著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.191-210, 2013 (Released:2021-10-26)
参考文献数
25

オランダにおける2001年税制改革では,3つの所得分類に課税するボックス課税と社会保険料から減免可能な給付付き税額控除を導入した。ボックス3にみなし課税が導入されたことで資本所得の分離課税化が改革の中心として捉えられてきた。しかし,この改革が成立過程においてどのように正当化され成立したのかについては,論じられてこなかった。本稿では,同改革がどのように議論されたのかを政治過程分析から明らかにし,どのような租税制度として結実したのかを制度分析から明らかにすることを試みた。その結果,同改革は労働者に対する租税負担の軽減策こそが改革の主要な課題であり,所得階層ごとへの配慮だけでなく,同時に租税制度の内在的な問題をも克服しようとしたものであることを明らかにする。
著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.163-180, 2014 (Released:2021-10-26)
参考文献数
25

オランダにおける1990年税制改革では,社会保険料と所得税の制度的「統合」が行われた。本稿は,この税と保険料が統合された背景を明らかにし,統合の意義について考察することを目的としている。この統合は保険料と税の一元徴収というだけでなく,課税ベースや税率構造といった点までをも統合したことが特徴として挙げられる。税改正は狭い課税ベースの是正が課題であった。さらに,パートタイム労働を積極的に推進した労働政策によって稼得世帯モデルが変化してきたことで,従来の税制と社会保険料制度に不満が出てきていた。この統合に加えて,社会保険料の事業主負担分が被用者負担となった。そのため「調整加給金」という新たな制度が導入され,使用者はそれまでの負担分に相当する額を被用者に対して賃金に上乗せする形で補償しなければならなくなった。
著者
島村 玲雄
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.198-217, 2017 (Released:2021-08-28)
参考文献数
23

本稿は,1982年のワセナール合意を契機とする「オランダモデル」による経済回復において,財政制度がどのように変化し,どのように「成功」に寄与したのか,財政の視点から再検討するものである。政労使の政策協調による雇用政策として知られるオランダモデルに対し,財政再建が課題であったルベルス政権,コック政権の2つの政権がいかなる財政改革を行ったのか,制度の視点から明らかにした。その結果,両政権の財政再建策の手法は異なるものであったが,その後の経済回復への貢献は大きいものであった。またオランダモデルとして理解される新たな雇用制度が単独で機能したというわけではなく,政府による抜本的な財政改革によって実現したと理解されるべきものであった。