著者
山名 哲郎 牧田 幸三 岩垂 純一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.799-806, 2002 (Released:2009-06-05)
参考文献数
15
被引用文献数
10 6

骨盤直腸窩痔瘻は臨床的には指診で診断されるが,骨盤直腸窩に広がる瘻管や膿瘍腔をより正確に評価するためにはMRIが有用である.撮影法としては瘻管や膿瘍腔が高信号(白色)に描出されるT2強調像およびガドリニウム造影後Tl強調像が適しており,脂肪抑制法を適宜併用するのがよい.冠状断像では肛門管上方に逆ハの字型にひろがる低信号の肛門挙筋の上,横断像では直腸レベルの直腸周囲,矢状断像では尾骨より頭側に瘻管・膿瘍腔の所見がみられる.骨盤直腸窩痔瘻の所見を有する症例では坐骨直腸窩痔瘻や高位筋間痔輝の所見も同時に認める場合が多い.痔瘻癌を合併した骨盤直腸窩痔瘻では瘻管壁・内容の不整や肥厚,みチン貯留の所見が認められる場合もある.クローン病に合併した骨盤直腸窩痔瘻症例では複雑痔瘻自体はクローン非合併例の複雑痔瘻と大きな違いはないが,クローン特有の多数の錯綜する痔瘻がみられる.
著者
岩垂 純一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.939-947, 2014
被引用文献数
1

肛門科として単独での診療科名での広告が不可能となっている現在,新しい専門医制度において肛門科専門医が認定されるのは極めて厳しい状況にある.公的に近い総合病院の中の肛門病に特化したセンター(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター)で研修を受け,スタッフとして勤務した経験から,肛門病は決して外科の中の一小分野ではなく独自性のある分野を形成しているといえる.診察に際しては羞恥,恐怖などの患者心理の理解が必要とされ,治療に際しては単に治せばよいのではなく,後障害を生じないように機能的に問題なく,如何に,きれいに,痛くなく早く治すかが問われる.そのためには多数の症例経験が必要となり,また消化器の1部という観点から大腸疾患の症例経験も必要となる.肛門科の専門性がなくなる結果,診療レベルが低下し合併症や後障害により患者を苦しめるようなことがあってはならない.
著者
岩垂 純一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.1011-1025, 2013 (Released:2013-10-31)
参考文献数
81
被引用文献数
1

痔瘻に対して術後の肛門変形,変位を少なくし術後の肛門機能を損なわないように低位筋間痔瘻に対しては内括約筋を切除して原発巣を処理する術式が行われ,次いで,内括約筋を,くり抜いて原発巣を処理する術式,原発口や原発巣をくり抜いた後を縫合閉鎖する方法,内括約筋に侵襲を加えない方法などが行われてきた.その後,侵襲があっても,より確実な方法としてseton法や,それに関連した方法,括約筋温存術式と切開開放術式の混合した手術が行われ,最近では肛門上皮を温存した様々な術式が試みられている.坐骨直腸窩痔瘻に対しては,くり抜き術の応用,筋肉充填術式,括約筋外にアプローチする様々な方法,そしてsetonを利用した方法が行われ最近では坐骨直腸窩痔瘻の病態も,より詳しく解明されている.痔瘻診療の標準化を目指していく上で,以上の術式の変遷,その考え方を理解することが必要である.