著者
岩田 奈織子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

重症急性呼吸器症候群 (SARS) コロナウイルス(SARS-CoV)は重症呼吸器疾患を引き起こす新興ウイルスである。ワクチンや治療薬はまだ開発されていない。UV不活化SARS-CoV全粒子(UV-V)は多くのエピトープやタンパクを含んでおり、SARSのワクチン候補とされている。しかしながら、ヌクレオカプシドタンパクを含む不活化SARSワクチンはウイルス感染後マウスの肺に好酸球浸潤を示すことが報告されている。今回、Toll-like receptor (TLR) アゴニストがUV-Vワクチンの副反応を軽減するか半年齢のBALB/cマウスで調べた。UV-V、水酸化アルミニウム(Alum)添加UV-Vで免疫した半年齢マウスは、マウス馴化SARS-CoVの感染に対して一部防御を示し、組織学的に肺で肺胞傷害像は見られなかったが、血管周囲に広汎な好酸球浸潤が見られた。一方、リポポリサッカライド、Poly(I:C)、PolyUを含むTLRアゴニストを添加したUV-V(UV-V+TLR)で免疫したマウスでは、肺での好酸球浸潤が著しく減少した。そして肺のサイトカイン量の測定で好酸球誘導に関わるIL-4およびIL-13の値がUV-V免疫マウスよりも低いことが示された。加えて、マイクロアレイ解析でUV-V免疫マウスでは好酸球誘導に関わる遺伝子の発現が高くなっていたのに対し、UV-V+TLR免疫マウスではそれらは低く、むしろTLR3および4の下流に位置する遺伝子の発現が高くなっていることが分かった。これらの結果から、SARS-CoV感染により引き起こされる肺のワクチン誘発性好酸球浸潤はTLRアゴニストをアジュバントにすることにより、回避できると示唆された。
著者
岩田 奈織子
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

重症肺炎を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV) 及び中東呼吸器症候群コロナウイルス (MERS-CoV) に対する新規ワクチン開発のため、平成29年度は平成28年度に引き続き免疫原とするSARS-CoVのスパイク (S) タンパク質を作製し、その中和抗体誘導能をマウスで確認した。平成28年度に作製したSARS-CoV S タンパク質は精製度が低かったため中和抗体誘導能が低かったため、平成29年度は精製度の高いSARS-CoV S タンパク質を作製し直した。このタンパク質を抗原としてマウスに 1 匹あたり 1 回、1, 0.5, 0.1, 0.05 μg をそれぞれ皮下免疫したところ、2回の免疫で S タンパク質に対する IgG の産生が見られた。IgG 抗体の産生は免疫した抗原濃度に依存して見られ、1 μg, 0.5 μgでは免疫した全てのマウスで高い IgG 抗体産生があった。中和抗体に関しても 1, 0.5, 0.1 μg では産生が見られたが、0.05 μg の免疫群では検出限界以下だった。また、各抗原量に金ナノ粒子を添加して同様に免疫をした場合、1 μg, 0.5 μgを免疫した群では抗原のみを投与した群と比較して中和抗体の産生に違いはなかったが、0.1 μg を投与した群では金ナノ粒子を添加した場合の方が IgG 抗体および中和抗体の産生はわずかに高かった。しかし、これらの免疫マウスを用いてウイルス攻撃実験を行なった結果、金ナノ粒子を添加した免疫群はどの抗原量においても感染後の体重の回復が悪く、さらに金ナノ粒子添加 0.1 μg、0.05 μg を免疫した群では、生存率が抗原のみの群よりも悪かった。この結果に基き次年度は、金ナノ粒子を添加したことによる副反応の影響を追求する。