著者
島田 悠彦
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究ではランダム系の臨界現象や量子多体系のエンタングルメント・エントロピー(EE)の解析を、レプリカ法によって誘導される有効対称性である多層構造をもつ場の理論を通して行うのを目的としていた。具体的には、これまで研究されてきたゼロ次元ランダム系や1次元量子系に比べると現実的だが格段に難しい2次元ランダム系と2+1次元の量子系に関する結果を得るべく研究を進めた。ランダム系ではレプリカ層がバルクで相互作用するのに対し、量子系では層を張り合わせた境界のみで相互作用する場の理論となる。バルクに関しては前年度までに一定の成果を得たので、本年前半は境界に注目して2+1次元の量子臨界点の重要な例であるRokhsar-Kivelson点を一般化した状況における基底状態の波動関数を特徴づけるEEの普遍部分を主に調べた。この一般化には米や仏のグループの数値実験があるのみで解析計算がなかった。解析的にはEEは層の境界がもつ基底状態縮退(Affleck-Ludwigのg因子)の情報から決定できると考えられる。そこでレプリカ対称性と共形不変性の両方を併せ持つ「レプリカ型」境界状態をクーロンガスの方法に基づき構成し、g因子を層の枚数の関数として決定した。これにより繰り込み群のフローから数値結果を説明できた。EEの特殊値等、一部整合的でない部分が残ったものの、レプリカ対称性を共形不変性と組み合わせた場合に許される境界状態を具体的に書き下し特定したことは重要である。後半の仏滞在では、これまでとってきた径路積分描像と相補的である転送行列描像における付随代数や数値計算を用いてランダム系を解析して、二次相転移を示唆する繰り込み群の固定点の存在を確かめた。この相転移における臨界指数とフラクタル次元等を精度よく調べることは今後の課題である。