著者
得丸 定子 川島 名美子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第48回日本家庭科教育学会大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2005 (Released:2006-01-13)

【目的】ペットロスは正常な適応反応であるが、飼い主が受けるストレスは様々で、情緒的・身体的症状が現れることもある。日本ではペットロスに関する一般の理解はあまり進んでおらず、文献や研究論文等も少ない。ペットロス・ケアに関しても、欧米諸国の知識や方法を直訳的に取り入れている現状である。 そこで本研究では、個人の性格・価値観・ペットの飼育経験等の観点から、ペットへの接し方・ペットロスの諸症状・対処法等について分析し、日本人の感性に合ったペットロス・ケアや学校教育における「いのち教育」の取り組みに資することを目的とした。【方法】本調査『ペットとペットを失うことに関するアンケート』(無記名、自記式)は、2004年4月_から_同年6月に実施した。調査対象は、新潟県・群馬県・千葉県・大阪府から各1大学、合計4大学679名である。調査内容は、「心理尺度に関するもの」82項目を中心に、「属性と信仰している宗教の有無に関するもの」「ペットの飼育経験に関するもの」「ペットの位置づけ・価値観に関するもの」「ペットを失った時の状況と対応に関するもの」の、計116項目と自由記述である。分析は因子分析(主成分分析、バリマックス回転)、分散分析、多重比較、比率の差の検定、KJ法を行った。 【結果・考察】1.因子分析結果心理尺度に関する質問項目について因子分析を行い、8因子を抽出。各因子名は第1因子“抑うつ型”、第2因子“協調・努力型”、第3因子“理解・共感型”、第4因子“自信型”、第5因子“宗教肯定型”、第6因子“情緒型”、第7因子“個性尊重型”、第8因子“内向型”とした。2.因子とペットロスとの検討各因子により、ペットの位置づけ・価値観、ペットロス時の心身の状況、対処法の違いが明らかになり、心理傾向により、具体的なペットロスへの対処法の手がかりが示された。3.「性別」「宗教」「飼育経験」とペット・ペットロスとの検討“性別”では、女性の方が男性よりも情緒的なペットロス反応を示した。ジェンダーバイアス的な価値観や子育てが影響し、感情を認めたり表出したりする段階で男女差が生じているものと考えられる。“信仰心”では、信仰心の高い人はペットロス時に悲嘆が身体症状として表れたり、他に傾聴を求めたり、ペットの安楽死反対論が示された。 “ペットの飼育経験の有無”では、飼育経験がある者の方が、ない者よりもペットを「守るべき存在」、「心の安らぎ」と捉えていた。これらの結果は、ペットの飼育を実際に経験することが、ペットの存在感を認識させることを示している。“ペットの喪失経験の有無”では、ペット喪失経験により「後悔」を覚え、ペットが自分にとって「心の安らぐ大切な存在」であったことに気付き、「守るべき存在」であると認識していることが示された。また、ペットの喪失経験者の方が未経験者よりも代わりのペットを欲している結果が示されたが、「代わりが欲しい」とは、なくしたペットと外見や習性などが同じ代替のものではなく、ペットという存在や、そこから得られる安らぎが欲しいと感じているものと考えられる。 以上の結果は、日常生活で死別経験が乏しくなっている現在の子どもにとって、ペット飼育や死別で経験する出来事、心理体験は「いのち」の重さを実感できる重要な教育内容を持つことを示している。4.自由記述の検討ペットを亡くした時の感情については「悲しみ」や「怒り」などの情緒的反応が回答の約半数を占めた。次に否定的反応が多く、内容は後悔と罪悪感の反応が大部分であった。ペットを亡くした悲しみから立ち直ったきっかけについては「時間の経過」が最も多かった。
著者
得丸 定子 川島 名美子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第49回日本家庭科教育学会大会
巻号頁・発行日
pp.10, 2006 (Released:2007-02-11)

【目的】 近年ペットロスという用語は一般化してきたが、わが国における学術研究論文数は一桁以内でまだ少ない。欧米では1984年から学術論文が発表されているが、ほとんどが米国の学術誌である。ゆえに、本研究では昨年本研究大会で発表した日本の大学生対象の調査項目と同一の調査を米国中西部の大学生を対象に行い、「いのち教育」を実践するための資料を得ることを目的とした。 【方法】 アイオワ大学の共同研究者の多大な援助を得て、調査「Questionnaire Concerning Pet and Pet Loss」を、2004年3月~同年6月にかけて、アイオワ州の3大学、ミズーリ州1大学の合計4大学の学生194名(有効回答率78.4%)対象に実施した。調査内容は「心理尺度に関するもの」82項目を中心に、「属性、信仰する宗教とその有無」「ペットの飼育経験」「ペットの位置づけ・価値観」「ペット喪失時の状況と対応」の計116項目と自由記述である。分析は因子分析(主成分分析、バリマックス回転)、分散分析、多重比較、比率の差の検定、KJ法を行った。 【結果】 1.因子分析結果 心理尺度に関する質問項目について因子分析を行い5因子抽出された。因子名は第1因子”自尊・自信型“、第2因子”努力・前進型“、第3因子”共感・協力型”、第4因子”抑うつ型“、第5因子”宗教肯定型”とした。 2.因子とペットロスの関連性の検討 心理傾向を表す上記5因子を高群と低群にわけ、それらの高低群と「ペットの位置づけ・価値観」「ペットを失った時の状況」「ペットを失ったときの自分自身の対処法」とを多重比較を行い、有差を検討した。その結果、心理傾向とペットの位置づけやペットロスの状況、対処法との関連性が得られ、各人に応じたペットロス対処を行うことへの手がかりが示唆された。詳細な結果は口頭発表で行う。 3.「性別」VS「ペットの位置づけ・価値観、喪失時の状況・対応」 性別では、女性のほうが男性よりもペットを失ったとき「誰かに話を聞いてほしい」「我慢せずに泣けばよい」「普段と変わらず接してほしい」の項目で有意に高い結果を示した。 4.「信仰心」VS「ペットの位置づけ・価値観、喪失時の状況・対応」 調査対象者の約9割が信仰する宗教を明確に持っており、信仰心の低い人のほうが「ペットを飼えなくなった場合、捨ててしまいたい」と答えた人が多く、信仰心の高い人の方が「ペットを失った時、代わりのペットを飼いたい」と答えた人が多かった。 5.「飼育経験」VS「ペットの位置づけ・価値観、喪失時の状況・対応」 本調査ではペット飼育経験者150名、未経験者2名であり、検定が成立しなかった。 6.「ペット喪失経験」VS「ペットの位置づけ・価値観、喪失時の状況・対応」 ペットを亡くした経験のある人のほうがない人よりも「安楽死をさせる」が有意高く、「ペットを亡くした時、新しいペットの飼育を勧めてほしい」は有意に低かった。 7.自由記述 ペットを亡くした時の思いは「悲しみ、驚き、怒り、寂しさ」の情緒的な反応が72%で最も多かった。悲しみから立ち直ったきっかけは「新しいペットを飼った、他のペットを大切にする」が23%で最多であった。 【考察】 心理尺度では日本は8因子、米国は5因子であり、そのままの単純比較はできなく、日米比較の詳細は次発表で行う。米国では信仰を持つ割合や飼育経験が高いこと、ペットロス研究は日本と異なり約20年も前から取り組まれていることがペットロスとその対処との関連性に影響を与えていると考えられる。日米比較は次回行う。