- 著者
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岩永 裕氏
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.119, no.3, pp.185-190, 2002 (Released:2002-12-24)
- 参考文献数
- 25
- 被引用文献数
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過敏性腸症候群(IBS)は,腹痛あるいは腹部不快感などの腹部症状と下痢あるいは便秘などの便通異常を症状とし,原因としての器質的変化を同定しえない消化管の機能的疾患である.ポリカルボフィルカルシウムは高吸水性ポリマーであり,便中の水分を吸水·保持することによりIBSの便性状を改善することが期待された.ポリカルボフィルカルシウムは酸性条件下でカルシウムを脱離し,中性条件下では初期重量の70倍の吸水能を示すとともにゲル化する物理化学的特性を示した.ラット空腸および結腸を用いたin situ試験では,ポリカルボフィルが腸管による水吸収に逆らって管腔内に水を保持することが示された.下痢に対して,マウスのプロスタグランジンE2および5-hydroxy-L-tryptophan下痢モデルおよびラットのヒマシ油下痢モデルで有効性を示し,イヌのセンノシド下痢モデルにおいて下痢便排泄頻度を低下させ便性状を改善した.便秘に対しては,正常ラットおよび低線維食ラット便秘モデルにおいて,排便量を増大させた.正常イヌにおいても下痢を誘発することなく,排便頻度,排便量および便水分含量を増加させた.また,ポリカルボフィルはラットおよびイヌにおいて消化管から吸収されず,代謝を受けることなく糞中に排泄された.さらにイヌにおいて,併用投与した薬物の吸収に影響を及ぼさなかった.IBS患者を対象とした二重盲検法による用量設定試験において本剤は,下痢,便秘いずれに対しても有効性を示し,マレイン酸トリメブチンを対照とした比較試験の結果,有効性において有意に優れ,安全性において差を認めなかった.副作用としては,嘔気·嘔吐や口渇などが認められたが,薬理効果過剰による便秘や下痢の発現はわずかであり,ユニークな作用に基づくIBS治療薬として期待される.