著者
河上 淳一 田原 敬士 宮崎 優 光野 武志 尾池 拓也 曽川 紗帆 宮薗 彩香 桑園 博明 嶋田 早希子 中村 雅隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2183, 2010

【目的】我々は第6回肩の運動機能研究会で、投球動作でのボール把持違いによる上肢帯の可動域変化を報告した。結果としては、ボール把持時の母指と示指の位置違いは上肢帯可動域に影響を及ぼさず、ボールと母指の接触面の違いは、3rdTRの可動域に影響していた。しかし、肩関節可動域の変化と投球障害発生は直結するものではない。そこで、今回は投球障害歴の有無に対し、身体的特徴とボール把持項目が投球障害発生にどのような順列で関わるかを検討した。<BR>【方法】対象は、中学生の軟式野球部で、野球歴が一年以上ある65名(年齢13.1±0.8/身長158.88cm±20.42/体重50.39kg±9.75)とした。対象者を、投球障害歴あり群19名(以下:あり群)(肩障害2名/肘障害13名/肩肘障害4名)と、投球障害歴なし群46名(以下:なし群)に分けた。群分けの方法は、過去に病院を受診し、肩または肘に対し投球障害の診断名が下ったものをあり群とし、野球経験の中で肩または肘に疼痛がなかったものや病院を受診しなかったものをなし群と決めた。障害歴に関与する因子、A.個人因子4項目(年齢/身長/体重/野球経験)、B.身体チェック36項目(両側SLR/HBD/HER/HIR/DF/HFT/CAT/2ndER/2nd I R/2nd TR/3rd ER/3rdIR/3rdTR/Elbow-Flex/Elbow-Extension/Supination/Pronation、一側FFD/Latissimus Dorsi)、C.ボール把持8項目(示指と母指の位置関係/母指とボールの接触部位/投球側握力/非投球側握力/母指示指長/母指中指長/示指中指長/ボールと皮膚の距離)、D.ボールの握りに対するアンケート12項目(a.握りを意識するかb.ポジションで握りは変化するかc.ポジションによって握りを気をつけるかd.キャッチボールと守備練習中では握りが違うと感じるかe.指にかかる事を意識しているかf.キャッチボールで縫い目を気にするかg.守備練習中で縫い目を気にするかh.理想の握りがあるか i.ボールを強く投げる時強く握るかj.ボールを強くに投げる時軽く握るかk.握りを習ったことがあるかl.ストレートを習ったことがあるか)を調査した。以上60項目に対し平均値の差の検定はT検定、独立性の検定にはχ二乗検定を行い、群間の有意差を確認した。そこで有意差が認められたものを説明変数とし、障害歴の有無を目的変数に設定した。その変数に対し、多重ロジスティック回帰分析を用いて、どのような順列で判別されるかを確認した。<BR>【説明と同意】本研究はヘルシンキ条約に基づき実施し、同意を得た。<BR>【結果】群間の結果は、A.個人因子では年齢(P=0.0002)、野球歴(P=0.0006)、身長(P=0.014)の3項目で有意差が認められた。B.身体チェックでは有意差を認めなかった。C.ボール把持項目では母指と示指の位置関係(P=0.0008)、母指示指長(P=0.0160)、母指中指長(P=0.0161)、ボールと皮膚の距離(P=0.0249)、投球側握力(P=0.0022)、非投球側握力(P=0.0091)の6項目で有意差が認められた。D.アンケートではa.(P=0.0000)、b.(P=0.0354)の2項目に有意差が認められ、これら計11項目を説明変数に採用した。ロジスティック回帰分析では、変数減少ステップ法を用いP値が0.2000以下になるまで説明変数を減少させた。結果として有意な変数が4項目選択され、P値が低値なものから順に年齢(P=0.0348)、母指と示指の位置関係(P=0.0407)、野球歴(P=0.0502)、アンケートb(P=0.0533)であった。<BR>【考察】一般的に投球障害は、フォームの乱れを持ち合わせたまま、投球を長期継続した結果起こるオーバーワークだと考えられている。本研究においても、オーバーワークの要素となりえる年齢と野球歴の説明変数に高い判別値を認めた。同様の結果が先行研究にあるため、今回の研究の妥当性がうかがえる。ボール把持に関しても、アンケートbと母指と示指の位置関係の説明変数に高い判別値を認めた。そのため、ボール把持は投球障害に強く関与していると考えられる。当院の先行研究をふまえて結果を考察すると、ボールと母指の接触面は上肢帯の可動域に影響を認め、投球障害に影響を認めない。一方で、母指と示指の位置関係は上肢帯の可動域には影響を認めず、投球障害に影響を認める。今回の結果だけではフォームへの影響などは検討できない。そのため、今後は症例数を増やし障害部位別で検討を実施し、ボール把持と身体的特徴との関連性を検討したい。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法場面での遠位運動連鎖を検討する重要性を示唆している。<BR>