著者
吉田 匠 竹中 將起 東城 幸治
出版者
Entomological Society of Japan
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.165-174, 2023-09-25 (Released:2023-10-17)
参考文献数
26

Elmomorphus beetles were recorded for the first time on Okinoerabu-jima Island in the Ryukyu Archipelago. Morphological examinations of the specimens clearly identified them as being Elmomorphus amamiensis. To date, based on the results of morphological classification and molecular phylogenetic analyses, two Japanese Elmomorphus beetles have been recorded; namely, Elmomorphus brevicornis and E. amamiensis. However, a third lineage was detected among them based on our genetic analyses. This third lineage was identified as being within the E. amamiensis populations of the Okinawa-jima and Kume-jima Islands and also in the Okinoerabu-jima Island populations and was newly discovered in this study. According to the analyses of all their nuclear and mitochondrial DNA, this third lineage did not constitute a monophyletic group with E. amamiensis of Amami-oshima Island (which is the type locality of this species), but rather formed a monophyletic group with E. brevicornis. These results suggested the following two possibilities: 1) the existence of a third distinct species, different from the other two species, 2) all three lineages together constitute one species as a whole and each lineage corresponds to a regional sub-clade within that species. In addition, the morphological characteristics that have been used to distinguish species/subspecies may themselves be problematic. Although it is not possible to come to a definitive conclusion as to which hypothesis is correct in this study, it has become clear that Elmomorphus beetles are an extremely significant species in discussions about the origin and phylogeographic history of the Ryukyu Archipelago.
著者
田中 吉輝 長久保 麻子 東城 幸治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.129-146, 2010 (Released:2011-08-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

北米・フロリダ地方原産のフロリダマミズヨコエビは,1989年に日本(千葉-茨城県境の古利根沼:利根川の河跡湖)で初見された外来ヨコエビである。様々な環境への適応性や繁殖力が強く,現在まで,急激に分布を拡大し,日本広域に棲息している。在来の淡水ヨコエビ類が棲息しないような新しいハビタットにも侵入・定着し,また在来ヨコエビ類の棲息ハビタットへも侵入している。本研究では,在来種のオオエゾヨコエビが棲息するハビタットに外来種フロリダマミズヨコエビが侵入・定着した,長野県安曇野市の蓼川を調査地として,年間を通したそれぞれの個体群動態を調査した。同所的に棲息してはいるものの,棲み場所として利用する沈水植物種レベルでの違いが認められるなど,マイクロハビタット・レベルでのニッチ分割が認められた。また,両種が同所的に棲息することで,それぞれの繁殖時季に若干の相互作用が生じている可能性も示唆された。種間における強い排他性のある競争関係は認められなかったが,これは互いの体サイズに大きな相違があることや,蓼川においては,充分な棲み場環境や餌条件が揃っているためであると考えられる。
著者
関根 一希 渡辺 直 東城 幸治
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.119-131, 2020-12-25 (Released:2021-10-21)
参考文献数
65

Ephoron of polymitarcyid mayflies in East Asia includes three species, E. shigae, E. limnobium, and E. eophilum, but the former two species are not separated on their molecular phylogenetic trees. All-female automictic parthenogenetic reproduction is known only in Japanese E. shigae in which bisexual and unisexual populations are distributed across Japan without any clear biogeographic boundaries. Population genetic structure studies show the parthenogenetic origin occurred only once in western Japan and then expanded all over Japan. In some rivers, both reproductive types coexist, and parthenogenetic females occupied the population within 20 years after unisexual introduction. Ephoron shigae has univoltine life cycles, and adults emerge synchronously in early autumn in bisexual or unisexual populations. It is a future problem for this ecologically interesting mayfly to inhabit the same rivers with both reproductive types.
著者
金田 彰二 倉西 良一 石綿 進一 東城 幸治 清水 高男 平良 裕之 佐竹 潔
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.449-460, 2007 (Released:2008-12-31)
参考文献数
46
被引用文献数
7 10 5

近年,日本に侵入したと推測される外来種フロリダマミズヨコエビの文献および標本調査を行った。この結果28都府県からの出現を確認した。 Morino et al. (2004)と比較すると,関東地方において神奈川,東京で確認地点が著しく増加し,従来記録の無かった東北地方や長野県,新潟県,関西や四国でも分布が明らかとなった。フロリダマミズヨコエビと在来ヨコエビ類3科の形態の特徴を記載した。
著者
吉田 匠 野田 聖 東城 幸治 竹中 將起
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.107-114, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
17

甑島列島は九州南西部に位置し,上甑島,中甑島,下甑島とそれらの周辺の小さな島々から成る.甑島列島は,最終氷期に形成された陸橋により九州島と接続したとされるが,多くの固有種が報告されている.これは,甑島列島において独自の生物相が形成されてきたためと考えられる.しかし,甑島列島では水生昆虫類の報告は少なく,本研究で着目したカゲロウ類に関する報告はない.そこで,甑島列島に生息するカゲロウ目昆虫を調査した.その結果,4科(Baetidae, Ephemeridae, Heptageniidae, Dipteromimidae)にわたる少なくとも5属7種のカゲロウ目昆虫を採集した(属種の同定ができなかったコカゲロウ科がBaetis属以外であれば6属となる).また,採集した甑島列島のカゲロウ類はすべて九州島との共通種であり,上甑島と下甑島で採集したカゲロウ相に違いはなかった.本報は,甑島列島におけるカゲロウ目昆虫類の最初の記録である.
著者
東城 幸治
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昆虫類の高次系統を考察するべく,比較発生学的アプローチによる研究を展開した。特に,カカトアルキ目昆虫類を中心とした研究を行った。前年度までに採取・確保したサンプルを基に,胚発生や卵形態に関する知見を蓄積させ,原始的有翅昆虫類(直翅系昆虫類や旧翅類昆虫類)における発生プロセスとの比較検討を実施した。系統解析において鍵となるような発生形質:胚発生における胚の陥入anatrepsis,胚反転katatrepsisといった胚運動blastokinesisのシステムに関しては,初年度および18年度より知見を深め,この他,卵形成や卵形態(特に卵門micropyleなどの微細構造)の比較から,カカトアルキ目とガロアムシ目の類縁性を議論してきた。典型的な短胚型発生をし,はじめは卵内に浅く陥入し,その後に平行的に卵内に潜り込み,卵中央に定位することなど,ガロアムシ目との共通性が強く認められた。一方で,胚反転前のステージでありながらも,胚体としては孵化直前のレベルに近いほどによく形態形成が進んでいること(遅延的な胚反転)など,他の昆虫類の胚発生には認められない,本目独自の形質も認められた。この特殊性は,長く厳しい乾季を凌ぐ上で重要な形質であると考えられると共に,カカトアルキ目の単系統性を示唆する重要な形質の一つと言える。これらの研究成果は,海外の研究グループによる頭部形態や精子形成,分子系統解析などの研究からの考察とも矛盾なく,本研究における成果の妥当性が示唆される。これらの知見を,20年度に開催される国際昆虫学会で発表する予定である。また,本研究の成果のうち,既に学術誌への公表の済んだ内容に関しては,出版社からの依頼により,19年11月に書籍として出版した。
著者
高岡 貞夫 井上 恵輔 東城 幸治 齋藤 めぐみ 苅谷 愛彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2023 (Released:2023-04-06)

1.はじめに ジオ多様性と生物多様性の関係は理論的には確立されているものの、この関係を実証的に示す研究が十分に行われているとは言えない。両者の関係を探る研究はしばしば大スケール(大陸規模,国土規模)におけるグリッドセルデータを用いたGISベースの研究として行われるが、両多様性の関係の背景にある生態学的なプロセスを直接的に理解するには、グリッドセルにデータ化できない環境の特質も含めて、両者の間の複雑な関係を小スケールの地域研究として行うことが必要であろう。本講演では山地の池沼を例に検討した結果を示す。2.山地池沼のジオ多様性 中部山岳地域の標高2000m以上の地域にある、面積約50m2以上の池沼304 個について、その成因を地形と対応づけて整理した結果、池沼は線状凹地、地すべり移動体、圏谷底、火山地形(火口、溶岩台地など)などがつくる凹地に形成されていた。しかし凹地さえあれば池沼が形成されるということではなく、決定木を用いた分析によれば、気候(特に積雪深)や地質など地域的な条件を背景に池沼が成立していることが明らかになった。池沼の規模や標高分布は池沼の成因別に特徴があり、池沼の古さも成因と関係があると推察される。 上高地周辺の池沼に関する現地での観測や観察によれば、水質や水温、水位の季節変化、消雪時期、周囲の植生の特質は、地形と結びついて形成されている池沼の成因ごとに特徴がある。したがって、池沼に生息する生物の多様性には、池沼の成因と関連づけて理解できる部分があるものと考えられる。3.山地池沼の生物多様性(1) 水生昆虫 上高地周辺の高山帯・亜高山帯に存在する23池沼の止水性昆虫相を調べたところ、7目15科19種が確認された。これらの池沼は群集構造に基づいて4つのグループに分類され、それらは圏谷底に位置するもの、主に線状凹地に位置するもの、焼岳火口を含む前二者以外の主稜線付近に位置するもの、梓川氾濫原に位置するものであった。圏谷底の池沼では幼虫期に砂粒を巣材に用いる種群が優占し、線状凹地の池沼では水際の植物を利用して倒垂型の羽化を行う種や葉片・樹木片を幼虫期の巣材に用いる種が優占していた。梓川氾濫原では、流水環境にも適応した種群が優占していた。マメゲンゴロウについて遺伝子マーカーを用いた集団遺伝解析を行った結果、近接する池沼では遺伝構造が類似する一方で、特定の山域に集中するハプロタイプも検出された。以上のことから、種レベルの多様性は池沼の成因に結び付いた環境条件の違いによって生み出され、遺伝子レベルの多様性には、分散の障壁となる尾根や谷といった小地形・中地形スケールの地形がかかわっていると考えられる。(2) 珪藻群集 同地域の45池沼において、池底の表層堆積物に含まれる珪藻を殻の形態にもとづいて分類したところ、75分類群以上が確認された。これらの池沼は群集構造に基づいて4つのグループに分類され、それらは圏谷底に位置するもの、線状凹地に位置するもの、梓川氾濫原に位置するもの、氾濫原上の流れ山群内に位置するものであった。各池沼に出現する分類群はECやpHといった水質の他に、池沼の面積や周囲の植生に影響を受けていると考えられる。また、線状凹地に位置するグループには、梓川の左岸側稜線に集中して分布するグループと流域内に広く分布するグループが含まれる。これらのことから、珪藻群集の構造は、池沼の環境(植生発達や水質)と分散の歴史の双方の影響を受けて成立していることが示唆される。池沼の環境は地形と関連した池沼の成因と結びついて形成され、一方で、小地形・中地形スケールの地形がつくりだす距離や標高差が分散に対する障壁として働いている可能性がある。止水性の珪藻は水生昆虫よりも相対的に分散が難しいと考えられるが、このことが種相当のレベルの多様性においても分散の影響が表れる原因になっていることが示唆される。4.今後の課題 これまで、ジオ多様性や生物多様性という用語が使われなかった場合も含めて、植生(植物)についてはジオ多様性との関係についての研究が地理学分野においてなされてきた。山地地形の研究の進展によって地形の形成過程や年代に関する理解が一層深まる中で、今後取り組むべき研究課題は少なくない。氷期の遺存種的な性格を持つ植物の、分布の成因の解明などはその一つであろう。 他方、地理学において山地の野生動物に関する研究は進んでいない。移動性の高い動物は、その分布の特徴を地形に関連づけて理解することは必ずしもできないであろう。しかし、潜在的な分布頻度が、地形を軸とするジオ多様性と関連付けて理解できれば、動物と生息環境の関係を空間的にとらえる視点が得られる。このことは、生物多様性の保全を考えるうえで重要である。
著者
関根 一希 鶴田 大三郎 東城 幸治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.253-260, 2007 (Released:2008-09-30)
参考文献数
24
被引用文献数
4 6

オオシロカゲロウは進化生態学的に興味深い昆虫であるが,比較的大・中規模とされる河川,かつ水深が深い中・下流域に棲息するため,生活史全般に渡る調査研究は困難とされてきた。本研究では,小規模な農業用水路・日野用水(東京都日野市)において本種が高密度で確認されたため,調査に適した棲息地として2005年の一年間,生活史を詳細に追究した。その結果,主たる孵化期間は2月下旬-3月下旬であり,羽化期間は8月30日-9月20日間(ピークは9月3日,4日)であることを確認した。また一方で,一年を通して孵化前卵が認められたが,これは休眠卵に適切な低温処理がなされず,春になっても休眠解除されなかったものであると考えられる。これらの卵は翌年(あるいは,それ以降の年)の春季に休眠が解除される可能性も考えられ,鰓脚類や一部の昆虫類などでみられるようなエッグバンク的機構が備わっている可能性も示唆された。
著者
関根 一希 末吉 正尚 東城 幸治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.73-84, 2013-05-10 (Released:2014-05-15)
参考文献数
26
被引用文献数
3

オオシロカゲロウは国内広域の河川中・下流域に棲息し,幼生は河床の砂礫に潜って生活する。羽化は初秋 (1週間から数週間程度) の日没後にみられるが,極めて同調性の高い羽化であり,交尾飛翔・群飛が認められ,大発生に至ることもある水生昆虫である。1970年代から本種における大発生は日本各地の河川において報告されてきたが,本種の棲息状況に関しては,羽化個体において評価されるに留まっており,河川内の詳しい分布は十分には把握されていないのが現状である。理由としては,1) 短い亜成虫・成虫期間 (長くても2時間程度),2) 短い羽化時期,3) 短い幼生期間 (約半年を休眠卵で過ごす),4) 典型的なハビタットは比較的大きな河川の中下流で,かつ河床の砂礫に潜る生活型であることがあげられる。このような状況から,本研究では,本種の大発生が1928年と最も古い記録 (志賀直哉の小説「豊年蟲」としての記録) として残され,現在も規模の大きな発生が続いていて,個体群規模も大きな長野県・千曲川を調査地として,幼生ステージにおける分布調査を実施した。その結果,羽化量調査による先行研究と同様,最も多くの羽化個体が認められた平和橋粟佐橋調査区において,体サイズの大きい幼生が高い個体密度で棲息することが確認された。一方,平和橋粟佐橋調査区より上流や下流側では,個体密度や体サイズなど現存量の低下が認められた。羽化量調査により分布が認められないとされていた犀川合流地点よりも下流側においても,幼生の棲息が認められた。しかし,幼生の体サイズは小さく,比較的貧栄養的な犀川の合流により千曲川の汚濁度が低下し,幼生の餌であるデトリタス量が低下したことに原因があるのかもしれない。
著者
早川 美波 林 秀剛 岸元 良輔 伊藤 建夫 東城 幸治
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.245, 2013 (Released:2014-02-14)

ツキノワグマ Ursus thibetanusは,アジア広域に生息する中型のクマで,日本には,固有亜種,ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusが,本州と四国に生息している.中でも,本研究の対象地域である長野県は,日本アルプスを含む中部山岳域に囲まれていること,長野県におけるツキノワグマの推定生息数が約 3600頭 (長野県 2011年) であることからも重要な生息地の 1つであると考えられる.一方,長野県には独立した山塊がいくつかあり,盆地には都市が広がっているため,ツキノワグマの生息地が必ずしも連続しているとは言えず,また,山塊間の移動の程度や遺伝的多様性の評価などの研究が十分行われていないことから,一概にも安定した個体群が維持されているとは言えない.本研究では,2006年から 2012年に捕獲されたツキノワグマ約 200個体を用いて,mtDNA制御領域 626-bp及び,核 DNA MHC クラスター Ⅱベータ遺伝子 2領域 270-bpを解析し,長野県ツキノワグマ個体群における遺伝的構造の究明を行った.  mtDNA制御領域の解析では,12のハプロタイプを検出した.ハプロタイプの地理的分布から,長野県の北部と南部では解析した個体から検出されるハプロタイプが異なったため,長野県の北部と中南部間での遺伝子流動,すなわちツキノワグマの移動分散が起きていない,あるいは非常にまれであることが示唆された.
著者
倉西 良一 岸本 亨 東城 幸治
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

河川の上流、特に源流部には独特な生物が棲息する。源流のみに生息する種は、生息地が局限されること、生物の環境要求がきびしいため地域個体群の絶滅が起こりやすい状況にある。このことから源流生息種は、国や地方自治体のレッドデータブックによく掲載されている。本研究では、河川の上流(源流)に生息する種の分布や生態の調査を行い基本的な知見を得ることを第一の目標とした。さらにカゲロウ、カワゲラ、トビケラといった水生昆虫の源流生息種について遺伝子解析を行い、個体群間の類縁度などから保全すべき個体群の推定を行った。河川上流に生息するさまざまな水生昆虫の中でもガガンボカゲロウ類、トワダカワゲラ類、ナガレトビケラ類のいくつかの種群の昆虫は河川源流域の冷たい湧水や細流のみに生息する。これまでに日本各地より採集された、ナガレトビケラ科12種、ガガンボカゲロウ2種、トワダカワゲラ科4種について遺伝子解析を行った。ガガンボカゲロウ属の2種は、全国で採集された個体群を比較したところ、地域固有の八プロタイプが多数認められた。これは生息環境が河川源流部に局限されること、成虫が活動的ではなく分散能力が低いことに起因すると考えられた。ガガンボカゲロウ属に関しては、地域間の遺伝子交流がほとんどないことから、それぞれの地域個体群が独立した存在であり、種レベルではなく地域ことに念入りな保全が望まれるごとが明らかとなった。これに対しトワダカワゲラは、成虫が無翅で飛翔力なく、分布が局所的であることなどから地域固有の遺伝子をもつ個体群が認識されるという仮説を持ってはいたが、本州から北海道にかけての個体群を解析したところ、個体群間の遺伝的変異は小さいことが明らかとなった。従来、原始的な形態をもつと考えられていたトワダカワゲラ科は、系統的にもそれほど古い昆虫ではなく、大陸起源であり朝鮮半島から日本に入り分布を広げ、種分化は比較的新しい時代に生じたと考えられた。ナガレトビケラ類は、解析できた地域個体群の数が少ないため種内の遺伝的変異の度合いはまだ解明の途上にあり、結果がまとまりしだい公開したいと考えている。