著者
川上 恵治
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E1107, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】前頭葉損傷患者では自発性や意欲の低下、行動開始の遅延、衝動コントロールの不良などを伴うことが多く、これらの付加要因があるとリハビリテーションにのりにくい。今回、既往歴に小脳出血がある前頭葉症状を呈した症例を担当し、前頭葉症状の中核となる遂行機能障害に対し問題解決療法なる段階的教示を実施したところただちに改善が見られたが、その後拒否と易怒性のために理学療法実施が困難となった。認知症の辺縁症状を考慮して理学療法を実施した結果、著名な改善が見られた症例を経験したので報告する。【症例】62歳男性。介護老人福祉施設入所中平成18年6月14日熱発、6月19日誤嚥性肺炎で当院入院し絶食と補液。6月30日肺炎軽快。7月31日理学療法開始。既往歴は32歳腹膜炎、高血圧症、52歳小脳出血手術、多発性脳梗塞、高血圧症、平成18年1月腸閉塞。【初期評価】把握反射は両手陽性。動きは拙劣。左半身低緊張。体幹の立ち直り反応なし。意識清明。HDS-R6点。発語少ない。寝具に包まれ臥床している。寝返り、移乗動作全介助。端座位は左へ傾き立ち直ろうとせず。車椅子座位は左へ傾き背あてに押し付けている。食事動作全介助、排泄オムツ。問題点;1発動性の低下、2起居動作全介助、3食事動作全介助。ゴール:車椅子の生活、食事・トイレ動作の介助量の軽減。プログラム:1起居動作訓練、2食事動作訓練。【経過】段階的教示法に基づき動作を誘導した。起座は手すりを把持し軽介助。座位は口頭指示にて右へ重心移動可となり保持可能となった。車椅子座位は傾き、背もたれへの押し付けが減った。平行棒は介助にて1往復可能となった。食事動作は自力摂取可となったが、気が向かないと自力摂取せず、スプーンを持たせると拒否し怒った。同じように起居動作訓練も拒否し怒り実施困難となった。拒否されないように接し方を変え、一方的に誘導するのでなく本人の了解を一つ一つ得ながら実施した。その結果、拒否や暴言はなくなり訓練が可能となり食事も自力摂取するようになった。【退院時評価】拒否、易怒性が見られなくなり、食事動作は自力摂取となった。自発語が増加した。姿勢の傾きは減り体幹が安定してきた。排泄動作は訴えがなく実施できなかった。問題点:1発動性の低下、2起居動作要助、3排泄オムツ。【考察】認知症の評価は機能や生活上の問題点だけを課題抽出するのではなく、本人の能力や・願望・好みといった「したいこと」や「できること」をアセスメントする事であり、拒否や暴言は認知症の辺縁症状で、接し方により改善の可能性があると言われる。症例に対し評価の視点、接し方を変えることにより、辺縁症状が改善し理学療法の実施が可能となり効果が表れたと考える。
著者
川上 恵治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.3, 2010 (Released:2010-10-12)

【はじめに】認知症で前頭葉症状があり、介助が困難で褥創が多発している症例を担当した。寝返りは退院時まで出来なかったが、歩行が獲得でき介助量が軽減するようになった症例を前頭葉障害、感覚統合の障害の視点から治療したことにより効果が見られたので報告する。 【症例】71歳男性。既往歴:多発性脳梗塞、認知症。2009年8月発熱が続き寝たきり状態となり、重症肺炎で他院入院。8月25日病状軽快し当院転院。褥創が殿部、背部、後頭部,左肘、左踵部にある。8月27日理学療法開始。経鼻経管チューフ゛であったが9月14日全粥、キサ゛ミあんかけを全量摂取となる。妻と二人暮らし、妻は高齢のため自宅復帰困難。 【画像所見】CT(入院時)広範囲に脳萎縮。 【初期評価】(9月8日) 全体像:臥床し四肢でヘ゛ット゛を押し付けヘ゛ット゛柵を把持し離さない。指示が入らず協力動作は得られない。DIV,ハ゛ルーンカテーテル留置。意識状態:JCS 20-IA。発語は少ない。精神面:怒りや拒否はない。運動麻痺:著明でない。深部腱反射:左半身やや亢進。病的反射:陰性。前頭葉症状:覚醒障害、自発性の低下、運動開始の困難。把握反射:陽性。ADL:姿勢はベッド上で仰臥位でいる。寝返り・起座は全介助。座位は手で柵を把持し両下肢で突っ張り重心移動に抵抗。車椅子座位はハ゛ックレストに寄りかからないで座ると、そのまま寄りかからないで座り続ける。足部はフットレストに載せてもすぐ床に降ろす。 問題点:1寝返り・起座全介助。2食事摂取全介助。3把握反射と、押し付け。4多発褥創(殿部、背部)。 【経過】意識状態はJCS 3-_I_移乗・起立は安定した支持物に手を伸ばし動作を開始するようになった。起立は介助すると突っ張って抵抗し困難であったが、本人の動作の開始に合わせて誘導すれば可能となり、歩行もワイドベースで可能となった。11月15日褥創は仙骨部を残し治癒。退院日(2010年1月21日)まで寝返り・起座の協力動作は緊張し柵を把持し、突っ張るので得られなかった。 【考察】 寝返り・起座と、移乗・歩行の違いは、前者は後者に比べ重心移動が大きいことであり、支持面が広い面から狭い面へ変化が大きいことである。症例は認知症、前頭葉症状、固有感覚の障害のため、重心移動と支持面の変化に対応できず姿勢変換が困難である。また、視覚で代償できれば良いが、前者は頭部をベッドに押し付けているため、眼球の動きが制限され困難であり、後者は頭部の押し付けが無いので頭部・眼球の動きは制限されず、視覚からの代償が得られるので動作がし易いと考えた。