著者
松本 健佑
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.106, 2022 (Released:2022-03-28)

本研究の目的は,地方選挙が同時に行われると国政選挙の投票率が上がるのかを検討することである.2004~2013年の参議院選挙が地方選挙と同時に行われた際にどの程度投票率が上昇したのか,差の差法によって分析した.分析の結果は以下の3点にまとめられる.第1に,地方選挙が同じ日に行われると平均で6.65ポイント参議院選挙の投票率が上がる.第2に,都道府県レベルの選挙よりも市区町村レベルの選挙が同時に行われたときの方が参議院選挙の投票率が大きく上がる.第3に,市区町村レベルの選挙については,首長選挙よりも議会選挙が同時に行われたときの方が参議院選挙の投票率が大きく上がる.また,同日選挙の効果は地域によって異なるのかについても分析した.その結果,市区町村レベルの選挙が同時に行われる場合は,農村的な地域であるほど参議院選挙の投票率が上がることがわかった.
著者
于 燕楠 伊藤 修一 鈴木 晃志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.136, 2022 (Released:2022-03-28)

研究目的 超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,人目に触れ認知されなければならない.ゆえに,その舞台として共有される心霊スポットの布置には,社会の価値観や役割期待が反映されうる.本発表は,基盤地図情報としてオープンデータ化されている各種公共施設や森林地帯のデータと心霊スポットの位置情報を手掛かりに,心霊スポットがどのような地物と近似の分布傾向を示すかの検討を通じて,分布傾向上の特質を解明する企図をもつ.エミックに扱われがちな事象をエティックに捉える試みであり,妖怪変化の分類学を志向するものでもなければ,超常現象の有無を論ずるオカルティズム的関心も有しない.研究方法・分析対象 周知のとおり,空間解析は商圏分析に代表されるXY軸上のデータの分析と,流域解析に代表されるZ軸の分析からなる.本発表ではこれを,①最近隣空間的隣随伴尺度による空間分布パターンの随伴性の分析(X,Y軸),②森林地帯ポリゴンを用いた被包含率の分析(X,Y軸),③DEMを援用した標高値および傾斜角の解析(Z軸)に読み替えることで,心霊スポットの分布特性を三次元的に検証する.データは,2021年時点で入手可能な最新の国土数値情報の各種公共施設と,森林地帯ポリゴン,「全国心霊マップ」から抽出した心霊スポットの点データである.分析対象には,その総面積(83,450 km²)がチェコ(78,865 km²)やオーストリア(83,871 km²)に比肩し,かつ広域自治体とその地理的領域がいずれも隣接する他の都道府県からの影響を受けない北海道を選定した.結 果 Z検定の結果,病院,最終処分場, 精神病院が心霊スポットとの有意な随伴傾向を示す一方,小学校,公民館, ダム, 浄水場, 役所, 配水池, 僻地保健福祉館, 火葬場が有意な離反傾向を示した.この傾向は、我々が先に公表した日本全国の分析結果と概ね矛盾しない(鈴木ほか2020). しかしながら,水平軸上では離反傾向にある浄水場,火葬場,配水池は,垂直軸(高度や傾斜角)上では心霊スポットと有意差が検出されず,分布傾向の近似性が示された.同様に,森林地帯ポリゴンを用いて,各施設の立地地点が森林地帯に含まれる割合を求めたところ,10%以上の値を示した施設はダム(25.3%),心霊スポット(33.3%),火葬場(37.8%),配水池(43.8%),浄水場(53.4%)の5種類のみであり,ここでも心霊スポットとの近似性が示された(全施設平均とのχ2検定結果はいずれも有意差あり). 心霊スポットは他の公共施設と異なる独自の分布傾向を示す(鈴木ほか2020).この独自性は,水平軸で病院や精神病院,最終処分場に近く,かつ垂直軸で有意差のない浄水場や配水池,火葬場に近似する高度や傾斜,あるいは森林への被包含率をもつ場所が心霊スポットの好発地になりうることを示した本発表の知見によって解釈可能である. 分析はなお継続中であり,当日はオープンデータを用いたさらなる分析結果を議論に供する予定である.文 献鈴木晃志郎・伊藤修一・于 燕楠 2020. 心霊スポットは何と空間的に随伴するのか. 日本地理学会発表要旨集2020(807) https://doi.org/10.14866/ajg.2020s.0_31
著者
宋 苑瑞 CANTOR Alida CHANG Heejun
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.182, 2022 (Released:2022-03-28)

近年、カリフォルニア州では深刻な干ばつが発生しており、社会的・生態的にさまざまな影響を及ぼしている。環境への影響としては、地下水の枯渇、大規模な山火事、生態系の劣化などが挙げられる。本研究では、干ばつの影響を強く受けているカリフォルニア州を対象に、農産物の生産と輸出に使用された水の量を仮想水の形で計算した。また、カリフォルニア産の農産物の輸出先や近年の輸出量の変動を把握した。カリフォルニア州の農業輸出に基づき、どの作物が、あるいはどれだけの仮想水が、どの地域に移動しているかを分析した。分析には2010年から2019年までのデータを使用した。この期間には、2014年から2016年にピークを迎えた深刻な干ばつが含まれる。さらに、干ばつが続いている環境下での地下水位の変動を検討し、カリフォルニア州の農業の持続可能性について検討した。カリフォルニア州は、米国内において農業生産額が最大の州であり、全米の野菜の3分の1以上、果物・ナッツ類の3分の2を供給している。カリフォルニア州の農産物輸出は年々増加し、2019年の農産物輸出額は217億ドル(約2兆5千億円)に達した。カリフォルニアが農業生産の世界的リーダーとしての役割を担っているのは、その大規模な灌漑システムに直接起因するものである。干ばつは水に依存する産業に影響を与える可能性がある。継続的な干ばつと水不足に対応するため、カリフォルニア州の農業生産者は、数十年にわたり、地下水の利用に依存している。 カリフォルニア州の農産物の主な輸出先(輸出額の大きい順に)は、欧州連合(EU)、カナダ、中国・香港、日本、韓国、メキシコ、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、台湾、トルコであり、これらを合わせると輸出額全体の68%を占めている。2010年から2019年の間に、EU、韓国、インドへの輸出はそれぞれ60%、83%、228%増加した。しかし、各輸出先のシェアは10年間で減少しており、輸出先が多様化している。 輸出農産物に含まれる仮想水量を計算すると、最も多いのは乳製品で、過去10年間で輸出量が大幅に増加した。輸出された乳製品に使用された仮想水の量は、年間60億トンを超える。次に多いのは、アーモンドやピスタチオなどの木の実類である。過去20年間で、ナッツ類(アーモンド、ピスタチオ、クルミ)の輸出額は9.5倍になった。米は4番目に水を大量に消費する製品だが、過去10年間で約10%減少した。カリフォルニア州の乳製品の最大の輸出先はメキシコ、次いでフィリピン、中国・香港、韓国、カナダと続く。特に、フィリピン、台湾、UAE、オーストラリア、韓国への米国産乳製品の輸出の増加率は非常に高い。台湾への乳製品・製品の輸出額は、過去10年間で7.1倍に増加した。同期間にUAE、オーストラリア、韓国への輸出額はそれぞれ4.9倍、3.7倍、3.5倍になった。アーモンドやクルミなどの木の実の輸出額は、過去20年間で約10倍に増加した。また、果物や野菜の輸出額も同期間に2倍以上になった。 カリフォルニア州の農業が主に行われているセントラルバレー地域では、2010〜2019年の間に3メートル以上地下水位が低下した地点が多くみられた。特にカーン郡の一部の地域では、わずか2年間で287cm地下水位が低下した。カリフォルニア州の農業生産の特徴は、海外への輸出量が多いことであり、その結果、仮想水の移動も大きくなっている。生産に大量の水を必要とする乳製品や木の実は、所得水準の上昇に伴い世界的に需要が高まっており、今後も増加することが予想される。 カリフォルニア州では、これらの高価値、高需要の商品の生産を減速する気配がみられない。しかし、カリフォルニア州が農業生産と輸出のために持続不可能な地下水の採取に依存し続ければ、環境への影響は避けられず、生態系にもダメージを与え、次の世代に残す資源も少なくなる可能性が高い。
著者
徳本 直生 苅谷 愛彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.117, 2022 (Released:2022-03-28)

【はじめに】飛騨山脈・立山火山南部に位置する五色ヶ原には,モレーン状の微高地群が分布する.従来の研究では,これらは氷河成と考えられてきたが,次のような問題点が挙げられる.すなわち,i)航空レーザ測量技術の進展による高精度・高解像度な地形解析が可能になって以降の研究はほとんどなされていないこと,ii)大縮尺での微地形判読がなされていないこと,iii)詳細な地質学的記載などの根拠に基づく議論に乏しいこと,iv)成因について地形形成作用が多角的に検討されていないこと,である.飛騨山脈の氷河地形に関しては,成因が再検討された結果,崩壊成と結論付けられた例が増えている.以上の経緯から,本研究では五色ヶ原に分布するモレーン状地形について,1 m-DEMを用いた地形判読と現地踏査を基にその成因を再検討した.【結果】モレーン状地形は,細長く直線に近い堤防状地形(lv),楕円形のマウンド状地形(md),環状に湾曲するループ状地形(md)の3つの形態の微高地からなることがわかった.lv は比高0.5-2 m,長さ数mから約150 m,幅2-10 mであり,長軸の走向は台地の一般最大傾斜方向とほぼ一致する.md は比高最大5 m,長径数mから40 mである.lp は比高数m,幅数mから20 mであり,長さ100 m近く連続するものが多い.md と lp は,lv の斜面下方で卓越する.また,これら微高地群の間には凹地が分布する.凹地は大きなもので長径30 m前後であり,周囲にlpを持つものもある.踏査の結果,モレーン状地形は安山岩・アグルチネート岩塊を含む不淘汰岩屑層からなることがわかった.地表面に巨礫が濃集し,細粒物質に乏しい.擦痕のついた基盤岩や氷食礫は認められない.【考察】モレーン状地形の成因を再検討し,次の結論を得た.a)モレーン状地形は氷成とされてきたが,以下の点で否定される.すなわち,氷河の推定流動経路に氷河侵食地形(氷河擦痕のある基盤岩や氷食礫)が認められないこと,モレーン状地形の構成物質に氷河底変形構造など氷河地質特有の構造が認められないこと,である.b)モレーン状地形は岩石なだれで形成されたと考えられる.その発生域は,lv の長軸方向の延長から五色ヶ原西方にかつて存在した火山体と考えられる.c)微高地群間の凹地は,岩石なだれが雪氷塊を含んだ状態で定置したことに起因する.移動物質内の雪氷塊が融解することで地表面が陥没し,凹地が形成された.これは,岩石なだれ発生域の火山体が氷河や大型越年雪渓を湛えていたことを前提とする.d)この前提に依れば,岩石なだれの発生年代は更新世後期と考えられる.
著者
中村 友美 鈴木 秀和 山川 信之 市川 清士
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.168, 2022 (Released:2022-03-28)

1.はじめに 地下水は,上水道事業が広く普及された今日においても重要な水資源として多くの地域で利用されている。一方,人為的影響を伴った地下水は,沿岸に発達する生態系への影響などが問題視されている。琉球列島南部の八重山諸島東端に位置する石垣島白保地区の前面海域には,サンゴ礁をはじめとする貴重な自然環境が残っている。しかし,白保地区の地下水に関する詳しい報告は少ない。このような状況を踏まえ,本研究では,更新世の琉球石灰岩上に位置する白保地区を対象に水位変化および水質調査を行い,白保地区における現時点における地下水の諸特性を明らかにすることを目的とする。2.調査方法 水位観測は,汀線から内陸部にかけて調査測線を設定し,3地点にロガー(自記記録計)を設置した(図1)。データ取得期間は,2020年9月3日から約1年である。No.2は地面標高が確約していないため,データ解析にはNo.1およびNo.3を使用した。潮位データは,気象庁が観測および公開している1時間間隔実測潮位を使用した。また,測水調査は, 2020年9月10日~12日及び2021年9月6日に実施した。調査地点は,民家の井戸を対象に,2020年に14地点,2021年に10地点調査した。井戸の状況をふまえて地点数は異なっている。現地では気温,水温,EC(電気伝導度),地下水位を測定した。採水した試料は,駒澤大学地理学科の実験室で主要溶存成分の分析を行った。 3.結果および考察 1)地下水位の観測結果 今回得られた地下水位の観測結果では,潮汐変動の影響を顕著に受けていることが認められた(図2)。無降雨時の2020年9月17日~19日の範囲をみると,各地点とも潮位のピーク後に水位のピークを迎えていることが分かる。その時差は,無降雨時の満潮時にそれぞれNo.1およびNo.3で,約1時間,約2時間であり,干潮時は約2時間,約3時間であった。汀線からの距離によって時差が異なり,それぞれ満潮時と比べ干潮時の時差が大きいことが分かる。また,9月18日の水位の振幅は,潮位の振幅が1.84mの時にNo.1で0.83m,No.3で0.53mと内陸へいくほど小さくなる。2)水質調査結果 水質組成は,全体的にNa-Cl(アルカリ非炭酸塩)型を示した(図1)。海岸に近くになるほど,Na+,K+,Mg2+,Cl-,SO42-濃度が高くなり,内陸部になるとNa-Cl型ではあるが,全体に占めるCa2+とHCO3-濃度が沿岸付近よりも高くなり,海水の影響度が低くなることが判明した。しかし,汀線と平行に海水の影響度は低くならず,調査地点の北側と南側で異なる傾向を示した。調査地点の北側では,陸域の地下水中に多く含まれるCa2+・HCO3-・NO3-,南側では,Na+・K+・Mg2+・Cl-・SO42-が相対的により多く含まれていたが,海水とその影響がない地下水(石垣島鍾乳洞)のCl-濃度を用いた二成分混合モデルにより各井戸への海水の混合率を求めたところ,2020年の調査では約1~8%,2021年の調査では約3~22%であった。汀線からほぼ同距離であるが,北側と南側では,約2倍の差があることが分かった。潮汐による溶存成分量の変化は,大きく表れなかったものの,微量な変化は認められた。4.まとめ 本研究では,琉球列島南部の八重山諸島東端に位置する石垣島白保地区における地下水の水位変化及び水質調査を行った。その結果,地下水位は,潮位と位相差が生じているものの,潮汐と対応して周期的な変動をしていることが明らかとなった。水質調査の結果も兼ねて,井戸への直接的な塩水遡上はないものの,海水および地下水が地下内部で連続していると判断できる。
著者
中山 研一朗 島田 久弥 浦東 聡介 岩井 大河 吉川 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2022 (Released:2022-03-28)

1. はじめに 日本における合計特殊出生率(以下TFR)は、南西の地域ほど高く、北東の地域ほど低いことが知られている 。佐々井(2007) は、日本全国を9つのブロックに区分して、夫婦の出生力と、その原因と考えられる項目を比較・分析した。一方、国立社会保障・人口問題研究所による出生動向基本調査(2015)では、男女が結婚を決める理由と、夫婦が子どもを持つに至る理由について幾つかのアンケートを集め、分析を行っている。佐々井の研究におけるブロック単位での分析を、都道府県単位へと細分化することで、都道府県固有の特性にも視点を持たせたより詳細な分析を目指した。出生動向基本調査を踏まえながら、TFRに対する影響要素とそれを示す項目を仮説的に案出し、それらに相当する統計データとTFRの相関の状況を比較・分析した。2. 方法2.1 データ収集方法 項目の分析にあたっては、都道府県別(以下 県)で得られるデータを用いて2項目間の相関分析を行った。データの多くは国勢調査を利用したが、2020年実施分は未だ公開されていない項目があるため、2015年実施分を利用し、他の項目も原則として2015年のデータを用いることとした(2015年のものがない一部項目は近い年のデータを採用)。 2.2 仮説として設定したデータ項目 1)「女性の婚姻率」:日本における非嫡出子割合は低水準であることも踏まえ、TFRとの直接的な相関を確認 するとともに、同項目への影響要素として他項目を案出した。 2)「夫婦あたり子ども数」:同様にTFRに直接かかわる項目であることを確認3し、同項目への影響要素を案出。 3)「女性の就業率」:仕事を優先することで出産を控えるよう影響するものと想定。 4)「非正規雇用率」:非正規雇用による低所得や就業の不安定さが結婚、出産を躊躇させると想定。 5)「女性の大学進学率」:高学歴化により就業開始年を引き上げ、仕事への意欲から結婚の優先度が下がると想定。 6)「三世代同居率」:祖父母に子どもの面倒を見てもらえることが、子育てのしやすさに繋がると想定。 7)「女性の初婚年齢」:早期結婚は出産可能期間を拡げ、体力のある若い時期の子育てが多産へ繋がると想定。 8)「世帯年収」:収入が高いことで養育費、教育費が確保でき、多産につながると想定。9)「教育支出」:教育支出が高い地域では、2人目、3人目の出産を躊躇する傾向にあるとの想定。3. 分析結果の概要 今回の分析結果は要旨に記載した表1のとおり。 3)20代の女性就業率が高い県は婚姻率も高く、仮説に反して強い正の相関が認められ、TFRとの正の相関もみられる。 4)男性20代の非正規雇用率が高い県は婚姻率が低く、強い負の相関がある一方で、男性30代の非正規雇用率の場合、婚姻率との相関は低下した。 5)女性大学進学率が高い県は、30歳前後の女性婚姻率とTFRに強い負の相関がみられる。 6)三世代同居率は夫婦あたり子ども数とは相関はみられず、仮説には合致しなかった。 7)女性初婚年齢が高い県は、女性婚姻率、TFRともに低く、強い負の相関がみられた。 8)世帯年収が高い県は、仮説に反し、夫婦あたり子ども数、TFRともに低く、強い負の相関がみられる。9)教育への支出は、仮説に反して夫婦当たり子ども数には相関が見られない一方で、女性婚姻率とTFRに負の相関がみられた。4. 考察 分析前に立てた仮説に合致しなかったものについて、下記のとおり仮説を修正、考察する。 3)女性就業率との正の相関は、仕事をきっかけに出逢いの機会が得やすいことと、「出生動向基本調査」(2015)にある通り、結婚への最大の障害が結婚資金であるという調査結果を支持すると考える。 4)男性30代非正規率を県別に見ると、20代に比べ分散が低い。歳とともに正規雇用が増えることで県別正規雇用率が均され、婚姻率との相関が弱まったものと予想。 6)三世代同居率との無相関は、子どもが増えると家が手狭になり別居し始めることや、子ども数の少ない東北地域で三世代同居率が高かったことが背景していると予想。 8)世帯年収との負の相関は、世帯年収の高い世帯は共働き世帯が多く、出産を抑制する影響があるためと予想。 9)子ども数の少ない県では一人あたりの教育支出が高く、多い県では一人あたりの教育支出が低く、結果として子ども数と教育支出に相関が現れないと予想。更なる分析を行う上では、対象地域の細分化や、複数年度のデータによる精度の向上や、相関分析から一歩進め、因果関係の側面から掘り下げるなど、仮説の更なる検証を進める余地があり、これが今後の課題と考える。
著者
杜 国慶 康 乃馨
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.80, 2022 (Released:2022-03-28)

本研究は、東京23区を事例として、中国の観光支援アプリ「大衆点評」に掲載されている口コミ情報を分析し、中国人観光者の飲食選好の空間構造を解明する。具体的には、GISを用いて、飲食店の属性(投稿数、価格、推薦など)の分布と関係性を探る。
著者
松多 信尚 陳 侃
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.189, 2022 (Released:2022-03-28)

はじめに 大規模な自然災害の発生を契機に,防災対策は防災・減災対策へと変化し,公助から自助・共助が重視され,それに合わせて防災教育も防災訓練などを通して命を守る教育から教科横断的に社会全体の脆弱性を減らすことが求められるようになった。 日本,台湾,中国大陸ではそれぞれ阪神淡路大震災,東日本大震災,集集地震,四川地震といった同じような大規模災害を経験したことで,防災・減災に対する考え方が変化した。防災教育もそれに合わせて大きく変化しつつある。一方,学校での防災教育は近年重視されているが,十分に伝達できないという事が指摘されている(一般社団法人防災教育推進協会, 2018)。そこで,本研究では防災教育の変化を分析し,十分に伝達できていない要因について,日本,台湾,中国大陸における防災教育を比較しながら考える。 研究方法 研究方法は,日本は平成元年から平成29年まで(合わせて四回の時期)の学習指導要領,現行の学習指導要領解説書および教科書(東京書籍),台湾においては,最新の日本の学習指導要領にあたる「十二年國民基本教育課程綱要」(2019),中国大陸では指導要領にあたる「課程標準」(2011)および関連する最新の教科書(人民教育出版社,2016または2018)に現れる防災教育の記述の変化を検討した。残念ながら台湾の現行の教科書は入手できなかった。検討方法は,それぞれのテキストの内容を「ChaSen」(日本語),「Stanford POS Tagger」(中国語)を用い使用単語などを分析し,KH Coder を用いてその関連性を明らかにした。次に日本地域(岡山市などの被災未経験地,神戸市など被災経験地)の小・中学校教員に対し,Web形式のアンケートを行い,教育現場の教員の防災や防災教育に対する意識を把握した。 結果と考察 学習指導要領や教科書の分析の結果,日本の第一時期(平成元年度の学習指導要領とその時期の教科書)では理科と防災訓練しかなかった防災訓練の記述が,阪神淡路大震災以降は社会科,家庭科,保健体育にまで広がっただけでなく,教科書で使用される語彙数や防災教育を主題とする単元の増加が見られた。また指導の際も,発達段階に合わせながらも,生徒たちが考えることや,状況に応じて自分の取るべき行動を判断する能力の育成が求められるようになり,主体的な判断力を育む防災教育への変化がみられ,東日本大震災以降その傾向が強まっていることがわかった。 現行の学習指導要領にみられる中国大陸と台湾の防災教育では,日本の過去第三時期(平成20年公示した学習指導要領)と似ており,その変化は大きな災害からの経過時間と関連していると推測された。一方で中国の教科書は,課程標準の内容が反映されていない部分がある。これは,教科書は学習指導要領の改正(防災教育の考え方の変化)に追いついていない可能性を示唆する。また,日本の教科書と比べて,共助に関する記述が少ないことや,知識を中心とする学びであることも特徴である。 アンケート調査結果は総数65の回答が得られた(その中被災経験のある地域24名,被災経験のない地域38名,地域不明3名)。数は少ないものの,現場の教員が防災訓練から教科横断型の防災教育への変化を実感しつつも,適切な判断能力に必要と思われる、現代社会の実態把握や,身近な地域の学習などを授業に反映している教員はまだ少なく,教員自身が防災教育に関する研修が必要だと考えていることなど,模索中である実態が示唆された。 以上から,防災教育は社会の変化に合わせて指導要領で求められることが変化しているものの,その変化に対して教科書や現場の先生の理解には時間遅れが生じており,現場の先生の理解を深めるための教材作成などが必要であることがわかった。 また,中国での防災教育が日本と比較して共助の記述が少ない背景には,土地と人間(社会やコミュニティー)との関係性の違いなども推察され,防災教育には普遍的な側面や場所に依存した局所的な側面があるだけでなく,民族的な考え方や国の状況などローカル(地域的region?)な側面も作用していることが考えられ,検討する必要がある。 今回の調査では,教科書の出版社数は限られていて,教科書自体も出版年により修正されることもあるなど検討が十分でないことや,アンケートの総数も限られてるなど,補足する必要がある。
著者
黒田 春菜 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2022 (Released:2022-03-28)

Ⅰ はじめに 本研究では、最新の現地調査(2021 年 11月)と過去のデータ及び既往研究との比較を行うことで、猪苗代湖の中性化の現状をより明らかにすることを目的としている。また、2021年11月に底泥採取および珪藻分析を行ったため、その報告も兼ねる。 Ⅱ 地域概要 猪苗代湖は、汽水湖であるサロマ湖を除けば、国内における湖面積第3位を誇る。流入河川としては主に北岸へ流入する長瀬川があり、総流入量の半分以上を占める。ついで南岸へ流入する舟津川がある。流出河川は日橋川と安積疎水がある。日橋川は天然の流出河川であり、安積疎水は人的に管理されている。 Ⅲ 研究方法 現地では気温、水温、pH、RpH、電気伝導度(EC)の測定をおこなった。試料は実験室で処理し、TOC やイオンクロマトグラフを用いて主要溶存成分(N+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl−、NO3−、 SO42−)の分析をしている。その他湖心の調査なども行った。また、採取した底泥は筒状に採泥し、上部5mm。下部5mmずつ削って珪藻プレパラートを作成した。 Ⅳ 結果と考察 猪苗代湖および浜では、とりわけ湖西部で生活排水や湖岸植生「ヨシ」の枯死によって人的もしくは自然的な影響によるpHの上昇が見られた。沼ノ倉2号橋では、放水が起こるとEC値が通常時の50µS/cm前後から150µS/cm以上にまで大きく上昇することがわかった。しかしこの放水が湖水にもたらす影響は微々たるものであるため、猪苗代湖の中性化は長瀬川の水質に大きく左右されることがわかった。長瀬川に合流する旧湯川(湯川橋)の水質は、強酸性である硫黄川とアルカリ性である高森川の2河川の水質に大きく左右されることもわかった。上下で2枚作製した珪藻プレパラートは、上下で出現珪藻に違いが見られた。上部における最多出現属はフラギィラリア(Fragilaria)属、下部ではナビィクラ(Navicula)属が最多であった。 Ⅴ おわりに 化学的分析および生物学的分析により猪苗代湖の中性化についての議論が深まったが、これらをより確固なものとするためにも今後も定期的な調査が必要である。特に珪藻分析の質を高め、流量の測定に一段と気を配りつつ、猪苗代湖および集水域の調査を継続していきたい。 参 考 文 献 小寺浩二・森本洋一・斎藤圭(2013):猪苗代湖および集水域の水環境に関する地理学的研究(4) -2009年 4 月~ 2012年 11月の継続観測結果から-, 2013年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.
著者
佐賀 達矢 野中 健一 VAN ITTERBEECK Joost
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.62, 2022 (Released:2022-03-28)

1. はじめに 国連食糧農業機関(FAO)が、昆虫類を食品や飼料としての利活用に関する論文(van Huis et al. 2013) を出版して以来、世界各地で昆虫の利用が広がっている。日本では、これまで食文化になかった種類の昆虫食が広っており、大手生活雑貨店でコオロギせんべいが、自動販売機では乾燥させた様々な昆虫が販売されたりしている。これに対して、岐阜県東濃地方の蜂の子やイナゴを食べる伝統的な昆虫食は長年の人間と環境の相互作用によって作り上げられてきた文化である(野中2005)。これらは、高校生の地域文化資源・環境の継承の題材にもなっている(Nonaka & Yanagihara 2020)。筆者らは、伝統的な昆虫食文化を理解することは食料問題や環境問題の本質的な理解につながると考え、高校生を対象に昆虫食の試食を伴う講演会を行った。本研究は高校生の昆虫食の経験や捉え方、昆虫食文化の講演会の効果を明らかにすることを目的とした。 2. 研究手法 本研究では、2018と2019年に昆虫食文化が現在も残る岐阜県東濃地域にある多治見高校で、2021年には地域内に昆虫食文化がほとんどない岐阜高校で試食を伴った希望者向けの講演会を行なった。参加者数は多治見高校で2018年に69名、2019年に15名、岐阜高校では42名だった。私たちは、高校生の昆虫食の経験や捉え方、講演会の効果について、講演会前後にアンケートと感想文を書かせ、それらをもとに分析・考察した。 3. 結果と考察 現在も昆虫食文化が残る東濃地域にある多治見高校の方が、そうでない岐阜地域の岐阜高校よりも昆虫食の経験がある生徒が多いことが予想されたが、岐阜高校の方が多治見高校よりも昆虫食の経験がある生徒の割合が多かった。また、虫を食べることに対する講演会前の考えを尋ねた結果、多治見高校の方が岐阜高校よりも抵抗感があると答えた生徒が有意に多かった。これらの結果から、昆虫食文化は多治見市周辺の高校生には浸透していないことが考えられ、また、昆虫食に拒否感をもっている生徒が多いことは特筆すべきことである。 多治見高校でも岐阜高校でも、講演会前には抵抗感を示した多くの生徒を含めて、ほとんどの生徒が実際に虫を食べた後では虫を食べることを好意的に捉えた。また、アンケートの回答や感想文には、実際に虫を食べることで昆虫は美味しいから食べられてきたことが実感できた、食材として認識した、など肯定的な記述が多く見られた。これは単純に昆虫を食べるだけでなく、食材を捕りに行くこと、調理すること、食べることが楽しいから、美味しいから虫を食べるということを、捕獲から食用までのプロセスとそれを成り立たせる社会文化として映像とともに言語化して伝えることで、虫を食べることは食文化の一つであることを生徒が理解できた結果だと考えられる。試食を伴う伝統的な昆虫食に関する講演会は、昆虫食を文化と捉え、好意的な見方にする効果があることがわかった。 高校の地理総合の“気候と生活文化”や、生物の“生態学”の単元では、授業を行う地域を含めた各地の伝統的な昆虫食文化を取り上げることで、高校生が自らの生活の延長線上での豊かな食や暮らしを考えることや、自然と関わって生きる視点を身につける授業展開が可能であろう。この考え方や視点は近年様々な場面で目にするSDGsや持続可能な発展を捉え直したり、批判的に考えたりする基盤となる力になると考えられる。
著者
勝又 悠太朗 堀本 一樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.206, 2022 (Released:2022-03-28)

1.はじめに 発表者は,インドにおける新型コロナウイルス(COVID-19)感染の地域的特徴をGISによる地図化を通じて検討し,その結果を発表してきた(勝又・月森,2020;勝又ほか,2021;Katsumata et al.,2021など)。そこでは,主に州別・月別にみた感染者数のデータを使用し,感染動向の地域的特徴を明らかにしてきた。本発表も,その続報に位置づけられるが,今回は具体的なデータ分析の結果を提示するのではなく,研究の過程で浮き彫りとなったデータ分析に関わる課題を報告する。ここでは,①感染者データの入手に関する課題,②県別のデータ分析に関する課題,③他のデータとの併用に関する課題の3点を主に取り上げることにする。 2.感染者データの入手に関する課題 これまで分析には,covid19india.orgが収集し,ウェブサイトで公開しているデータを使用してきた。同組織は有志による活動のため,公的な組織ではないが,国や州などが発表する情報を中心に収集を行ってきた。公開されるデータには,インド全体の感染者のデータに加え,州(State)別,県(District)別に集計された地理情報を含んだデータもあり,時系列にデータを入手することができる。そして,これらのデータの学術研究への利用も進んでいる。しかし,同組織によるデータの収集と公開の活動が,2021年10月31日をもって終了したため,11月1日以降のデータを入手することが出来なくなり,以降のデータ分析を行うための大きな課題となっている。3.県別のデータ分析に関する課題 これまで発表者は,主として州別の感染者データを使用した分析を行ってきた。一方,州よりも小さな行政単位である県別の感染者データも公開されている。県別のデータ分析をすることで,感染の地域的特徴をより詳細に明らかにすることができると考える。しかし,県別のデータを使用した分析を実施するにあたっては,いくつかの課題も存在する。まず,covid19india.orgが収集したデータの中には,県別のデータが存在しない州もあることである。また,県の境界が変更されることがあるため,感染者のデータと結合する際にGISで使用する県の境界データの入手も課題となる。 4.他のデータとの併用に関する課題 最後の点は,上記の県別のデータ分析に関する課題とも関わるが,感染者のデータと他の統計データをGISで併用する際に生じる課題があげられる。例えば,人口あたりの感染者数を地図化する際には,州別や県別の人口数のデータを入手する必要がある。こうした人口データは,インドのセンサス(国勢調査)に含まれるが,2022年1月の時点で使用できる最新のものは2011年のセンサスに基づくデータとなる。2011年以降,州と県の中には境界の再編が生じたものもあり,現在の州・県の境界に合わせデータを再集計する必要がある。ただし,県の中には,境界が複雑に再編されたものもあり,データの再集計が困難な場合もある。センサスには社会・経済的な様々なデータが含まれるが,感染者のデータと併用する際には課題も多い。
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.25, 2022 (Released:2022-03-28)

スポーツの国際大会において,出場選手は地理的環境の異なる場での競技パフォーマンスを高めるために事前合宿を行う。東京2020五輪大会では,政府が事前合宿の場を全国から募り,ホストタウン政策を実施した。共生社会ホストタウンはパラリンピック選手の事前合宿を受け入れるもので,競技施設や宿泊施設,また交流事業を行う公共施設などのバリアフリー化が事業計画に含まれる。 日本の障害者政策には2006年のバリアフリー新法があるが,東京2020大会は施設整備を推し進める契機として期待された。共生社会ホストタウンの事業計画には,地方自治体にとって福祉のまちづくりの推進への期待が読み取れる。全105の登録自治体の事業計画を整理すると,直接パラリンピックに言及するものよりも当該自治体の福祉政策を反映しているものが多い。スポーツ施設だけでなく,教育施設や交通インフラ,観光施設,防災関係の計画も少なくない。ソフト面ではバリアフリーマップや啓発用パンフレットの作成,障害者関連条例に関する記述などもある。自治体のウェブサイトでは事前合宿の様子が報告されているが,具体的な施設整備の状況は確認できない。そこで,自治体の予算書から五輪関連予算の内訳を確認した。4市の事例から,施設整備とその財源,地方都市におけるスポーツ・イベントの存在,ツーリズムとの関連と新型コロナウイルス感染症対策,オリンピックを契機としたまちづくり計画の加速化が明らかにされた。諸施設のバリアフリー化の詳細や,政府の財政支援の詳細については明らかにできなかった。ホストタウン政策を通じて全国に分配しようとした五輪大会の効果は限定的なものとなったが,各自治体の取り組みは福祉のまちづくりをある程度推進したといえよう。