著者
島崎 正美 入野 裕史 金子 實
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.49-54, 2008
参考文献数
13

石垣島や西表島などの八重山諸島では,偶発的に発生するヤエヤマムラサキ(Hypolimnas anomala)の母蝶が,産卵後の孵化から幼虫が2令に成長するまでずっと葉裏にとどまってそのままの姿勢で死ぬことが多いという特異な習性を示すことは広く知られていて,日本ではその母蝶がいなければ全く孵化しないとか,例え孵化してもその後幼虫が順調に成育できないと信じられていた.この蝶の上記習性に関しては,NafusとSchreiner (1988)が,グアム島において本邦と同一ではない餌植物で発生しているヤエヤマムラサキに関する生態研究結果を報告しているが,本邦における母蝶に関する報告例はきわめて少ない.筆者らは2001年から2002年にかけて卵保護状態にあった母蝶がいなくなったあとも正常に蝶にまで生育できた野外観察結果を報告した(蝶研フィールド,2002)が,NafusとSchreinerによる報告とはいくらか異なる知見を含む複数の野外観察事例を追加して,母蝶がいなくなっても卵から蝶まで正常に育つことは稀ではなく母蝶の保護が必須ではないとの結論を得た.ただし,本報告中でも述べたように実際に母蝶の保護がないと正常に成育できなかった例もあり,母蝶が産卵後に葉裏にとどまり続けることの真の理由解明にはさらなる調査・研究が必要である.