- 著者
-
川上 恵治
- 出版者
- 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
- 雑誌
- 関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
- 巻号頁・発行日
- pp.3, 2010 (Released:2010-10-12)
【はじめに】認知症で前頭葉症状があり、介助が困難で褥創が多発している症例を担当した。寝返りは退院時まで出来なかったが、歩行が獲得でき介助量が軽減するようになった症例を前頭葉障害、感覚統合の障害の視点から治療したことにより効果が見られたので報告する。
【症例】71歳男性。既往歴:多発性脳梗塞、認知症。2009年8月発熱が続き寝たきり状態となり、重症肺炎で他院入院。8月25日病状軽快し当院転院。褥創が殿部、背部、後頭部,左肘、左踵部にある。8月27日理学療法開始。経鼻経管チューフ゛であったが9月14日全粥、キサ゛ミあんかけを全量摂取となる。妻と二人暮らし、妻は高齢のため自宅復帰困難。
【画像所見】CT(入院時)広範囲に脳萎縮。
【初期評価】(9月8日)
全体像:臥床し四肢でヘ゛ット゛を押し付けヘ゛ット゛柵を把持し離さない。指示が入らず協力動作は得られない。DIV,ハ゛ルーンカテーテル留置。意識状態:JCS 20-IA。発語は少ない。精神面:怒りや拒否はない。運動麻痺:著明でない。深部腱反射:左半身やや亢進。病的反射:陰性。前頭葉症状:覚醒障害、自発性の低下、運動開始の困難。把握反射:陽性。ADL:姿勢はベッド上で仰臥位でいる。寝返り・起座は全介助。座位は手で柵を把持し両下肢で突っ張り重心移動に抵抗。車椅子座位はハ゛ックレストに寄りかからないで座ると、そのまま寄りかからないで座り続ける。足部はフットレストに載せてもすぐ床に降ろす。
問題点:1寝返り・起座全介助。2食事摂取全介助。3把握反射と、押し付け。4多発褥創(殿部、背部)。
【経過】意識状態はJCS 3-_I_移乗・起立は安定した支持物に手を伸ばし動作を開始するようになった。起立は介助すると突っ張って抵抗し困難であったが、本人の動作の開始に合わせて誘導すれば可能となり、歩行もワイドベースで可能となった。11月15日褥創は仙骨部を残し治癒。退院日(2010年1月21日)まで寝返り・起座の協力動作は緊張し柵を把持し、突っ張るので得られなかった。
【考察】
寝返り・起座と、移乗・歩行の違いは、前者は後者に比べ重心移動が大きいことであり、支持面が広い面から狭い面へ変化が大きいことである。症例は認知症、前頭葉症状、固有感覚の障害のため、重心移動と支持面の変化に対応できず姿勢変換が困難である。また、視覚で代償できれば良いが、前者は頭部をベッドに押し付けているため、眼球の動きが制限され困難であり、後者は頭部の押し付けが無いので頭部・眼球の動きは制限されず、視覚からの代償が得られるので動作がし易いと考えた。