著者
岩城 隆久 嘉戸 直樹 伊藤 正憲 藤原 聡 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.4, 2008

【目的】運動学習は、結果の知識(KR)によって学習効果に影響することが報告されている。我々は第43回日本理学療法学術大会で、運動学習の練習終了後のテストにおいて、2試行に1回の言語的KR付与の練習が学習効果を認めることを報告した。今回、この先行研究の結果より練習中の学習戦略について検討した。<BR>【方法】対象は本研究の参加に同意を得た健常人23名(男性16名、女性7名、年齢25.3±2.1歳)とした。本研究では握力学習を試行した。被験者は、利き手最大握力の50_%_握力を目標値とした。KRは目標値の上下2_%_誤差範囲を正答KRとし、その範囲内の試行で「正答」、正答KRより低い値は「下」、高い値は「上」という言語的KRを用いた。全学習試行にKRを付与する群(100_%_KR)、2試行に1回KRを付与する群(50_%_KR)、3試行に1回KRを付与する群(33_%_KR)、KRを付与しない群(0_%_KR)に被験者を無作為抽出した。実験は学習前試行、学習試行、学習後試行の順で行った。学習試行では、群分けのKR付与頻度に応じて10試行を1セットとし計3セット実施した。測定はデジタル握力計GRIP-D(竹井機器工業株式会社)を使用し、文部科学省の体力測定における握力測定法に準じて実施した。学習試行中の目標値と実測値のずれとしてRoot Mean Squared Error(RMSE)を算出した。RMSEが目標値に対するパーセンテージとなるようNormalize Root Mean Squared Error(NRMSE)への正規化を行い、学習試行の各セットにおいて群間比較した。<BR>【結果】各セットのNRMSEは次の結果を示した。第1セットは0%KR(31.6±18.6)に対して100%KR(10.6±2.6)は低下を認めた(p<0.05)。第2セットは0_%_KR(33.2±7.4)に対し100_%_KR(9.3±3.4)、50_%_KR(10.1±2.7)、33_%_KR(10.1±3.0)は低下を認めた(p<0.01)。第3セットは0_%_KR(29.1±9.2)に対し100_%_KR(7.5±4.2)、50_%_KR(12.6±6.9)、33_%_KR(10.6±1.9)は低下を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】言語的KR付与の頻度は、学習戦略に影響を与えることを示唆した。学習初期は内的基準の修正にKRが使用され、試行回数が増加するにつれて、内部モデルの強化のためにKRが有効的に使用される。しかし、100%KRのようにKRが高頻度であるとKRに依存的になり、学習において重要とされる内部モデルの強化は乏しくなると考える。Salmoniらのガイダンス仮説やSwinnenの内部フィードバックへの注意と学習の関係からも同様のことが示されている。<BR>【まとめ】言語的KRの頻度は学習過程に影響し、付与頻度による戦略の違いが運動学習に影響を及ぼすことが示された。