宅地形成の経緯を阿部家蔵等の史料にもとづき追跡し,基盤整備及び建設家屋の実態,貸地貸家経営のしくみについて解明することを目的とした。その結果,以下の点が明らかとなった。(1)宅地の基盤整備は,従来からの屋敷地内の道路の骨格を基木として道路を開設し宅地割にあわせた街区を形成し,明治後半には下水,水道,瓦斯,電話等が整備されていった。(2)貸地賃家経営の実態として,旧藩士の居住に対し優遇措置を施していたほか,借地人に対し借地上の建設家屋に対し建築費の助成をしたり,借地内の下水や井戸の面積を地代対象面積から差し引いたり,借地上に家屋が末建築である期間の地代を猶予するなど,さまざまな方策を講じていた。(3)建設家屋の実態については,明治10年代の作事関係書類によりその仕様と平面,坪当たり単価等が明らかとなった。(4)宅地及び貸家の維持管理は,家職や差配人,人夫により地主の負担で,道路・下水・井戸・貸家の修繕のほか,防疫から防災や防犯等生活面にいたるまで行なわれていた。今後は,賃地,賃家,建設家屋と居住者の関係,権利移動の実態について解明していく予定である。
著者
西村 一朗 今井 範子 久保 妙子
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報
巻号頁・発行日
vol.16, pp.163-171, 1990

日本人が未だ住みこなしていない都市集合住宅地において生活騒音,ペット飼育等の近所迷惑の実態を明らかにし,気持ちよく住むための「住み方ルール」を明らかにするのが本研究の目的である。過去5か年(1983~87)の新聞記事を分析した結果,騒音問題が迷惑の第一位であり,次に特に最近の傾向としてペット問題が大きくなってきていることがわかった。そのためアンケート調査では,それらに1つの焦点をあてて調査し検討している。調査対象地は,大阪市の南港ポートタウンである。調査により得られた知見のいくつかは以下の通りである。(1)住み始めに挨拶まわりをする習慣はほぼ維持されており,範囲は3割ほどが「両隣と上下の住戸」,2割はどが「両隣だけ」となっている。(2)生活騒音にかかわる生活時間では,起床・就寝,楽器演奏,洗濯,入浴等の生活時間に,ばらつきがみられ特に夜更しの生活も増えている。互いに迷惑にならないよう一定の生活コントロールが必要になろう。(3)生活騒音に対する「住み方ルール化」では,特に早朝深夜の楽器演奏は「厳しく禁止」の意向が強い。(4)生活騒音を減らす重点として「居住者の自主性が肝心」との見解が過半を占める。(5)ぺット飼育は5%未満だが,実態はより多いと推定しうる。(6)ペット飼育について3割弱は禁止すべきでないとしている。(7)「住まいのしおり」は,7割ほどがもらっていて一応は目を通している人が多い。(8)「住み方ルール」のあり方として「個人個人の自主性に任せるしかない」とする意見が圧倒的に多い。 以上をもとに,項目ごとに多くの人々に受け入れ可能な「標準住み方ルール」をつくり,「住まいのしおり」の改善等を通じて普及,定着してゆくことが緊急の課題といえる。
著者
藤原 美樹 石丸 進 松本 靜夫
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究論文集 (ISSN:18802702)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.201-212, 2010 (Released:2018-01-31)

本研究は,書院造の三要素である,床の間,付書院,違棚と中国古典様式家具との関連性を検証し,書院造の室内意匠の成立に起因する中国家具文化の受容と変容を探ることを目的としている。まず関連文献史料の収集,分析そして,中国寺院建築や伝統的民居,園林建築の室内意匠の実地調査を行い検証した。その結果日本では,留学僧(渡海僧)などによる文物交流により,請来された中国古典様式家具文化は家具として定着せず,独自の展開がみられ,建築の室内構成要素として日本的な家具文化を形成したものであることを明らかにすることができた。