著者
清水 雅俊 奥野 恵子 島 尚司 正井 博之 三輪 陽一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.53-58, 2006-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
13

症例は41歳女性.20歳代後半で退職してから午前4時に入眠し,12時に起床するという生活が続いており,また,同時期からストレスや寒冷時に動悸を自覚していた.24時間心電図検査における心拍数の平均は97/分であり,覚醒時には大半が100/分以上で睡眠中には70台にまで減少するという日内変動を呈していた.さらに,強い動悸を自覚した際には心拍数200/分の発作性上室性頻拍が認められ,この出現と停止は突然であり,基本調律である洞性頻脈との間に連続した心拍数の増減は認められなかった.各種精査の結果,洞性頻脈は二次性のものではなく,起立試験で体位性頻脈も否定された.本症例はinappropriate sinus tachycardiaに発作性上室性頻拍の合併したものと診断された.電気生理学的検査において内因性心拍数は113/分と予測値95/分より増大しており,発作性上室性頻拍は左室側壁部の潜在性ケント束による房室回帰性頻拍と判明した.同束に対してはカテーテル心筋焼灼術がなされ,ベラパミル120mg/日の開始によって心拍数は平均90/分に減少(最低67,最大120)し,房室回帰性頻拍の再発は認められていない.明け方前に入眠して昼頃に起床するという概日リズム障害は睡眠相後退症候群と診断され,ビタミンB12投与が開始された,inappropriate sinus tachycardiaや睡眠相後退症候群は,社会適応に重大な障害を起こし得るものである.どちらも,比較的新しい疾患概念であるので,広く認識されて適切な治療がなされることが望まれる.
著者
仲田 かおり 清水 雅俊 島 尚司 田中 将貴 堀 啓一郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.1110-1114, 2006
被引用文献数
5

症例は73歳,男性.急性舌腫脹による咽頭腔の閉塞で呼吸困難をきたし救急搬送された.ただちに経鼻エアウェイ挿入で気道確保のうえ,同チューブから酸素投与がなされた.内視鏡検査では鼻咽腔および喉頭には浮腫がおよんでいないことが確認された.舌腫脹は強力ネオミノファーゲンCとマレイン酸クロルフェニラミンの投与により,しだいに軽快して約5時間後には会話可能となった.発症10時間後に施行されたMRI検査では,咽頭腔を塞ぐように舌が腫脹していたが舌内に膿瘍や出血は認められなかった.上記の投薬を続けることにより舌腫脹は4日後には完全消失した.急性舌腫脹の原因は,66歳時から80カ月間投与されていたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬リシノプリルによる血管浮腫と考えられた.また,発症時の検査で腎機能障害が増悪しており,感冒に対して前日まで内服していた消炎鎮痛剤が原因と考えられ,さらに,リシノプリルの尿中排泄低下により血中濃度上昇を助長したものと考えられた.わが国におけるACE阻害薬が原因の血管浮腫は比較的稀であり,とくに舌腫脹の報告は本例を含めて計11例に過ぎない.しかしながら,死亡例も報告されており,気道確保を含めた適切な対応が重要である.また,ACE阻害薬内服者に顔面や口唇の浮腫や舌の違和感などの訴えがあれば,ただちに投与は中止されるべきである.