著者
廣津 伸夫 長谷川 貴大 税所 優 村手 純子 池松 秀之 岩城 紀男 河合 直樹 柏木 征三郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.117-125, 2014-01-20 (Released:2016-09-27)
参考文献数
15

発熱疾患の鑑別には末梢血検査が行われ,細菌感染においてその診断および治療効果の判定に有用な手段となっているが,ウイルス感染においてはその検討は少なく,明確な見解はない.このたび,2004/05 年度から2009/10 年度に至る発熱疾患に対するルーチンの末梢血検査(白血球数とその分画およびCRP)の蓄積を後ろ向きに検討した結果,季節性インフルエンザA 型(H3N2 及びH1N1 を含む,以下季節性A 型)614 例と2009/10 年のパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009(以下,A/H1N1/pdm09)548 例の述べ1,162 例からインフルエンザの特徴的な所見が示され両者の違いも明らかとなった. 検討に当たっては,白血球とその分画は年齢により異なるため,全症例を一般化加法モデル(GAM,generalized additive model)を用いて年齢調整を行い,解析を実施した.インフルエンザの感染初期には顆粒球の増加,リンパ球の減少が確認され,その後顆粒球は減少,リンパ球は増加に転じることが観察された.顆粒球数では,季節性A 型に対してA/H1N1/pdm09 は,治療開始前は0.93 倍,治療後は0.82 倍とそれぞれで統計的に有意に低く推移していた.リンパ球数の比率は,治療開始前,治療後のいずれも,1.12~1.30 倍であり,統計的に有意に高い推移であった.CRP は発症後24 時間から36 時間にピークを迎え,その平均値はA/H1N1/pdm09 で0.88mg/dL,季節性A 型で1.53mg/dL であった. 末梢血は疾病の時間的経過,合併症の併発,治療による修飾,治療薬の副次作用等によって変動する.このようなインフルエンザ本来の末梢血の白血球分画の変化・動態を知ることは,診断時(特に迅速診断の要否の判断),経過中の合併症や副作用の出現を把握するために重要と考え報告する.