著者
岩田 道子
出版者
拓殖大学言語文化研究所
雑誌
拓殖大学語学研究 = Takushoku Language Studies (ISSN:13488384)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.1-37, 2018-03-31

ギリシャ神話の女神はアジア諸地域の地母神信仰にルーツを持つものが多い。ヴィーナスもその1 人で,ギリシャに移入されると愛を司る女神として神話の中に多くの逸話を残している。イギリス・ルネサンスに至り特にエリザベス1 世治世下で興隆した演劇文化の中に,ヴィーナスは他の神話的人物ともに登場してくる。純潔という美徳を体現する女王がパトロンでもあるエリザベス朝演劇において,御前公演を前提とする宮廷劇に登場するヴィーナスとシェイクスピアの物語詩『ヴィーナスとアドニス』に描かれたヴィーナス像との違いを愛の諸層の中で論ずるものである。愛と結婚の概念の変化と処女女王エリザベス1 世の存在によって,ヴィーナスの姿は愛の実相を映し出す鏡の役割を果たしている。