著者
滝澤 恵美 内山 英一 片寄 正樹 泉水 朝貴 鈴木 大輔 藤宮 峯子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.239, 2010 (Released:2010-10-12)

【目的】股関節内転筋群としてグルーピングされている長内転筋や大内転筋は作用が筋名に付与されている。しかし、人が股関節の内転運動を行うことは稀であり、この作用以外の理解が荷重股関節では重要と考える。そこで本研究は、内転筋群の中でも特に大内転筋に注目し、股関節に対するモーメントアーム(以下、MA)を調べ、「矢状面(屈曲・伸展)」「水平面(内旋・外旋)」の作用を検討することを目的とした。 【方法】87歳女性の未固定遺体を第4腰椎の高さから脛骨近位端で切断し用いた。関節包と大内転筋以外は切離した。大内転筋は、貫通動脈と骨の付着部を目安に上部、中部、下部の3つに肉眼的に分類した。上前腸骨棘と恥骨結合部が床と垂直になるように骨盤の矢状面傾斜角度を決定し、骨盤をjigに固定した。大腿骨の自重による自然下垂位(垂線に対し約10°屈曲位)をゼロポジションとし、左側の大腿骨を屈曲・伸展方向に験者がゆっくり動かした。この際、骨上の任意点の座標は3D磁気式デジタイザー(Polhemus社製、FASTRACK)を用いて追従した。サンプリング座標の値を用いて関節角度、大腿骨骨頭中心、MAを算出した。大腿骨骨頭は球体として扱い、骨頭表面上3点の座標と日本人女性の平均骨頭半径(r=2.16cm)を使用し、非線形最小二乗法で推定した。MAは、推定骨頭中心座標と大内転筋の各部分の起始部と付着部を結んだ作用線との垂直距離を求めた。なお、本研究は札幌医科大学の倫理委員会で承認され、生前の本人と遺族に対しては身体の一部を解離して研究に用いることが説明され同意が得られている。 【結果】大内転筋の上部、中部、下部ともに股関節屈曲範囲では、伸展MAと外旋MAを有していた。矢状面のMAは、ゼロポジションにおいても伸展MAを有していた。なお、水平面のMAはゼロポジション付近を転換点とし伸展範囲では内旋MAとなった。 【考察】筋は「収縮」しかできず関節への作用は、関節中心に対する筋の位置によって決まる。すでに大内転筋の下部(坐骨結節~内側上顆)については「伸展作用」が示されている。今回の結果より、上部・中部についても下部と同様に伸展に作用するMAを含有する可能性が推察された。水平面上の回旋作用においては、股関節ゼロポジション付近を変換点に作用方向を変える特徴を持ち、内旋・外旋双方に作用を持つ可能性があった。大内転筋は、恥骨部~坐骨部に起始を持ち関節中心を前後に広く被う構造的特徴があり、多様な作用を含む筋であると予想される。今回は1股関節のデータによる結果であり今後も検討作業を行う予定である。
著者
相原 正博 西崎 香苗 廣瀬 昇 久津間 智允 池上 仁志
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.234, 2010 (Released:2010-10-12)

【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)の手術方法である人工膝関節全置換術(以下TKA)は,除痛及び下肢アライメントの矯正による他関節の負担軽減など その有効性は高い.横山らは,膝OA患者の立位時の重心動揺検査測定値が増加する傾向にあることを報告している.今回我々は,TKAを施行した患者の術 前・術後において下肢荷重検査を実施し,手術施行によるFTAの変化が重心動揺に及ぼす影響を検討した. 【方法】対象は膝OAと診断された手術患者から12名を無作為抽出し,本研究の同意を得た上で,術前・術後1ヶ月・術後3ヵ月以降の各時期に下肢荷重検査 を実施した.測定方法は,キネトグラビレコーダ(アニマ社製G-7100)を用い,静的立位姿勢の左右下肢別に計測した.測定時間は30秒間,測定回数は 1回とした.測定項目は下肢荷重検査から重心動揺検査の総軌跡長・単位軌跡長などとした.FTAはX線画像より計測し,手術前後のFTA変化量が10°未 満(n=5),10°以上の群(n=5),20°以上の群(n=2)の3群に分け比較検討した.統計学的解析にはt-検定を使用した. 【結果】総軌跡長(cm)の結果では術前と術後1ヶ月の差が10°未満群では-4.01±3.65,10°以上の群-2.43±6.43,20°以上の群 では-27.21±14.88であり,10°未満群と10°以上群に有意差はなかったが,20°以上群では10°未満群,10°以上と比較し,それぞれ有 意差(p=0.02,p=0.02)が生じていた.単位軌跡長(cm/秒)の結果では術前と術後1ヶ月の差が10°未満群では-0.13±0.12, 10°以上の群-0.08±0.22,20°以上の群では-0.91±0.50であり,10°未満群と10°以上群に有意差はなかったが, 20°以上群では10°未満群,10°以上と比較し,それぞれ有意差(p=0.02,p=0.02)が生じていた. 【考察】本研究結果において,手術によりFTAが著明に変化(20°以上)した群では,FTAの変化の少ない群(20°未満)と比較し,術後の総軌跡長と 単位軌跡長において増大傾向がみられた.このことはFTAの著明な変化は立位重心動揺に影響を与えていることを示している.よってTKAの術後理学療法を 行う際には,FTAの術前後変化に留意し,高度にFTAが変化した症例においては,重心動揺が増加している可能性が高く,早期理学療法時には重心動揺計などを用い,適切な立位バランスを評価することが必要であり,この点に着目して理学療法を実施することは歩行・立位バランスの早期改善に有効であるとことが 示唆された.
著者
足立 陽子 長 正則 田中 聡(MD) 三箇島 吉統(MD)
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.45, 2010 (Released:2010-10-12)

【はじめに】Pilon骨折は、軟部組織や足関節可動域に問題が多い骨折として知られ最も重度なRuediの分類タイプIII(脛骨遠位の圧迫と粉砕骨折を伴う)では、足関節拘縮を来たす等治療成績が不良という報告が多い。今回、本骨折の術後理学療法を行い比較的良好な可動域を得たので報告する。【症例紹介】54歳、男性、職業:足場設営。コンテナ(3m)から落下し受傷、当院受診。左Pilon骨折(Ruediの分類タイプIII)・踵骨骨折と診断され、観血的整復固定術及び腸骨骨移植を施行。踵骨骨折、内果骨折部は保存的に加療。術後24日目、退院。術後108日目、全荷重開始。術後138日目、仕事復帰。尚、本症例には症例報告させていただく主旨を説明し同意を得た。 【理学療法経過】理学療法は、術後1日目より左下肢免荷両松葉杖歩行訓練、筋力強化訓練、RICEを開始。術後7日目よりリンパドレナージ、動的関節制動訓練を開始。術後30日目、足関節可動域訓練、過流浴療法を開始。 【初期評価:術後30日】足関節可動域は、患側背屈-5°/底屈30°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、距腿関節前面及びアキレス腱部の伸張痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:不可、主観的基準:不可。【最終評価:術後318日】足関節可動域は、患側背屈10° /底屈45°、健側背屈10°/底屈50°。疼痛は、起床時の歩き始めと階段降時のアキレス腱部痛。Burwellの判定基準はX線学的評価基準:良、客観的基準:良、主観的基準:良。【考察】Pilon骨折は、脛骨遠位部の栄養血管が中枢側よりに入っている為、血行不全になりやすく周辺軟部組織の浮腫による足関節拘縮を来たしやすい。本骨折の治療原則は、手術による解剖学的整復・強固な内固定・早期関節運動・長期免荷であり、本症例においても同様に治療した。本症例は関節内粉砕骨折の整復に時間がかかり内果部骨折は保存療法となり、術後30日間足関節固定対応を要した。軟部組織変性による拘縮を予防する為、拘縮促進因子である浮腫・疼痛・栄養障害の早急な改善が必要と考え、固定期間中からリンパドレナージ・筋力強化訓練・RICE・動的関節制動訓練を実施した。可動域訓練開始時より、水治温熱療法後のストレッチと運動学に基づく他動的可動域訓練を実施した。また、ホームエクササイズとしてストレッチ及び可動域訓練を指導した。以上の様に疾患の特徴と術後の病期に応じたアプローチを選択し実施する事で、軟部組織の変性による弾性低下・骨格筋の短縮・疼痛を改善させ比較的良好な可動域改善につながったと考えられた。
著者
川上 恵治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.3, 2010 (Released:2010-10-12)

【はじめに】認知症で前頭葉症状があり、介助が困難で褥創が多発している症例を担当した。寝返りは退院時まで出来なかったが、歩行が獲得でき介助量が軽減するようになった症例を前頭葉障害、感覚統合の障害の視点から治療したことにより効果が見られたので報告する。 【症例】71歳男性。既往歴:多発性脳梗塞、認知症。2009年8月発熱が続き寝たきり状態となり、重症肺炎で他院入院。8月25日病状軽快し当院転院。褥創が殿部、背部、後頭部,左肘、左踵部にある。8月27日理学療法開始。経鼻経管チューフ゛であったが9月14日全粥、キサ゛ミあんかけを全量摂取となる。妻と二人暮らし、妻は高齢のため自宅復帰困難。 【画像所見】CT(入院時)広範囲に脳萎縮。 【初期評価】(9月8日) 全体像:臥床し四肢でヘ゛ット゛を押し付けヘ゛ット゛柵を把持し離さない。指示が入らず協力動作は得られない。DIV,ハ゛ルーンカテーテル留置。意識状態:JCS 20-IA。発語は少ない。精神面:怒りや拒否はない。運動麻痺:著明でない。深部腱反射:左半身やや亢進。病的反射:陰性。前頭葉症状:覚醒障害、自発性の低下、運動開始の困難。把握反射:陽性。ADL:姿勢はベッド上で仰臥位でいる。寝返り・起座は全介助。座位は手で柵を把持し両下肢で突っ張り重心移動に抵抗。車椅子座位はハ゛ックレストに寄りかからないで座ると、そのまま寄りかからないで座り続ける。足部はフットレストに載せてもすぐ床に降ろす。 問題点:1寝返り・起座全介助。2食事摂取全介助。3把握反射と、押し付け。4多発褥創(殿部、背部)。 【経過】意識状態はJCS 3-_I_移乗・起立は安定した支持物に手を伸ばし動作を開始するようになった。起立は介助すると突っ張って抵抗し困難であったが、本人の動作の開始に合わせて誘導すれば可能となり、歩行もワイドベースで可能となった。11月15日褥創は仙骨部を残し治癒。退院日(2010年1月21日)まで寝返り・起座の協力動作は緊張し柵を把持し、突っ張るので得られなかった。 【考察】 寝返り・起座と、移乗・歩行の違いは、前者は後者に比べ重心移動が大きいことであり、支持面が広い面から狭い面へ変化が大きいことである。症例は認知症、前頭葉症状、固有感覚の障害のため、重心移動と支持面の変化に対応できず姿勢変換が困難である。また、視覚で代償できれば良いが、前者は頭部をベッドに押し付けているため、眼球の動きが制限され困難であり、後者は頭部の押し付けが無いので頭部・眼球の動きは制限されず、視覚からの代償が得られるので動作がし易いと考えた。