著者
倉西 良一 岸本 亨 東城 幸治
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

河川の上流、特に源流部には独特な生物が棲息する。源流のみに生息する種は、生息地が局限されること、生物の環境要求がきびしいため地域個体群の絶滅が起こりやすい状況にある。このことから源流生息種は、国や地方自治体のレッドデータブックによく掲載されている。本研究では、河川の上流(源流)に生息する種の分布や生態の調査を行い基本的な知見を得ることを第一の目標とした。さらにカゲロウ、カワゲラ、トビケラといった水生昆虫の源流生息種について遺伝子解析を行い、個体群間の類縁度などから保全すべき個体群の推定を行った。河川上流に生息するさまざまな水生昆虫の中でもガガンボカゲロウ類、トワダカワゲラ類、ナガレトビケラ類のいくつかの種群の昆虫は河川源流域の冷たい湧水や細流のみに生息する。これまでに日本各地より採集された、ナガレトビケラ科12種、ガガンボカゲロウ2種、トワダカワゲラ科4種について遺伝子解析を行った。ガガンボカゲロウ属の2種は、全国で採集された個体群を比較したところ、地域固有の八プロタイプが多数認められた。これは生息環境が河川源流部に局限されること、成虫が活動的ではなく分散能力が低いことに起因すると考えられた。ガガンボカゲロウ属に関しては、地域間の遺伝子交流がほとんどないことから、それぞれの地域個体群が独立した存在であり、種レベルではなく地域ことに念入りな保全が望まれるごとが明らかとなった。これに対しトワダカワゲラは、成虫が無翅で飛翔力なく、分布が局所的であることなどから地域固有の遺伝子をもつ個体群が認識されるという仮説を持ってはいたが、本州から北海道にかけての個体群を解析したところ、個体群間の遺伝的変異は小さいことが明らかとなった。従来、原始的な形態をもつと考えられていたトワダカワゲラ科は、系統的にもそれほど古い昆虫ではなく、大陸起源であり朝鮮半島から日本に入り分布を広げ、種分化は比較的新しい時代に生じたと考えられた。ナガレトビケラ類は、解析できた地域個体群の数が少ないため種内の遺伝的変異の度合いはまだ解明の途上にあり、結果がまとまりしだい公開したいと考えている。