著者
中山 研一朗 島田 久弥 浦東 聡介 岩井 大河 吉川 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2022 (Released:2022-03-28)

1. はじめに 日本における合計特殊出生率(以下TFR)は、南西の地域ほど高く、北東の地域ほど低いことが知られている 。佐々井(2007) は、日本全国を9つのブロックに区分して、夫婦の出生力と、その原因と考えられる項目を比較・分析した。一方、国立社会保障・人口問題研究所による出生動向基本調査(2015)では、男女が結婚を決める理由と、夫婦が子どもを持つに至る理由について幾つかのアンケートを集め、分析を行っている。佐々井の研究におけるブロック単位での分析を、都道府県単位へと細分化することで、都道府県固有の特性にも視点を持たせたより詳細な分析を目指した。出生動向基本調査を踏まえながら、TFRに対する影響要素とそれを示す項目を仮説的に案出し、それらに相当する統計データとTFRの相関の状況を比較・分析した。2. 方法2.1 データ収集方法 項目の分析にあたっては、都道府県別(以下 県)で得られるデータを用いて2項目間の相関分析を行った。データの多くは国勢調査を利用したが、2020年実施分は未だ公開されていない項目があるため、2015年実施分を利用し、他の項目も原則として2015年のデータを用いることとした(2015年のものがない一部項目は近い年のデータを採用)。 2.2 仮説として設定したデータ項目 1)「女性の婚姻率」:日本における非嫡出子割合は低水準であることも踏まえ、TFRとの直接的な相関を確認 するとともに、同項目への影響要素として他項目を案出した。 2)「夫婦あたり子ども数」:同様にTFRに直接かかわる項目であることを確認3し、同項目への影響要素を案出。 3)「女性の就業率」:仕事を優先することで出産を控えるよう影響するものと想定。 4)「非正規雇用率」:非正規雇用による低所得や就業の不安定さが結婚、出産を躊躇させると想定。 5)「女性の大学進学率」:高学歴化により就業開始年を引き上げ、仕事への意欲から結婚の優先度が下がると想定。 6)「三世代同居率」:祖父母に子どもの面倒を見てもらえることが、子育てのしやすさに繋がると想定。 7)「女性の初婚年齢」:早期結婚は出産可能期間を拡げ、体力のある若い時期の子育てが多産へ繋がると想定。 8)「世帯年収」:収入が高いことで養育費、教育費が確保でき、多産につながると想定。9)「教育支出」:教育支出が高い地域では、2人目、3人目の出産を躊躇する傾向にあるとの想定。3. 分析結果の概要 今回の分析結果は要旨に記載した表1のとおり。 3)20代の女性就業率が高い県は婚姻率も高く、仮説に反して強い正の相関が認められ、TFRとの正の相関もみられる。 4)男性20代の非正規雇用率が高い県は婚姻率が低く、強い負の相関がある一方で、男性30代の非正規雇用率の場合、婚姻率との相関は低下した。 5)女性大学進学率が高い県は、30歳前後の女性婚姻率とTFRに強い負の相関がみられる。 6)三世代同居率は夫婦あたり子ども数とは相関はみられず、仮説には合致しなかった。 7)女性初婚年齢が高い県は、女性婚姻率、TFRともに低く、強い負の相関がみられた。 8)世帯年収が高い県は、仮説に反し、夫婦あたり子ども数、TFRともに低く、強い負の相関がみられる。9)教育への支出は、仮説に反して夫婦当たり子ども数には相関が見られない一方で、女性婚姻率とTFRに負の相関がみられた。4. 考察 分析前に立てた仮説に合致しなかったものについて、下記のとおり仮説を修正、考察する。 3)女性就業率との正の相関は、仕事をきっかけに出逢いの機会が得やすいことと、「出生動向基本調査」(2015)にある通り、結婚への最大の障害が結婚資金であるという調査結果を支持すると考える。 4)男性30代非正規率を県別に見ると、20代に比べ分散が低い。歳とともに正規雇用が増えることで県別正規雇用率が均され、婚姻率との相関が弱まったものと予想。 6)三世代同居率との無相関は、子どもが増えると家が手狭になり別居し始めることや、子ども数の少ない東北地域で三世代同居率が高かったことが背景していると予想。 8)世帯年収との負の相関は、世帯年収の高い世帯は共働き世帯が多く、出産を抑制する影響があるためと予想。 9)子ども数の少ない県では一人あたりの教育支出が高く、多い県では一人あたりの教育支出が低く、結果として子ども数と教育支出に相関が現れないと予想。更なる分析を行う上では、対象地域の細分化や、複数年度のデータによる精度の向上や、相関分析から一歩進め、因果関係の側面から掘り下げるなど、仮説の更なる検証を進める余地があり、これが今後の課題と考える。