著者
土井 剛彦 牧浦 大祐 小松 稔 小嶋 麻有子 山口 良太 小野 くみ子 小野 玲 平田 総一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.30, 2009

【目的】転倒に対する恐怖は、高齢者において身体活動量低下を引き起こす要因の一つであり、身体機能や健康関連QOLなどの心理面と強く関連する。一方、身体活動量は、高齢者の全身状態・身体機能を反映し、個別特性を考慮する上で重要とされているが、ある程度の身体活動量を有していても、一定の割合で転倒に対する恐怖を持っている人は存在する。つまり、身体活動量が高い者と低い者では転倒恐怖感に対する要因が異なると考えられるが、その関係は明らかとなっていない。本研究の目的は、転倒恐怖の有無に、健康関連QOLがどのように関連するかを、身体活動量を考慮した上で検討することである。【方法】対象者は地域在住女性高齢者312名とした (年齢 : 79±7.2歳)。転倒恐怖感は質問紙にて転倒恐怖感ありと返答したものを転倒恐怖感あり群 (Fear of falling : FF) 、転倒恐怖感なしと返答したものを転倒恐怖感なし群 (No fear of falling : No-FF) とした。身体活動量は生活習慣記録機 (Lifecorder EX, Suzuken) を一週間装着して一日平均歩数 (Physical activity : PA) を算出し、PAが対象者全体の中央値より高い者を高活動群、低い者を低活動群とした。その他の測定変数はTime up & Go (TUG)、年齢、BMIとした。健康関連QOLについては、SF-36を用いて測定し、国民標準値を50点とするスコアリングを行い下位尺度別 (身体機能 : PF, 身体的日常役割機能RP, 身体の痛み : BP, 社会的生活機能 : SF, 全体的健康感 : GH, 活力 : VT, 精神的日常役割機能 : RE, 心の健康 : MH) に算出した。統計解析は、群間比較をunpaired t testにて行い、転倒恐怖の有無を目的変数、QOLの下位尺度と調整因子であるTUG、年齢、BMIを独立変数とし強制投入した名義ロジスティク解析を活動群別に行い、統計学的有意水準を5%未満とした。【結果】FF群は124名(60% ;78.4±7.5歳)、No-FF群は188名(40%;79.3±7.0歳)であり、年齢、身長、体重、TUGの対象特性に有意な群間差はみられなかった。身体活動量は対象者全体では5750±3467歩 (中央値:4990歩)であり、低活動群の方が高活動群に比べ、転倒恐怖有する者の割合が高かった (高活動群;54%, 低活動群;66%)。FF群はNo-FF群に比べPA、SF-36の下位尺度全項目ともに有意に低値をとった。転倒恐怖の有無に対して有意に関連性の認められた項目は、高活動群ではPF (オッズ比;14.6)、GH (オッズ比;74.7) が、低活動群ではBP (オッズ比;9.8) であった。以上のことから転倒恐怖に関連する健康関連QOLの要素が身体活動量レベルにより異なることが示唆された。【考察】転倒恐怖によりPA、健康関連QOLがともに低下し、高齢者の健康を阻害する要因の一つであることが示唆された。また、高活動の者においては身体機能や健康状態が、低活動の者においては身体の痛みが、転倒恐怖感と強く関連した。つまり、健康状態を低下させる転倒恐怖感を消失させるためには、個々の活動レベルを考慮した上で異なったアプローチを行う必要性があると考えられる。
著者
瀬川 栄一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.108, 2009

【はじめに】2009年5月22日~31日においてFINA Water Polo World League 2009 アジア大洋州ラウンドが開催された。日程の詳細としては、5月22日~24日-オーストラリアラウンド(アデレード)、5月28日~31日-ニュージーランドラウンド(オークランド)であった。この大会に伴う14日間の水球日本代表チームの遠征・合宿に帯同スタッフ(トレーナー)として参加したので、活動内容と水球選手の傷害特性について報告する。【方法】対象は本年4月に国立スポーツ科学センターにおいて行われた代表選考会により選出され、本遠征に参加した男子選手13名、女子選手13名の計26名。男子平均年齢22.6歳(17~28歳)、女子平均年齢20.5歳(19~24歳)。各選手の対応時に問診表を配布し主観的な疲労・疼痛部位と強度(3段階)を記入した。遠征をとおしての活動内容は1)チームスタッフの医事管理2)選手のケア・コンディショニングおよびリハビリテーション3)ゲーム中の急性外傷等の対応4)傷病者の現地医療機関への付き添い5)チームの雑務などを行った。また、処置内容と外傷を施術後にトリートメントログとして記録した。それらの記録より水球選手の1)主な疲労部位、2)疼痛部位、3)ゲーム毎の外傷、を抽出し種類・発生要因等について検討した。【結果】本遠征において行ったゲーム数は大会6試合と練習試合4試合の合計10ゲーム。コンディショニングの対応者は26名の選手全員を対象とし総対応数が115件。処置内容はマッサージ64件、アイシング15件、ストレッチング13件、超音波11件、テーピング5件、マイクロカレント5件、徒手療法2件(重複例あり)であった。主な疲労部位として訴えが最も多かったのが肩甲帯・腰部各12名、次いでハムストリングス8名、頸部6名、前腕部・背部各5名であった。疼痛部位については腰部4名、頸部・肩甲帯各3名であった。疲労・疼痛部位はともに一部の選手が重複例となる結果を示した。外傷については一試合平均0.8件(練習試合含む)であった。【考察】 遠征を通して重篤な疾病や外傷が発生することなく終えることができ、日本代表として大会史上初のスーパーファイナル進出という結果を得たことから成功裏に終えたのではないかと考える。コンディショニングにおいては腰部・肩甲帯の疲労や疼痛が多く訴えられ、水球競技の特徴的な動作の巻き足とスカーリングの影響からではないかと考えられた。投球動作の影響による疼痛を予測していたが投球側の肩の痛みを訴える症例はいなかった。そして、激しいコンタクトによる外傷の多さがあらためて確認できた。また、疲労の蓄積が疼痛に変化した選手を確認でき主観的な疲労強度と疼痛の関係を再考する課題を得た。
著者
岩城 隆久 嘉戸 直樹 伊藤 正憲 藤原 聡 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.4, 2008

【目的】運動学習は、結果の知識(KR)によって学習効果に影響することが報告されている。我々は第43回日本理学療法学術大会で、運動学習の練習終了後のテストにおいて、2試行に1回の言語的KR付与の練習が学習効果を認めることを報告した。今回、この先行研究の結果より練習中の学習戦略について検討した。<BR>【方法】対象は本研究の参加に同意を得た健常人23名(男性16名、女性7名、年齢25.3±2.1歳)とした。本研究では握力学習を試行した。被験者は、利き手最大握力の50_%_握力を目標値とした。KRは目標値の上下2_%_誤差範囲を正答KRとし、その範囲内の試行で「正答」、正答KRより低い値は「下」、高い値は「上」という言語的KRを用いた。全学習試行にKRを付与する群(100_%_KR)、2試行に1回KRを付与する群(50_%_KR)、3試行に1回KRを付与する群(33_%_KR)、KRを付与しない群(0_%_KR)に被験者を無作為抽出した。実験は学習前試行、学習試行、学習後試行の順で行った。学習試行では、群分けのKR付与頻度に応じて10試行を1セットとし計3セット実施した。測定はデジタル握力計GRIP-D(竹井機器工業株式会社)を使用し、文部科学省の体力測定における握力測定法に準じて実施した。学習試行中の目標値と実測値のずれとしてRoot Mean Squared Error(RMSE)を算出した。RMSEが目標値に対するパーセンテージとなるようNormalize Root Mean Squared Error(NRMSE)への正規化を行い、学習試行の各セットにおいて群間比較した。<BR>【結果】各セットのNRMSEは次の結果を示した。第1セットは0%KR(31.6±18.6)に対して100%KR(10.6±2.6)は低下を認めた(p<0.05)。第2セットは0_%_KR(33.2±7.4)に対し100_%_KR(9.3±3.4)、50_%_KR(10.1±2.7)、33_%_KR(10.1±3.0)は低下を認めた(p<0.01)。第3セットは0_%_KR(29.1±9.2)に対し100_%_KR(7.5±4.2)、50_%_KR(12.6±6.9)、33_%_KR(10.6±1.9)は低下を認めた(p<0.01)。<BR>【考察】言語的KR付与の頻度は、学習戦略に影響を与えることを示唆した。学習初期は内的基準の修正にKRが使用され、試行回数が増加するにつれて、内部モデルの強化のためにKRが有効的に使用される。しかし、100%KRのようにKRが高頻度であるとKRに依存的になり、学習において重要とされる内部モデルの強化は乏しくなると考える。Salmoniらのガイダンス仮説やSwinnenの内部フィードバックへの注意と学習の関係からも同様のことが示されている。<BR>【まとめ】言語的KRの頻度は学習過程に影響し、付与頻度による戦略の違いが運動学習に影響を及ぼすことが示された。
著者
中井 秀樹 堀江 直人 矢越 智幸 日高 憲司 堀 竜次
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.79, 2009

【はじめに】臨床において、誤嚥性肺炎の繰り返しから離床機会が遅延してしまう症例を経験する。今回、離床を進めていく上で他職種との共通理解を深め、得られた情報から問題点を列挙し再考察を行い、適切なポジショニングや呼吸管理方法を統一して行なうことで、肺炎症状を予防し、離床頻度を増やすことが出来た症例を経験したので報告する。【症例紹介】64歳女性。右中大脳動脈の動脈瘤破裂によるくも膜下出血・右脳内出血・脳室内穿破を認め、同日開頭血腫除去術・クリッピング施行。発症後2日目、緊急外減圧手術(右頭蓋骨除去、右脳室ドレナージ)発症後2ヶ月目、シャント術施行。活動レベルは全介助の寝たきり状態であり、ベッド臥床時適切なポジショニングが十分に行われていなかったことで頸部・骨盤のアライメント不良を呈し、努力呼吸が見られ唾液の誤嚥による肺炎症状を繰り返すといった悪循環に陥っていた。尚、本症例の発表について御家族に趣旨を説明し同意を得た。【方法】他職種(看護師、介護士)と打ち合わせを行い、開始から4日間は吸引や体位変換施行時に誤嚥の評価項目として吸引の回数・部位、体位、痰の粘性・色について毎日記録を行ってもらい、5日目以降は適切なポジショニング方法(主に頸部・骨盤アライメント)、体位変換時の誤嚥による注意点と吸引前に口腔内の観察、カフ上部の評価、頸部アライメント、聴診にて確認するという計画をたてて実施してもらうこととした。炎症所見として、CRP値については検査毎に変化を追った。呼吸状態の評価項目としては、覚醒、経皮的酸素飽和度、呼吸数、パターン、呼吸音、チアノーゼの有無を確認した。その後治療効果の判定、問題点の確認、アプローチの定期的な再検討を行い、1時間毎の訪床時に吸引実施の評価項目を追加していった。治療的介入として初日より、呼吸介助、排痰療法の他に姿勢筋緊張の調整とギャッチアップ座位練習を中心に実施した。【結果】平均吸引回数は介入初月19.5回±3.1回、1ヵ月後、10.6回±3回、2ヶ月後、13.7回±3.2回であり吸引回数の減少を認めた。CRPの変化においては介入前2.44±2.39と変動が大きく、その後5週平均は1.32±0.27と低値を維持出来た。覚醒状態としては、介入前GCS E3 V1 M3、介入後E4 V1 M4と覚醒レベルの向上もあった。経皮的酸素飽和度については、介入当初より96%で経過し、数値上での変化は見られなかった。呼吸数では、介入前平均回数24.25±1.26回、介入後20.75±1.26回となり減少を認めた。呼吸パターンとして介入後abdominal paradox patternが消失し、呼吸音でも著明な複雑音の消失、チアノーゼも認められなかった。【まとめ】理学療法単独での訓練では十分な効果が認められない症例でも、他職種と連携した評価を進め、定期的に評価項目やアプローチの再検討を行い、共通理解を深めていくことで誤嚥による肺炎症状の予防に繋がった。今後も先行的に他職種と協力し早期離床に繋げていきたい。
著者
山西 浩規 武部 恭一 田中 宏一 野村 一太 福原 良太 斉藤 洋輔 武政 誠一
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.57, 2007

【はじめに】骨化性筋炎とは筋挫傷に伴い、時に不適切な治療が原因で筋肉内に骨形成が起こり、局所の腫脹、自発痛、運動制限がみられる疾患である。今回、サッカー練習中に受傷した症例に対し競技復帰のために、疼痛の緩解と可動性の拡大を目的とした理学療法(以下PT)を行ったので報告する。【症例紹介】14歳男性。サッカー練習中に右大腿部を強打し受傷、その後接骨院で治療を受けていたが、1ヶ月経過しても疼痛が軽減せず、当院を受診した。X-P像の結果、右大腿部前面に異所性骨化が認められ、骨化性筋炎と診断した。本人及び家族の競技復帰への希望が強く、当日より当院にてPT(5回/週)を開始した。初診時、関節可動域(以下ROM)膝屈曲は自動で110°、他動で115°で大腿部前面に疼痛が認められた。膝伸展は他動0°であったが、extention lagが40°認められた。その他の関節には制限はなかった。徒手筋力検査(以下MMT)は右股関節屈曲、外転、膝関節屈曲が4レベル、伸展は2+レベルで疼痛があり、SLRも不可であった。また、歩行時に疼痛性跛行が認められたが、独歩可能であった。しかし、階段降段時に右大腿部の疼痛が強く一足一段では不可であった。大腿周径は特に左右差は認められなかった。PTプログラムは、疼痛の緩和を目的に温熱療法と超音波などの物理療法、関節ファシリテーション(以下SJF)、ROM運動や筋力増強運動を行った。骨化性筋炎では、過度な抵抗運動や他動運動では、筋に対してストレスがかかり、再出血が生じ、骨形成につながる可能性があるため、ROM運動や筋力増強運動時は疼痛自制内で自動運動のみ実施した。また、全身バランスの調整を目的にバランスボードを行った。また、完治するまで、サッカーの練習は中止とした。PT実施1週目で、ROMが自動で膝屈曲115°、膝伸展‐20°、SLR30°まで改善し、5週目で、ROMは膝屈曲150°、膝伸展0°、SLR90°、MMTも5レベルとなり、疼痛も軽減され階段降段も一足一段で可能となった。約8週目でジョギング許可、9週目よりボールを用いた練習を取り入れ、11週目で競技復帰も許可し、試合に出場可能となった。X-P像では骨化像の消失、増大傾向は見られなかった。【考察】今回の症例は物理療法やSJFを用いて疼痛を抑制し、疼痛自制内でPTを行うことで、疼痛の緩解、筋の伸張性が向上した。その結果、ROM改善につながったと考えられる。しかし、本症例は異所性骨化が残存していることから、サッカー復帰後も、クラブの指導者などと連携して経過の観察が必要だと考える。
著者
久郷 真人 谷口 匡史 渋川 武志 岩井 宏治 平岩 康之 前川 昭次 阪上 芳男 今井 晋二
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

【はじめに】<BR> 皮膚筋炎(delmatomyositis:DM)は対称性の四肢近位筋・頸部屈筋の筋力低下、筋痛を主症状とし、Gottron兆候やヘリオトープ疹などの特徴的な皮膚症状を伴う慢性炎症性筋疾患のひとつである。臨床検査では血清筋逸脱酵素(creatine kinase;CK)やLDH、aldorase、尿中クレアチン排泄量が異常高値を示す。治療としては副腎皮質ステロイドが第一選択薬とされるが、長期投与により満月様顔貌、行動変化、糖耐能異常、骨密度低下、ステロイドミオパチー等の多彩な副作用を生じることも多い。また、近年運動療法の適応についても多数報告されており、その効果が期待されている。<BR>今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを呈した症例を経験したので報告する。<BR>【症例紹介および理学療法評価】<BR> 症例は43歳男性。2010年12月頃より右上腕部に筋肉痛・潰瘍出現、顔・頸部・対側上腕に皮疹が広がり、皮膚筋炎を疑われ精査目的にて当院入院となる。入院後皮膚生検・筋生検にて皮膚筋炎と診断され、ステロイド療法(prednisolone;PSL,60mg/day)が開始される。最大PSL120mg/dayまで漸増するもCK値低下遅延し免疫グロブリン療法(IVIG)施行。またPSL120mg/dayに増量後、副作用と思われる両下腿浮腫、満月様顔貌、および下肢優位のステロイドミオパチーと考えられる筋力低下の進行を認めたためCK値の低下に伴いPSLを漸減。<BR> 入院後15病日目より理学療法開始。開始当初よりCK高値(約6000IU/L)であり、易疲労性、筋痛、脱力感著明。筋力はMMTにて股関節周囲筋2~3レベル。HHD(OG技研GT300)を用いた測定では膝関節伸展筋力右0.96Nm/kg、左0.83Nm/kg、股関節屈曲筋力右0.3Nm/kg、左0.28Nm/kgであった。立ち上がり動作は登攀性起立様、歩行は大殿筋歩行を呈していた。6分間歩行は141mであった。また体組成分析(Paroma-tech社X-scan)を用いた骨格筋量/体重比では34.4%であった。理学療法では下肢・体幹筋の筋力増強を目的に、自動介助運動から開始。CK値の低下とともに修正Borg scaleを利用し自覚的疲労度3~5の範囲の耐えうる範囲で自動運動、抵抗運動と負荷量を設定し、翌日の疲労に応じて調節しながら行った。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき、症例には今回の発表の趣旨を十分説明した上で同意を得た。<BR>【結果】<BR> 理学療法介入後4ヶ月時点では、CK値は116UI/Lまで低下。PSLは25mg/dayまで漸減し、筋痛は消失するも易疲労性残存。筋力はHHDにて膝関節伸展筋力が右0.92Nm/kg、左0.78Nm/kg、股関節屈曲右0.69Nm/kg、左0.71Nm/kgであった。立ち上がりは上肢を用いずに可能、歩行はロフストランド杖にてすり足、大殿筋歩行。6分間歩行は180mに増加した。体組成分析を用いた骨格筋量/体重比では29.4%であった。<BR>【考察】<BR> 今回、皮膚筋炎治療中にステロイドミオパチーを合併した症例を経験した。ステロイドミオパチーは蛋白の分解促進と合成抑制が起こり、特にtype_II_b線維の選択的萎縮を招くとされ、近位筋を中心とした筋力低下により難治例も多い。<BR> ステロイドミオパチーに対する治療は主にステロイドの減量である。一方で、近年ステロイドミオパチーに伴う筋力低下、筋萎縮の進行に対して運動療法は予防および治療手段として有効であるとされている。また、皮膚筋炎の場合、急激なステロイドの減量は筋炎症状の再燃を招き易く、これらの相反する治療方法から厳重な投与量管理および負荷量の設定が重要であるとされる。本症例において、CK値の正常化後も有意な上昇もなくステロイド減量が可能となり、筋力、骨格筋量の著明な低下を最小限に抑えられたことから、今回使用した修正Borg Scaleを用いた運動負荷量の設定方法および継続的な運動療法が有用であると考えられた。また、市川はステロイド減量による効果として10~30mg/dayに減量してから1~4ヶ月で筋力回復が認められると報告しており、本症例においては長期間の経過により廃用性の筋力低下も合併していることが考えられるため、今後も長期的な理学療法の介入が必要であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 皮膚筋炎およびステロイドミオパチーに対する理学療法において筋力低下の病態を考慮した上で、早期からの介入により運動機能の維持、向上に努め、長期的な理学療法の介入が必要であると考える。また運動療法効果についての報告は少なく、今後さらなる症例・研究報告が望まれる。<BR>
著者
大久保 優 梛野 浩司 岡本 昌幸 千葉 達矢 徳久 謙太郎 松下 祥子 岡田 洋平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.6, 2010

【目的】<BR> パーキンソン病(PD)患者では,発症早期より体軸内回旋の減少など体幹機能障害が起こり,その結果,歩行をはじめとした様々な日常生活動作が障害される。病期が進むと,脊柱の変形が生じ,呼吸機能や嚥下機能にまで問題が波及する症例も多く,体幹機能はPD患者のリハビリテーションを行う上で,非常に重要である。WrightらはPD患者と健常高齢者の体幹回旋の筋緊張を測定し,PD患者では有意に左右差が認められ,体幹筋の固縮に左右非対称性が認められたことを報告している。また,彼らはこの体幹筋の左右非対称性が姿勢や歩行障害に強く関与していると示唆している。これらのことから,PD患者の体幹機能を評価する上で,左右非対称性を捉えることが重要であると考えられる。しかし,PD患者の体幹機能を定量的に評価する指標は少なく,左右非対称性に着目した評価はほとんど見られない。<BR> 我々は定量的な体幹機能評価として,座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach test; SSRT)を考案し,先行研究において,PD患者のSSRTの併存的妥当性について報告した。SSRTは左右各々の測定が可能であり,体幹機能の左右非対称性を捉えることができる可能性がある。そこで本研究では,SSRTの値およびその左右差を,健常高齢者とPD患者間で比較し,PD患者における体幹機能の特性について検証した。<BR>【方法】<BR> 対象は,PD患者19名(平均年齢69.6±9.0歳,男性12名女性7名,平均罹病期間6.5±5.1年,Hohen & Yahr(H&Y)stage 1:1名,2:2名,3:11名,4:5名)と年齢を一致させた健常高齢者16名(平均年齢68.8±8.6歳,男性5名女性11名)であった。全ての対象者は口頭指示を理解可能であった。腰痛や脊柱の手術の既往がある者は除外した。SSRTは,ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は,開始肢位を40cm台上端座位,上肢90°外転位とし,側方に最大リーチするように指示した。二回練習後一回測定を行い,その値をSSRTの測定値とした。また左右ともに測定し,左右の差の絶対値(左右差)についても算出した。PD患者の評価は,抗パーキンソン病薬服薬1.5~2時間後に統一した。統計解析は,Mann-WhitneyのU検定を用いてPD患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。次にPD患者群の中から,既に脊柱の側彎など体幹の変形があるstage4の患者は除外し,stage3以下の患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。<BR>【説明と同意】<BR> 全ての対象者には,研究の目的に関する説明を口頭にて行ない,自由意思にて研究参加の同意を得た。<BR>【結果】<BR> PD患者群では健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差については有意差を認めなかった。stage3以下のPD患者群でも健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差は,stage3以下のPD患者群が健常高齢者群と比較して有意に大きかった。<BR>【考察】<BR> Stage3以下のPD患者群と健常高齢者群の比較より,SSRTは軽度から中等度のPD患者と健常高齢者の差異を捉えることができ,比較的発症早期より体幹機能評価として有用であることが示唆された。また,stage3以下のPD患者群のSSRTの左右差が有意に大きかったことから,まだ著明な脊柱の変形がないPD患者では,側方のリーチ動作能力に左右差があり,体幹の可動性を含んだ体幹機能に左右非対称性を認めることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 客観的かつ定量的な評価にもとづき,長期にわたって体幹の可動性を維持することは,PD患者の身体機能やADLを維持する上で重要である。本研究結果より,SSRTはPD患者において,比較的発症早期から使用可能で,体幹機能の左右差を捉えることができる新しい定量的な体幹機能評価になり得ることが示唆された。今後はSSRTの継時的な変化について調査し,体幹の側屈変形の予測妥当性や左右差に影響を与える因子について検証する必要がある。
著者
大古 拓史 野々垣 政史 梶原 史恵 大川 裕行
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.112, 2007

【はじめに】 臨床実習 (以下実習) は,学内で学んだ様々なことを臨床現場で実際に実践する重要な科目である.実習を目前に控えた学生は,実習に対し大きな不安を抱いている.しかし,先行研究は,管理・教育という指導者側からの視点のものが多く,学生側からの視点のものは見あたらない.そこで,学生の実習に対する不安を少しでも解消すること,指導者に対して有益な情報を提供することを目的に実習中の実習生の身体的・精神的活動量を継続的に計測し,若干の考察を加え報告する.<BR>【方法】対象は理学療法学専攻4年実習生2名である.アクティブトレーサー (GMS社製AC-301) を使用し,実習中(7週間)のR-Rと加速度の変化を記録した.記録したR-R間隔の変動に対して周波数解析 (GMS社製MemCalc for Windows) を行い,心臓交感神経・副交感神経活動を観察し精神的活動量の指標とした.加速度は, x,y,z,3方向の合成加速を身体的活動量の指標とした.また,コントロールとして,各被験者の日常生活においても同様の計測を行った.各データ(心拍数,加速度,心臓交感神経・副交感神経活動)は,週単位の平均値を求め比較・検討を行った.なお,本調査は星城大学倫理委員会承認の元に行われた.<BR>【結果】被験者に共通して実習前半は後半と比較して高い心拍数を示した.後半のうちでも7週目の心拍数は高値を示した.交感神経活動は各被検者ともに1,2週目が高く,4週目が最も低かった.逆に副交感神経活動は4週目が最も高く,1,2週目は低かった.また,4週目の交感神経活動は,コントロール群の日常生活レベルに近い値を示した.身体的活動量は実習前半に比べ後半に高値を示した.さらに7週目は6週目に比較して有意に高値を示し,上昇し続ける傾向にあった.<BR>【考察】実習生は実習前半には精神的活動量が身体的活動量を上回る,いわゆる精神的過緊張状態にあり,実習中盤には精神的過緊張が緩み,日常生活での交感神経活動レベルに一致する.そして実習後半にやっと身体的活動量と心拍数が一致することが分かった.実際,実習4週目頃に実習指導者から「気の緩み」を指摘された事実も上記解釈を裏付けるものとなっていた.即ち,実習中盤は精神的緊張が緩む時期であり,実習中で最もミスが起こりやすい時期であると考えられる.実習生はもちろん,実習指導者にとっても注意が必要な時期である.実習生は,実習前半の精神的過緊張状態を少しでも緩和できるように,実習前に知識・技術を高めておく必要がある.実習指導者は,実習前半の実習生の精神的過緊張状態緩和に配慮し,実習半ばでの精神的緊張低下「気の緩み」に注意する必要がある.これらの情報を実習生,指導者双方が意識することでより効果的・効率的に実習をすすめることができる.
著者
内海 新 岩井 信彦 青柳 陽一郎
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.101, 2009

【はじめに】片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する症候の一つに、Pusher症候群(以下、PS)がある。PSを呈する症例に対して、端坐位などの姿勢保持能力の向上に対する介入方法の報告は多いが、立ち上がりや移乗などの動作能力の改善に向けた介入方法の報告は少ない。今回、PSを呈する片麻痺患者に対して、端坐位保持能力を再獲得した後に移乗動作能力の向上を目的にアプローチを行い、改善を認めたので若干の考察を加え報告する。<BR>【症例紹介】70代男性。診断名は右中大脳動脈出血性梗塞。障害名は左片麻痺。現病歴は2008年9月下旬発症。10月中旬リハビリテーション目的にて当院入院。2009年2月下旬退院した。既往歴は1994年心原性脳梗塞による左片麻痺。発症前ADLは独居・独歩可能レベルであった。<BR>【初期評価】指示理解良好も、自発語は少ない。HDS-R10点。Br.stage上肢手指I、下肢II。感覚は精査困難。左半側空間無視、構成失行、左右失認を認めた。PS重症度(網本の分類)は最重度 (坐位1点、立位・歩行2点)。寝返り起き上がりは全介助。移乗動作は麻痺側からは中程度介助、非麻痺側ではPushingが強く全介助でも困難であった。<BR>【治療と経過】端坐位保持能力が実用レベルに向上した後、平行棒内での立ち上がり及び立位保持練習を実施した。しかしPSの影響により非麻痺側への重心偏椅が強く立位保持困難であった。そこで、昇降機能のある治療台での端坐位姿勢から治療台を上昇させて殿部のみが治療台に接触している状態を経て、最終的に立位姿勢になるように操作を行った。これにより重心線が比較的正中位と一致した状態で立位保持が可能となり、連続して非麻痺側への重心移動練習を行うことができた。結果、随意的な非麻痺側への重心移動、さらに立ち上がり動作時の麻痺側への重心偏椅が軽減し、非麻痺側からの移乗動作が、軽介助で可能となった。退院時のPS重症度は軽度 (坐位・立位0点、歩行1点)であった。<BR>【考察】近年、PSの要因の一つとして重力認知システムの障害の可能性が報告されている。また坐位よりは立位・歩行など抗重力筋の活性化が必要となる姿勢や動作でPushingがより強く出現することも知られている。本症例では平行棒内の立位保持が困難であった時期に、昇降機能付き治療台を利用することで立位保持が可能となった。その要因として、坐位から立位姿勢への移行に際し、機械的に座面を上昇させることで立ち上がり動作に伴う反射的で過剰な抗重力筋群の筋収縮を抑制できた事がPushingの軽減に寄与したためと考える。さらに、比較的容易に垂直立位保持が可能になったことで、移乗動作に必要な非麻痺側への重心移動を効果的に学習できたと考える。このような重心移動練習を繰り返す事で重力認知システムに何らかの変化が生じたか、反復練習により習熟化がなされた可能性がある。結果、PSが軽減し、立ち上がりや、非麻痺側からの移乗動作能力が向上したと考える。今後は症例を増やし、今回の介入方法の効果を検討したい。
著者
藤田 恭久 幸田 剣 田島 文博 木下 利喜生 箕島 佑太 橋崎 孝賢 森木 貴司 川西 誠 児島 大介 上西 啓祐 梅本 安則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.95, 2011

【目的】 リハビリテーション(リハ)においては,たとえ重篤な症例であっても,医学的に患者の全身状態を悪化させる安静臥床を避ける必要がある.そのため出来る限り離床を進め,運動負荷を加えることがリハの基本である.今回,原因不明の多臓器不全と診断され、肺炎と無気肺を合併したために約2カ月間の人工呼吸器管理となった症例に積極的なリハを施行した。その結果、人工呼吸器離脱と同時に歩行自立を達成したので、その工夫を含めて報告する。<BR>【方法】 症例は37歳,男性,身長180cm,体重180kg,BMI 55.5kg/_m2_.今回,多臓器不全・肺炎により当院に緊急搬送,ICUで人工呼吸器管理となり,廃用予防・呼吸循環機能改善目的で入院2日目よりリハ開始となった.リハ開始時現症は,意識レベルJCS 300(鎮静下),人工呼吸器管理(経口挿管,APRV,FiO2 0.6,PEEP(high/low) 20/0),TV 500ml,SpO2 95%,血液ガス分析はPaO2 76.6mmHg,PaCO2 50.9 mmHg,P/F比128,AaDO2 287 mmHgであった.ROM制限は無く,自発運動は認めなかった.重度の肥満があり,体位ドレナージは当初より困難であった.ICU入室15日後,気管切開され,抜管のリスクが低下したため,端座位・立位訓練開始.この時,鎮静は実施されておらず,意識は清明であり,MMT両上肢3,両下肢2レベルであった.多臓器不全・肺炎の治療に長期を要し,ICU入室31日後,一般病棟へ転棟.その後もベッドサイドで人工呼吸器装着下(CPAP,FiO2 0.6,PEEP 8)で,端座位・立位訓練を継続した.<BR>転棟25日後,病棟で呼吸器離脱に向け,日中はT-tube(O2 8L,FiO2 0.8)を開始されたが,時折SpO2低下を認めたため,夜間は呼吸器管理を継続された.画像所見では,両肺に無気肺・スリガラス陰影を認めた.血液ガス分析はPaO2 77.6 mmHg,PaCO2 39.8 mmHg,P/F比172,AaDO2 193mmHgであった.肺炎が沈静化しておらず,酸素化能の低下には無気肺の影響もあると考えられた.検討の結果,人工呼吸器を持ち運び可能なHAMILTON-C2に変更し,リハ室へ出棟することとした.歩行訓練やハンドエルゴメーター(20W 20分)を中心とした運動負荷を積極的に行い,換気量を増加させることに努めた.リハ来室時の状況は,人工呼吸器(CPAP,FiO2 0.3,PEEP 6),安静時SpO2 97%,HR115回/分,TV600ml,呼吸数18回/分であった.歩行訓練後はSpO2 94%,HR132回/分,TV1200ml,呼吸回数25回/分となった.この時,HAMILTON-C2の支柱を自ら把持し軽介助レベルで歩行可能であった.<BR>訓練中に呼吸困難感が生じた際は,リハDrによりPEEPやPSなどの呼吸器設定を適宜変更しながら運動負荷量を増加させていった.<BR>【説明と同意】 本症例と家族に対して発表の趣旨について説明を行い,情報の開示に対し同意を得た.<BR>【結果】人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハ室で1週間運動療法を施行した結果,人工呼吸器を完全に離脱でき,T-tube(O2 5L,FiO2 0.3)へ移行できた. T-tubeの状態でも運動療法を推進した結果,酸素が不要となり,退院前には気切閉鎖できた.血液ガス分析はPaO2 68.1mmHg,PaCO2 40.6mmHg,P/F比324,AaDO2 23.8mmHgとなり,画像所見で無気肺の改善を認めた.体重は135kgに減量し,MMT上下肢4レベルとなった.ADLでは歩行が歩行器からT字杖歩行,独歩可能,身の回り動作が自立できた.<BR>【考察】気管切開後も人工呼吸器管理であったため,当初はベッドサイドでの立位訓練や車いす移乗までしか行えなかった.主治医より呼吸器離脱に向けた無気肺の改善を求められたが,重度の肥満があり,病棟での体位ドレナージは施行困難でリハ以外は臥床傾向であった.そこで今回,人工呼吸器を持ち運び可能なものに変更し,リハDrの付き添いのもと行える環境を設定したことで,運動負荷時に呼吸困難感が出現した際の対応も可能となった.そのため積極的な運動療法を安全に施行できたと考える.<BR>リハ室で訓練を行う事で日中の臥床傾向を減少させ,更に運動負荷を強める事で換気亢進が惹起され,無気肺の改善に寄与したと考えられる.その結果,P/F比・AaDO2も改善し,呼吸器の離脱が可能となったと思われる.また,歩行訓練のみならず,全身調整運動を欠かさず続けた結果,BMI 41.7kg/_m2_まで減量することができ,歩行能力を含めたADL向上が得られたと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器管理下では積極的なリハを敬遠しがちであるが,リハDrの付き添いのもと,持ち運び可能な人工呼吸器を使用することが,人工呼吸器装着患者に対して安全かつ効果的な運動負荷を実施するための選択となると考えられる.
著者
柏木 孝介 貴志 真也 奥田 智史 木村 侑史 川上 基好 小林 啓晋 高崎 恭輔 山口 剛司 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.98, 2008

【目的】今回、試合中のバッティング動作において、腰痛を発症した高校野球選手のバッティングフォームを三次元動作解析したので、フォームと腰痛発症要因の関係について若干の考察を加え報告する。<BR>【対象】本研究に同意を得た年齢18歳の高校野球選手で右投げ右打ちの外野手である。試合のバッティング時に内角低めを空振りして腰痛発症し、腰部椎間板障害の診断を受け、3ヶ月の理学療法により症状消失した症例である。<BR>【方法】野球のティーバッティング動作を6台の赤外線カメラ(180Hz)を有する三次元動作解析装置UM-CAT_II_(ユニメック社製)を使用して分析した。そして、内角・外角の2コースを設定し、各コースのティーバッティング動作における腰部の回旋と脊柱の側屈の動きについて測定した。腰部の回旋や側屈は、15ヶ所に貼付したマーカーのうち両肋骨下縁のマーカーを結んだ線(胸郭線)に対する両上前腸骨棘を結んだマーカーの線(骨盤線)のX軸に対する水平面上の回旋や前額面上の傾きで計測した。回旋は上から見て反時計回りを左回旋とした。また、腰椎の回旋は骨盤線に対する胸郭線の回旋とした。側屈は後方から見て骨盤線が胸郭線に対し反時計回りに傾いた状態を左凸の右側屈とした。<BR>【結果】バッティングにおける体幹の動きは、内角や外角のボールを打つのに関係なく軸脚加重期(ステップ足が離床から膝最高点)では右凸の左側屈・右回旋、踏み出し期(ステップ側の膝最高点からステップ足の床接地)では左凸の右側屈・腰椎右回旋(骨盤左回旋>胸郭左回旋)、スウィング期からフォロースルー期にかけては左凸の右側屈と腰椎左回旋(骨盤左回旋<胸郭左回旋)を行う。内角と外角のボールを打つときのバッティングフォームの違いは、スタンス期の左側屈角度、スイング期、フォロースルー期における体幹右側屈角度と腰椎回旋角度が内角を打つ動作より外角を打つ動作のほうが大きかったことである。<BR>【考察】今回行ったティーバッティング動作の体幹の動きについての分析では、内角のボールを打つときにくらべ、外角のボールを打つときには体幹の側屈角度や回旋角度は大きくなった。このことから、関節角度が大きくなる外角のボールを打つ動作は、腰椎へのストレスが大きく障害発生の危険性が高いと思われる。しかし、今回の症例では、内角のボールを打つ際に空振りをして腰痛発症している。これは、脊柱の動きが少ない内角打ちを空振りしたため脊柱の動きが急に大きくなり、関節中心軸から逸脱した腰椎回旋を生じ腰痛を発症したと考えられる。今後は、実際にボールを打ったときの脊柱の動きと空振りをしたときの脊柱の動きについて検討する必要があると思われる。
著者
岡 徹 奥平 修三 中川 拓也 古川 泰三 柿木 良介
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.29, 2011

【はじめに】キーンベック病は比較的珍しく、特に若年者スポーツ選手では稀である。今回、我々は硬式高校男子テニス選手に生じたキーンベック病に対し、血管柄骨移植を施行した1例を経験したので報告する。【説明と同意】本研究の目的、結果の取り扱いなど十分な説明を行い、データの使用および発表の同意を確認後に署名を得た。【症例紹介】16歳男性、高校硬式テニス部所属(県内ベスト4レベル)。試合中に片手フォアハンドでボールを強打したところ急に痛みが出現する。その後、腫脹と疼痛のためにテニス困難となり、Lichtman分類Stage_III_b(X線像で月状骨に圧潰像、舟状骨が掌側に回旋)のキーンベック病と診断される。発症から2ヵ月後に手術となる。【理学・画像所見】手背側に腫脹、リスター結節部周囲の圧痛と運動時痛を認めた。X線上では月状骨の硬化像と圧潰を認め、MRI(T1)上では月状骨の低信号を確認した。【手術所見】橈骨遠位背面から血管柄付きの骨を骨膜、軟骨組織とともに採取した。次に、病巣部位である月状骨の壊死部を背側よりドリリングと掻爬を加え、その間隙に移植骨を挿入した。移植後は有頭骨と舟状骨を鋼線で固定した。【評価項目】疼痛(NRS)、握力、手関節可動域および手関節機能評価表(Mayo Modified Wrist Score以下:MMWS)の各評価を術前、術後4ヵ月、5、6および8ヵ月で評価した。【理学療法】術後4ヵ月間の手関節ギプス固定後に抜釘した。その直後より、手関節ROM練習、筋力強化練習を開始した。筋力強化練習(股・体幹・肩甲帯強化)、ストレッチ指導、およびスポーツ動作指導を実施した。【結果】疼痛は、術前NRSが7/10で術後4ヵ月より軽減し術後6ヵ月で0/10と消失した。握力は術前18_kg_が術後5ヵ月で30_kg_(健側比75%)まで改善した。手関節ROMは術前で掌屈10°、背屈30°、橈屈15°、尺屈40°が、術後8ヵ月では掌屈35°、背屈70°、橈屈20°、尺屈45°と拡大した。MMWSは術前10点が、術後6ヵ月で90点まで回復した。術後5ヵ月からテニス競技復帰をした。掌屈のROM制限は残存するが、右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っている。【考察】。本疾患の発生要因については、いまだ解明されていない。しかし、テニス競技による手関節への外力で月状骨に局所的な応力が集中していることは推察できる。術後は長期間の固定による手機能(特にROM低下、筋力低下)の回復を積極的に行った。その後は、手関節の局所機能の回復とともに、上肢に限局したストレスがかからないような身体機能の再構築(肩甲骨や体幹・股関節の機能向上)やフォーム指導およびラケットの再検討などをおこなった。本症例は、術後6ヵ月から公式試合に復帰をした。掌屈のROM制限は残存するがテニス動作では橈尺屈が特に重要で現在のROMでテニスが可能であった。右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っており、今後も再発しないよう身体面のチェックや現場のコーチと密な連絡をとっていくことが重要である。【理学療法の意義】キーンベック病に対する理学療法の報告はほとんどないため、症例報告として症例の治療経過や理学療法プログラムおよび評価項目など検討していく必要があると考える。
著者
村上 加緒理 山口 織江 梅木 正篤
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.22, 2009

【目的】Functional Reach Test(以下FRT)距離は、年齢・性別・身長・COPの前後長等に影響されると言われているが、否定的な報告も多い。今回の研究では直立時・直立前傾時・最大リーチ時の重心動揺測定を行い、最大リーチ距離と重心位置及び身長との関係を検証した。<BR>【対象及び方法】対象は本研究に同意を得た健常女性21名とした。対象年齢は平均26.2±6.8歳であった。<BR>身長は金属身長計(アイズワン株式会社製YS-OA)を用いて測定した。<BR>FRT距離は、被験者を側方に設けたホワイトボード(200cm×240cm)と平行な方向に、裸足で足位は閉脚位に直立させて行った。開始肢位は両肩関節90°屈曲位とし、開始肢位と最大リーチ位での、第三指尖を通る床への垂直線の距離を3回測定し、平均値を求めた。<BR>重心動揺計測には重心動揺解析システム(アニマ社製G-620 )を用いた。計測時の足位は、閉脚位とし、基準点は両外果を結ぶ線の中点と一致させた。測定肢位は直立位、両母趾球の間に重心が落ちるよう指示した直立前傾位、両上肢を最大限前方に伸ばすよう指示した最大リーチ位の3肢位にて動揺検査を行った。各肢位における計測時間は30秒間とし、総軌跡長、外周面積、直立位のY軸中心変位を求めた。統計学的処理として、FRT距離と外周面積は、Spearman'sの順位相関係数を用い、最大リーチ距離と身長・総軌跡長・Y軸中心変位はPearsonの積率相関係数を算出し、いずれも有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】FRT距離の平均は34.4±9.0cmであった。外周面積の平均は、直立時2.32±3.5cm、前傾時2.99±5.67cm、リーチ時6.14±5.99cmであり、FRT距離と直立時の外周面積(rs=0.59;P<0.01 )、最大リーチ時の外周面積(rs=0.47;P<0.05 )には相関を認めた。身長の平均は、160.9±10.1cmであり、FRT距離と身長には相関が見られなかった。総軌跡長の平均は、直立時で32.83±16.52cm、前傾時で44.25±27.46cm、最大リーチ時で66.0±30.78cmであり、FRT距離と総軌跡長の間には相関は見られなかった。Y軸中心変位の平均は、直立時4.49±2.98_cm_、前傾時10.22±2.98cm、最大リーチ時10.64±3.5cmであり、FRT距離と直立時のY軸中心変位のみ負の相関を認めた(r=-0.48;P<0.05 )。<BR>【考察】先行研究では、身長がFRT距離に影響をするという報告は多数あるが、今回の結果での相関は認めなかった。FRT距離は直立時と最大リーチ時の外周面積、直立時のY軸中心変位と相関が見られた。これは動的立位バランスの指標とされているFRTが、直立位の影響を受けていると考えられた。<BR>
著者
山田 実 河内 崇 森岡 周
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.5, 2008

【目的】特定高齢者は、要支援・要介護高齢者の予備群と位置づけされており、これら高齢者の転倒を予防することは介護予防や医療・介護費用の削減に直結する重要な取り組みである。自験例において、特定高齢者の転倒には、探索的行為や注意機能、それに幾多の方向転換などの要素が関与していることを報告した。本研究では、日常生活で不可欠となる極短期的な作業記憶(ワーキングメモリ)の要素を組み入れた複合機能評価によって、特定高齢者における転倒の特性について検討した。<BR>【方法】対象は特定高齢者30名(79.5±6.2歳)とした。対象者が立っている位置より後方2mにホワイトボードを設置し、側方から前方2mにかけて扇状に高さ70cm、幅200cm、奥行き40cmのテーブルを2台設置した。テーブル上には、裏面に磁石のついた15cm×15cmの厚紙に『あ』から『ん』までの平仮名が一文字ずつ書かれた46枚の仮名カードがランダムに配置された。ホワイトボードには3文字(例:らはそ)か4文字(例:こるそや)、もしくは5文字(例:かふろんほ)の意味をなさない文字が書かれてあり、対象者はスタートの合図でホワイトボードの文字を見て、テーブル上にある仮名カードを探索し、拾い集めてホワイトボードに貼り付けることが求められた。検者はスタートの合図より全ての仮名カードを貼り付け終えるまでの時間を計測した。なお、3文字、4文字、5文字は対象者によってくじ引きによってランダムな順序で実施し、1週間の間隔を挟みながら3通りの測定を行った。また、過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群12名、非転倒群18名に分けて統計解析を行った。<BR>【結果】3文字の際には、転倒群32.6±10.7秒、非転倒群29.9±8.5秒で有意な差は認められなかった(p=0.607)。同様に4文字の際にも、転倒群43.7±8.1秒、非転倒群39.8±9.3秒で有意な差は認められなかった(p=282)。しかし5文字の際には、転倒群75.5±12.1秒、非転倒群57.3±11.9秒で有意な差が認められた(p=0.012)。<BR>【考察】3文字及び4文字の場合には群間差は認められなかったが、5文字になると転倒群で有意に時間的延長を認めた。本研究で用いたテストは、仮名カードを探す探索的行為や注意機能、仮名カードを探す為に繰り返し行う方向転換、手を伸ばして仮名カードを採るリーチ動作、そして文字を極短期的に記憶しておくワーキングメモリなど日常生活で欠かすことのできない要素が組み込まれている。5文字の場合でのみ転倒群で有意に延長していたということから、探索的行為や方向転換、リーチ動作などの機能に群間差があるとは考えにくく、ワーキングメモリが転倒に関与していたものと考えられた。<BR>【まとめ】特定高齢者の転倒には、ワーキングメモリ機能低下が関係している可能性が示唆された。