著者
小泉 陽介 平岡 知子 西山 明 山領 豪 古本 朗嗣
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.230-235, 2022-11-20 (Released:2022-11-21)
参考文献数
19

A 67-year-old Japanese woman with a history of contact with a COVID-19 patient presented with a one-day history of fever, malaise, and dyspnea, and was hospitalized with a positive nasopharyngeal swab test for SARS-CoV-2 LAMP. Chest CT revealed bilateral patchy infiltrates. The patient was treated with remdesivir and dexamethasone and supplemental oxygen supplied via a nasal cannula. The supplemental oxygen therapy was continued for 6 days, and the drug administration was completed on the 10th day of hospitalization. The patient was then scheduled to be discharged, when she developed severe hyponatremia with a serum Na level of 110 mEq/L, but no consciousness disorder.The patient was diagnosed as having SIADH after several examinations suggesting higher levels of secretion of antidiuretic hormone, with a higher specific gravity of the urine than that of the serum, in addition to evidence of normal functioning of the thyroid, adrenal, and pituitary glands, and of the liver and kidneys. Whole-body CT showed no evidence of any tumors. The hospitalization was extended for correcting the serum sodium levels by restriction of water intake. It was assumed that the SIADH was caused by COVID-19, presumably by the elevated serum IL-6 levels inducing secretion of ADH, similar to the phenomenon reported in other inflammatory diseases associated with elevated serum IL-6 levels.COVID-19 could lead to SIADH due of unresolved systemic inflammation even in the absence of worsening of the findings of chest imaging after the completion of antiviral treatments. Further studies are required to evaluate the correlation between the inflammatory state (e.g., serum concentration of IL-6) and serum ADH level causing hyponatremia during the clinical course of COVID-19.
著者
森 功次 林 志直 野口 やよい 甲斐 明美 大江 香子 酒井 沙知 原 元宣 諸角 聖
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.496-500, 2006-09-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
13
被引用文献数
3 11

ノロウイルス (NV) による集団胃腸炎は事例数患者数ともに毎年上位をしめ, その予防対策の構築が求められている. しかしNVは現在培養系が確立されていないため, その不活化の条件などに不明な点も多い. そこでノロウイルスと同じカリシウイルス科に属するネコカリシウイルス (FCV) が培養可能であることに着目し, 手洗いによるウイルス除去効果についてウイルス感染価と遺伝子量を指標にアルコール, クルルヘキシジン, 第四級アンモニウム塩, 成分としてヨード化合物, トリクロサン, フェノール誘導体を含むハンドソープを用いて検討を行った. その結果, 流水によるすすぎのみでもウイルス量が100分の1程度に減少することが明らかとなった. 手洗い時にハンドソープを使用することにより, さらにウイルス量の減少傾向が強まったことから, 手洗いはウイルス性胃腸炎の発生予防および拡大防止に非常に有効な手段であることが示唆された.
著者
齊藤 信夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.647-653, 2020-09-20 (Released:2021-04-01)
参考文献数
19

インフルエンザワクチンを毎シーズン連続して接種するとワクチン効果が減弱するかもしれないという議論がある.我々は,過去の感染を考慮したうえでこの現象を検討する臨床疫学研究を行った.その結果,9~ 18 歳の若年者において,連続接種者のワクチン効果は当該シーズンのみ接種したものに比べ,優位に低いことが示された.また,ワクチン効果は過去のワクチン接種回数に用量依存的に低下していた.この現象は,ワクチン株間の抗原差が小さく,ワクチン株と流行株の抗原差が大きくなった場合(抗原変異)に若年者におこりやすい可能性があり,更なる検討が必要である.
著者
金子 周平 山下 諒 泉 祐介 平本 淳
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.249-252, 2022-11-20 (Released:2022-11-21)
参考文献数
9

Vaccines are considered as one of the effective tools for tackling the COVID-19 pandemic. At the same time, however, information regarding the adverse effects of the vaccines must be collected and analyzed carefully. We encountered the case of an 87-year-old woman who was suspected as having drug-induced lung injury as a side effect of the BNT162b2 COVID-19 vaccine (Pfizer/BioNTech). Four days after the second vaccination, the patient developed fever, dyspnea, and cough. Computed tomography showed ground-glass opacities in both lung fields, and the pneumonia improved rapidly with steroid treatment. Since there was no other potential cause than the vaccine, the condition was strongly suspected as drug-induced lung injury caused by the vaccine. The results of a drug-induced lymphocyte stimulation test also supported this diagnosis. While the COVID-19 vaccine is reported to exert high efficacy, the frequency of lung injury caused by the vaccine remains unknown. Therefore, it is necessary to pay attention to the physical condition of persons after COVID-19 vaccination.
著者
岩田 雅史 戸田 眞佐子 中山 幹男 辻山 博之 遠藤 済 高橋 雄彦 原 征彦 島村 忠勝
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.487-494, 1997-06-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
9 11

紅茶エキスによるうがいが, インフルエンザを予防できるかどうかを検討した.実験は, 平成4年10月18日から平成5年3月17日までの5カ月間行なった.まず同一職域集団297人を2群に分け, 実験群151人は, 原則として8時と17時の2回, 1回約100ml程度の紅茶エキス (0.5W/V%) でうがいをした.対照群146人は, 特に何も行なわなかった.実験期間中にインフルエンザ症状を呈した者56人の咽頭ぬぐい液からウイルスを分離し抗原分析をした結果, A型ウイルスH3N2が2株およびB型ウイルス10株が分離された.感染の判定は, 実験開始時および終了時に採血を行い, A/Yamagata/120/86 (HIN1), A/Saitama/55/93 (H3N2), B/Saitama/5/93と赤血球凝集抑制反応を行ない, 抗体価が4倍以上上昇したものを感染とみなした.その結果, 感染者は実験群35.1%に対して対照群では48.8%で, 有意な差 (p<0.05) が認められた.この結果, 紅茶エキスによるうがいは, インフルエンザを阻止しうる可能性が示唆された.
著者
中山 幹男 戸田 眞佐子 大久保 幸枝 原 征彦 島村 忠勝
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.824-829, 1994-07-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
21
被引用文献数
4 2

マウスのインフルエンザウイルス感染実験系を用いて, 紅茶エキスによるインフルエンザウイルスの感染性の阻止を検討した.ウイルス懸濁液のみを鼻腔内に吸入させたマウス群は, 体重減少をおこし10日以内に100%が死亡したが, ウイルス懸濁液に2%(w/w) 紅茶エキスを混合し5分後に吸入させたマウス群では, 正常マウス群と同等の体重増加を示し, すべてのマウスが生残した.生残マウスのインフルエンザウイルスに対する血中抗体価を調べたところ, 10匹中9匹は抗体陰性であった.この実験結果から, 日常飲用している紅茶エキス濃度 (約2~3%) で, 105.3PFU/マウス (101, 3LD50) の高濃度のインフルエンザウイルスの感染性がほぼ100%阻止されることが明らかになった.以上の成績は, MDCK細胞を用いたin vitroの成績を支持するとともに, 紅茶エキスで処理されたウイルスの感染性が生体内で復帰しないことを示唆している.
著者
岩田 健太郎 島田 智恵 川端 寛樹
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.44-48, 2013-01-20 (Released:2014-12-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

A 42-year-old woman presenting with years of fever and vague symptoms could not be satisfactorily diagnosed in physical examination or conventional workups. She was presumptively diagnosed with chronic fatigue syndrome and treated symptomatically. Fourteen months after the initial visit, she developed left facial palsy. Lyme disease serology was positive. Four weeks of oral amoxicillin ameliorated symptoms. Only 5 to 15 cases of Lyme disease are reported annually in Japan, mostly from the northeastern-most island of Hokkaido. It may occur anywhere in Japan, however; probably is underdiagnosed. Lyme disease may cause fevers of unknown origin. Astute clinical suspicion and appropriate workups are thus needed to diagnose this infection.
著者
寺田 喜平 平賀 由美子 河野 祥二 片岡 直樹
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.908-912, 1995-08-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
10
被引用文献数
17 20

水痘ワクチンによる高齢者の帯状庖疹の予防効果について検討するために, 水痘患者を多く診察し特異細胞性免疫が賦活化されている小児科医の帯状疱疹発症率を調べた. また, 帯状庖疹と診断された患者の水痘患者との接触歴や家族構成を調べ, 水痘患者や小児との接触が多いかを調べた.500名の小児科および内科小児科を標榜する50歳と60歳代の医師にアンケート調査し, 344名の有効解答を得た. 50歳および60歳代の帯状庖疹発症率はそれぞれ65.2,158.2/100,000 person-yearsであり, 他の報告の約1/2から1/8と低かった. 61名の基礎疾患を持たない帯状庖疹の患者では, 発症前4名だけが水痘患者と接触していたが家族内接触はなかった. また50歳以上の40名の患者のうち7名だけが14歳以下の子供と同居し, 23名は1世帯家族で孫や子供と同居しておらず, 子供との接触が少ないため水痘のブースターの機会が少なかったと思われた.以上より, 水痘ワクチン投与によるブースター効果で高齢者の帯状疱疹を予防できる可能性があると思われた.
著者
海老沢 功 本間 れい子
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.701-707, 1985-07-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
6
被引用文献数
1

日本に於ける破傷風患者は減少し過去の疾患と考えられやすい. 日本の破傷風の実態を把握するために人口動態統計に基づく破傷風死亡率及び自験例を中心に破傷風致死率について検討した. 1947~1982年までの破傷風死亡総数は21,916人であり1947年の破傷風死亡率は人口10万対2.84であったが1955年に10万対0.98, 1982年に10万対0.02と著しく減少した. 新生児破傷風死亡率は1947年に生産児10万対36.1であったが1966年ごろより減少の速度をはやめ1979年には死者0となった. 破傷風死亡者の年齢別分布の推移をみると1955年ごろまでは新生児破傷風が40%以上をしめ次いで0~9歳の患者が20%近くをしめており若年患者が多く高齢者の割合が少なかった. 1966年ごろより著しく減少した新生児破傷風にかわって60歳以上の患者の増加がめだち破傷風患者の高齢化現象が認められた. この原因として施設内出生率の増加に伴う新生児破傷風の減少, DTP三種混合ワクチン普及による若年層患者の減少及び平均寿命の延びに伴う高齢患者の相対的増加等が考えられる. 自験例593人について破傷風の致死率の変遷を検討したところ1970年までは40%以上の患者が死亡したが1971年以後の致死率の低下はめざましく20%以下となった. 特にOnsettime48時間以内の重症例における1976年以後の致死率の低下が著しく, 集中治療の普及と進歩によるものと考えられた.
著者
細田 智弘 柳澤 如樹 森岡 悠 菅沼 明彦 今村 顕史 味澤 篤
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.211-214, 2013-03-20 (Released:2014-12-22)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

We report on a previously healthy 56-year-old woman who was referred to our hospital with fever and progressive left foot pain. She had been bitten by a cat 7 days previously, and cephalosporins had been prescribed for treatment. However, her clinical symptoms deteriorated, and physical examination on admission was compatible with necrotizing fasciitis. Treatment with ampicillin-sulbactam and clindamycin was initiated. In addition, immediate surgical debridement was performed, resulting in therapeutic success. Culture of the necrotizing tissue grew multiple organisms, including Pasteurella multocida and Bacteroides caccae. Administration of appropriate antibiotics after a cat bite is essential for the prevention of potentially fatal complications.
著者
岩田 雅史 戸田 眞佐子 中山 幹男 辻山 博之 遠藤 済 高橋 雄彦 原 征彦 島村 忠勝
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.487-494, 1997
被引用文献数
11

紅茶エキスによるうがいが, インフルエンザを予防できるかどうかを検討した.実験は, 平成4年10月18日から平成5年3月17日までの5カ月間行なった.まず同一職域集団297人を2群に分け, 実験群151人は, 原則として8時と17時の2回, 1回約100ml程度の紅茶エキス (0.5W/V%) でうがいをした.対照群146人は, 特に何も行なわなかった.実験期間中にインフルエンザ症状を呈した者56人の咽頭ぬぐい液からウイルスを分離し抗原分析をした結果, A型ウイルスH3N2が2株およびB型ウイルス10株が分離された.感染の判定は, 実験開始時および終了時に採血を行い, A/Yamagata/120/86 (HIN1), A/Saitama/55/93 (H3N2), B/Saitama/5/93と赤血球凝集抑制反応を行ない, 抗体価が4倍以上上昇したものを感染とみなした.<BR>その結果, 感染者は実験群35.1%に対して対照群では48.8%で, 有意な差 (p<0.05) が認められた.この結果, 紅茶エキスによるうがいは, インフルエンザを阻止しうる可能性が示唆された.
著者
中山 哲夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.493-499, 2019-07-20 (Released:2020-02-02)
参考文献数
18

ワクチン接種後の有害事象が「副反応の疑い」として報告されており報告された事象がワクチン接種により発症するかのような誤解が生じる.厚生科学審議会(厚生労働省予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会:第1回から第35回,一部第34回)で審議された副反応疑い報告状況に公開されている資料を参考に平成25年4月から平成30年4月(一部2月)までに報告された事象を対象として重篤な副反応,特に死亡例の報告をまとめた.麻しん・風しん混合ワクチン(MR),麻しん,風しん,おたふくかぜ,水痘の生ワクチン接種後の重篤な副反応は10万あたり0.51~1.91 で死亡例については5年間のうちでMRワクチン接種後では5例のみであった.ジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP),不活化ポリオ(IPV),DTaP-IPV,インフルエンザ桿菌タイプB(Hib),肺炎球菌(PCV),日本脳炎ワクチン接種後の重篤な副反応の頻度は10 万あたり2.03以下で死亡例はHib,PCV同時接種の44例であった.23価肺炎球菌,インフルエンザワクチン接種後死亡例は51例,63例であった.報告された死亡原因としては小児では乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)と原因不明が多く,成人では一般の死亡原因と一致していた.ワクチンは生体の免疫応答を利用して感染防御,症状の軽減を目的とするものである.ワクチン接種後の有害事象の発症は避けることができないがワクチン接種との直接的な因果関係は科学的な原因究明が必要となる.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.723-733, 2012-11-20 (Released:2014-10-06)
参考文献数
17
被引用文献数
5 3

本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3 機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4m3 閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2 時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3 機種,4 種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2m3 の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3 機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した. 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.
著者
畠山 薫 貞升 健志 甲斐 明美
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.238-243, 2011-05-20 (Released:2015-04-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

1950 年代に東京都内で分離された狂犬病ウイルス 10 株と日本の狂犬病固定毒株である小松川株,高免株,西ヶ原株ならびに動物用ワクチン株 RC-HL 株および世界各地の狂犬病ウイルス 86 株の核タンパク(N)遺伝子領域における系統樹解析を行った.東京都で分離された株は,2 グループ (Tokyo 1,Tokyo 2) に分類された.2 グループとも,ヨーロッパ,アフリカ,アジア,アメリカからなる広域クラスターに属していた.Tokyo 1 グループは,1930 年代,40 年代にアメリカ合衆国西海岸のイヌから分離された株とサブクラスターを形成し,Tokyo 2 グループはロシアハバロフスクの racoon dog やバイカル湖地域の stepped fox から分離されたウイルスと同じクラスターを形成する小松川株と近縁であった.これらのことから,1950 年代に東京都内で流行していた狂犬病ウイルスは,ロシアおよびアメリカ由来のウイルスと関連性があったものと推測された.
著者
柏木 征三郎 工藤 翔二 渡辺 彰 吉村 功
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.1044-1061, 2000-12-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
25
被引用文献数
27 29

リン酸オセルタミビル (Ro64-0796) は, A型およびB型インフルエンザウイルスの増殖に必須の酵素であるノイラミニダーゼ (NA) に対する強力で選択的な阻害剤オセルタミビル・カルボン酸 (Ro64-0802) のプロドラッグで, 経口投与後速やかにRo64-0802に変換される. 今回, 我々は, 16歳以上のインフルエンザウイルス感染症患者を対象に, リン酸オセルタミビル (Ro64-0796) 1日2回朝・夕食後5日間経口投与時の本剤の有効性および安全性を検討する目的で, プラセボを対照とした第III相二重盲検並行群間比較試験を実施した. 本試験に登録された患者数は316例で, プラセボ投与群162例, Ro64-0796投与群154例であった. このうち治験薬が投与され, かつインフルエンザウイルスの感染が確認された症例 (ITTI: Intent-to-treat infected population) は, プラセボ投与群130例, Ro64-0796投与群122例の計252例であった.その結果, Ro64-0796は, 有効性の主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間を約1日 (23.3時間) 短縮させ (p=0.0216, 一般化ウイルコクソン検定), 投与3日目の鼻・咽頭ぬぐい液中のウイルス力価を有意に低下させた (p=0.0009, 共分散分析). さらに, 平熱までの回復時間 (36.9℃以下になるまでの期間) をプラセボに比べ約45%短縮させ, インフルエンザ症状の改善に要する時間の短縮ならびに症状の重症度軽減をもたらした. 一方, 安全性については, 有害事象として, 嘔気, 嘔吐, 腹痛などの胃腸障害が多くみられたが, 副作用の発現率は, プラセボ投与群40.9%, Ro64-0796投与群33.1%と, 両群で有意な差は認められず (p=0.155, x2検定), 臨床的に問題となる臨床検査値異常変動およびバイタルサインの異常も認められなかった.以上の成績から, Ro64-0796は, 臨床的に有効かつ安全な経口インフルエンザ治療薬であると考えられた.
著者
山口 晃史 久野 道 堀谷 まどか 渡邉 典芳 久保 隆彦 加藤 達夫 村島 温子
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.449-453, 2010-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
17

米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control;CDC)やアメリカ産婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists;ACOG)は過去の世界的大流行における調査から,妊婦はインフルエンザ感染症に対しハイリスクグループとし,1999 年より妊娠初期を除く妊婦に対してのインフルエンザワクチン接種の推奨を開始,2004 年には妊娠初期を含む全期間での妊婦に対する接種へ対象を拡大している.本邦でも妊娠中のインフルエンザワクチン接種は少しずつ推奨されてきており,その安全性を評価した.2007 年~2009 年に季節性インフルエンザワクチン接種を行った182 症例に対し,妊娠初期,中期,後期の接種時期別に調査を行い,各時期での安全性を妊婦への副反応,胎児への影響を評価した結果,ワクチン接種時の妊娠週数にかかわらず,接種に関連する有意な母体の副反応,児の流・早産,奇形は認められず,ワクチン接種の安全性が確認された.
著者
福島 一彰 柳澤 如樹 佐々木 秀悟 関谷 綾子 関谷 紀貴 菅沼 明彦 味澤 篤 今村 顕史
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.310-315, 2016-05-20 (Released:2017-11-17)
参考文献数
12

We present 3 cases of ocular syphilis in patients who had been newly diagnosed as having HIV. All the patients had only complained of ophthalmologic symptoms at the time of their initial visit. Treatment with penicillin was successful, resulting in no significant sequelae. Ocular syphilis may lead to reduced visual acuity or even blindness if left untreated. However, the diagnosis may be challenging, since patients may lack symptoms that are commonly observed in cases with primary and secondary syphilis. Considering the recent increase in the number of syphilis patients, clinicians should be aware of ocular syphilis and should have a high index of suspicion for syphilis in any patient at risk so as to ensure a prompt diagnosis.